表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Bright Swords ブライトソード  作者: 榎戸曜子
Ⅲ.夜半の月
178/533

3.ファニの攻防⑬(挿絵あり)

「お話し中とは存じておりますが、急ぎということで……失礼いたします」

 城の兵がウスキを連れてきた。

「ウスキ」

 クルドゥリの三人の顔が明るくなる。

「シン様、シャギル、ナッド殿が到着しました」

 ウスキはそう言って微笑んだ。

「やっと来たか」

 シャギルが嬉しそうに立ち上がり、キアラとフリントは目を見交わした。

「行ってみよう」

 シンも立ち上がり、全員が正門に向かった。


 表門の方が騒然としている。たくさんの兵が行き来し、城内に次々と物資が運び込まれ、そこには手際よく指示をするナッドの姿があった。

 ナッドはシンの姿を見ると近づき、膝をついた。その後からグリフィスとリアンスが駆け寄り、ナッドに(なら)う。

「そんなことはいい。三人とも立ってくれ。来てくれて嬉しいよ」

 シンの言葉にナッドたちは立ち上がり、シンを見た。

「まさか、シン様がウルス王の御子だったとは」

「うん。ほんとにまさかだ」

 困ったように言うシンに、ナッドはクイヴル軍式の礼をとった。

「ゲヘナの炎を封じ、神殿もろともその発射施設を破壊して下さったこと、感謝いたします。そして、今度こそ我々もお役に立てることを嬉しく思っています」

「こっちこそ、パシパでは助けてくれてありがとう」

「あれしきのこと」

 ナッドは答えた。その様子を見ていたキアラとフリントは、自分たちの目を疑った。

(シャギルの奴、今度城に来るのは海賊だと言っていた。どうせ、あいつに輪をかけたような無礼な奴だと思っていたが、全然違うではないか)

 キアラはシンの前に立つ立派な武将にしか見えないナッドを眺めた。

「ご自分がウルス王の御子であることを知られたのは、いつでございますか?」

 ナッドは微笑んだ。

「ナッドと別れた後、パシパでストー先生から聞いたよ。ところでナッド、その堅苦しいのはやめてくれないか? パシパでは助けてもらったし、今度の力添えにも本当に感謝しているんだ」

「感謝などと……それに、感謝していただけるかどうかは、これからわかります。シャギルにも言われています。実際どれほど役に立ってくれるのか、それが大事だと」

「当然だろう」

 シャギルは笑った。


 再び部屋に入り、くつろいだ全員をシンは見渡した。

 大きな窓から入る風が心地よい。

 空が高かった。

「それにしても、久しぶりだな、ナッド」

 シャギルが言った。

「ああ、あの時の約束をやっと果たせるときが来た」

 ナッドの言葉にシンの表情が引き締まる。

「ナッドの連れてきた五千の兵はナッド、スオウ、シャギルで分けて指揮してもらう。ルリは志願兵をまとめてクロシュと、この城を守って欲しい。これにストー先生の八千が加わる。ナッド、我々の相手は二万、兄上の右腕ライゴルの軍だ」

「わかりました」

 ナッドは答えた。

(この男は……何も聞かないのか? こちらは寄せ集め、相手は歴戦の二万の軍勢だぞ?)

 キアラはナッドの様子を窺ったが、何の迷いも見えない。

「僕はキアラの率いるグラン兵とライゴルを襲う」

 自分の名が出て、キアラは慌てて頷いた。

「いくら何でもお前とグランの兵だけで本陣をつくとなると危険じゃないか?」

 さすがにシャギルが言った。

「何だと?」

 キアラがむっとする。

「ルリが何とかしてくれるだろう。そのための火薬だ」

「任せて。派手な戦いになるわね」

 ルリは頷いた。

「シンを援護しよう」

 スオウが言った。

「よし、それじゃ、俺とナッドが左右で大いに暴れてやる。その常勝将軍とやらが育て上げた奴らに、冷や汗をかかせてやるよ。さあ、そうとわかったらナッド、作戦会議だ」

 シャギルが腰を上げたところで、シンが言った。

「ルリ、志願兵は戦いに慣れていない。でも、これをきちんとした部隊に育てなくてはならないんだ」

「わかったわ。任せてちょうだい」

「フリント、クロシュの町に目を光らせていてくれ」

「はい」

 おのおのが部屋を出て行く。キアラもシンに続いて部屋を出た。城の回廊からは城の庭を行き来する兵が見える。クイヴル人やススルニュア人以外の姿もあった。

(私はグランのキアラだ。だが……)

「シン様」

 自分を振り返ったシンにキアラは思わず言っていた。

「必ずお守りいたします」 

 シンは驚いてキアラを見た。

「いや、僕のことは気にしないで欲しい。兵の指揮は全てキアラに任せる。僕はどうしてもライゴルをしとめなくてはならないから」

「そんなわけにはいきません」

「ありがとう、キアラ」

 シンは僅かに笑みを浮かべると、物資を運び込む兵の方へ向かった。


 兵と物資を自分の目で確認しにやって来たシンの姿を認めて、ナッドの副官リアンスが駆け寄った。

「シン様、今、兵を三つに分けているところです」

「ススルニュアの人が目立つ」

 シンは言った。

「はい。ですが、我々の仲間には多くのクイヴル出身者がいます。やっとこの日が来たと、皆、気が張っています」

 シンに気づくと兵たちが一様に手を止め、一礼する。

「海賊の時とはずいぶん違う」

 呟くシンにリアンスは笑みを浮かべた。

 そこへルリが近づいてきた。

「シン、ライゴル軍は予定通りにこちらに向かっている。このまま行けば数日でクロシュにつくわ」

「それまでに各隊の形を整えなくてはならないな。だが、リアンス、長旅で疲れただろう。今日は皆を早く休ませたらどうだろうか?」

「果たしてそれができますかどうか。久しぶりのファニで興奮している者も多いようですから」

 リアンスはきびきびと働く仲間たちの顔を見て答えた。



   挿絵(By みてみん)

   


   五十鈴様より頂きました、キアラです。

   五十鈴様、どうもありがとうございました!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ