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Bright Swords ブライトソード  作者: 榎戸曜子
Ⅲ.夜半の月
177/533

3.ファニの攻防⑫

 その日、久しぶりにビャクグン以外のクルドゥリの仲間が揃った。

 昨夜はぐっすりと眠り、朝から思い切りスオウと体を動かしたシンはすっきりとした顔をしていた。

「シンはいろいろとため込むタチだからな。さすがに俺もスオウのような父親的な大きさはない。せいぜいお兄さんといったところだ」

「お前が現れると、とたんにうるさくなる」

 キアラが嫌な顔をした。

「兄か」

 シンは呟いた。

「これからどうする気だ?」

 シャギルが聞いた。

「とにかく、スオウの話を聞いてからだ」

 スオウはシンに頷き、その場にいる者たちを見回すと話し始めた。

「ナイアス殿のところにいたミロワからシンがウルス王の息子であると知ったエモンは、シンの状況を探るため、すぐに一隊を送った。それはこちらで壊滅させたが、エモンはシンが城を奪ったことを知っている。恐らく、クロシュ周辺にいる配下から報告が入ったのだろう。自分の城を奪われたエモンとしてはすぐにでもこちらに急行したいところだろうが、今こちらに全勢力を振り向けることはできない。ナイアス殿が健闘しているからな。こちらに向けてくるのは二万」

「スマンスとの距離を考えると、いくらスオウ殿でもこんなに早く、しかもそこまで知ることなどとてもできないはずだが……」

 フリントが言った。

「今更そんなことで驚かないでもらいたいな」

「スオウが持ってきた情報なら間違いないわ」

 シャギルとルリが即座に答える。

 スオウは続けた。

「こちらに向かう軍の中にエモンはいない。これは、シン、お前にはろくな兵力かないと判断してのことだ。それでも二万の兵を割いた。今度こそ、お前を捕らえる気だ」

「シャギル、兵と兵糧はいつ、どのくらい手にはいるだろう?」

 シンに聞かれて、シャギルはにやりと笑った。

「今日の午後には両方とも届くよ。兵の数は五千ほどだが、使える。お前も覚えているだろう? ナッドに手配してもらったんだ」

「ナッドが?」

「パシパで別れてからも、クルドゥリはナッドと連絡を取り合っていた。それで俺もウスキに頼んで使いを出したんだよ。もうルシィラ港に着く頃だ。ナッドが連れて来る兵も、兵糧も、スマンスに気を取らているエモン軍の目を盗んでラル川を上ってくる」

「シャギル殿、ナッド殿とは?」

 フリントが聞いた。

「ああ、俺たちがエモンに追われていたシンとアイサを助けて船に乗せ、パシパへ向かって旅をしていた途中で知り合った海賊なんだが、今はいっぱしの貿易商として活躍している」

「海賊に知り合いがいたとはな?」

 キアラはうろんな目つきでシャギルを見た。

「人生、何事も出会いが大事ってな」

 シャギルは明るく言うと、疑わしい様子で見ているキアラとフリントに笑いかけた。

「ナッドの兵が五千、志願兵二千、そしてストー先生の率いる兵が……」

 シンはスオウを見た。

「少しずつ増えている、今は八千ほどだ」

「すごいわ」

 ルリが言った。

「それにしても、まだ敵の数が勝っている」

 キアラが腕を組む。

「いや、これだけいてくれたら十分だろう」

 そう言いながらも、シンはまだどこか考える風だった。そんなシンに目をやってスオウは言った。

「ストー殿の軍は、国境からこちらに向かって動き始めている。エモンの軍に備えて、ファニの城の北西の森にある砦に陣取ることになるだろう」

「わかった。ところでスオウ、兄上の二万の兵を任された将のことは何か知っているか?」

「ああ、エモンの右腕と称されるライゴルだ。勇猛果敢で今まで負けなしと言われている」

「策を弄するのかな?」

「いや、どちらかというと堅実な戦い方をする。自分の兵は自分で育て、自分の手足のように扱うという評判だ」

「たたき上げね」

 ルリも言った。

「数の上ではこちらが不利だが、ルリ、何とかなるかな?」

 シンはルリに聞いた。

「用途に合った火薬を用意するわ」

「任せるよ」

 それからシンはシャギルを見ると唐突に言った。

「ところでシャギル、ルシィラ港から戻る途中で気になったことは?」

「何のことかな?」

 シャギルはシンを見た。

「ルシィラ港はファニの南端にある。スマンスの様子も伝わってくるだろう?」

「わかったよ。いい話じゃあないが、気になるなら話そう」

 シャギルは肩をすくめた。

「ここに戻るまで、スマンスの噂を何度となく耳にした。領主が籠城しているくらいだから仕方ないんだろうが、スマンスの領内では食料が足りない。ナイアス軍が籠城してエモン軍とのにらみ合いが長引けばスマンスから逃れた領民も、スマンスから離れられない領民も飢える。病もはびこるだろう」

「それは困ったことですが、今の我々の状況に直接関係することではないのでは?」

「フリント殿、それはどうかな? ナイアス殿は極力兵を減らさない努力をするつもりだろうが、領民の窮状を見れば、ナイアス軍の窮状も知れる。ぐずぐずしていると、俺たちは手に入れることのできる戦力をみすみす失うことにもなる」

 シャギルは答えた。

「ナイアス殿を失いたくない」

 シンが頷いた。


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