3.ファニの攻防⑩
翌朝ソファーの上で目を覚ましたシンは、起き上がってカーテンを開け、窓を開いた。
白々と夜が明け始めている。
(スオウもシャギルも、まだ城に戻れないのか?)
シンは身支度を調え、部屋を出た。
その主をラダティスからエモン、そしてシンに変えたファニの城からは、すでに戦いの痕跡が綺麗に拭き取られている。
シンはかつて自分が育った城の庭をゆっくりと歩きながら、裏庭の方へ足を向けた。
その足がぴたりと止まる。
「早起きだな、シン」
「スオウ、帰っていたのか?」
相変わらずその気配を悟らせず近づくスオウを振り返って、シンは心からの笑みを浮かべた。
「ああ、ルリの話じゃ、いろいろ疲れているようだったから、昨夜は遠慮したが……元気そうじゃないか?」
「スオウの方こそ、あちこち飛び回って疲れているんじゃない? こちらに向けられた兄上の偵察隊はどうなった?」
「壊滅。こちらの手の内を知られたくない。だが、エモンはお前がこの城を落としたことを知っている」
「ああ、さすがに兄上だ……スオウ、頼みがある。久しぶりに稽古をつけてくれないか?」
シンの顔から笑みが消えている。
「いや、だが、お前にはあの剣があるじゃないか?」
スオウは思わずそう言ってしまったが、シンは思い詰めた顔をしていた。
「いや、自分で戦わないとナハシュに捕らわれる。僕があいつを使うためには、僕は僕の力をいつでも呼び覚ましておかなくてはならないんだよ」
「ナハシュとは、あの剣のことか?」
「うん。そしてあいつは……僕自身でもあるんだよ」
スオウは首をかしげ、それから笑った。
「いいだろう。少しは進歩したかな?」




