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Bright Swords ブライトソード  作者: 榎戸曜子
Ⅲ.夜半の月
174/533

3.ファニの攻防⑨(挿絵あり)

 翌朝から城の修復が始まった。

 中でも、シンによって吹き飛ばされた門の取り替えは急を要した。

 どうやってこれほどの門を打ち破ったのか誰もが首をかしげたが、とにかくほんの小一時間でマクヒルを討ち、この城を奪ったシンに対して、人々の間に畏敬の念が生まれ始めていることは確かだった。


 ファニの城を手に入れると、ルリはスオウやクルドゥリの仲間と連絡を取り合い、グランの商館の主フリントと協力して次々と火薬や武器を城に運び込んだ。

 シャギルはグラン兵たちの好奇の目をうるさそうにかわし、城を出てラル川沿いにルシィラ港へ向かった。

 シンはそのシャギルを待っていた。

(シャギルの連れてきてくれる兵の数によって、こちらの戦い方も変わるだろうが……今スマンスにいる兄上の軍が五万。兄上はナイアス殿との戦いの中から、どれほどの数をこちらに割くだろう? いや、それどころか、もし、兄上がナイアス殿に停戦を申し出たら? ナイアス殿が兄上との停戦に合意すれば、こちらは五万の軍を相手にすることになる。いや、ナイアス殿が兄上につけば、さらに二万……)


「シン、ちょっといいかい?」

 ラダティスの使っていた執務室の窓からラル川を眺めていたシンに、セグルが近づいた。

「あ、セグル。町の方はどうだい?」

 頻繁にファニの城とクロシュの町を行き来しているセグルにシンは聞いた。

「士気が上がっているよ。エモンとの戦いに加わりたいっていう者も多い。おい、シン。お前、眠ってないな?」

 セグルはシンの顔を見て眉を寄せた。

 シンはそんなセグルから目を逸らして言った。

「それより町の方のことだが、水と食べ物、そして病人には十分気をつけて欲しいんだ。オスキュラの中には戦術として伝染病を使う集団があるらしい」

「わかった。町の方は任せておけ」

 セグルはシンを安心させるように大きく頷いて見せた。

「チュリとカヌはどうしてる?」

「張り切っているよ。見せてやりたいぐらいだ」

 シンの顔にほんのりと笑みが浮かんだところで、部屋のドアがノックされた。

「シン、入るわよ」

 ルリだった。

 外から帰ったばかりなのか、その頬が上気している。

「ルリ、何か?」

「火薬と武器は、ほぼ揃ったわ」

 ルリはてきぱきと答えた。

「早いなあ」

 感心するシンに、ルリは上機嫌で言った。

「クロシュの職人は使えるわ。シンの言うように製造過程を工夫すれば欲しい武器が大量に用意できる」

「うん。それで、クロシュ周辺で怪しい動きは?」

 シンの表情が引き締まる。

「今のところないわ」

 ルリは答えた。

「で、スオウはこっちに来てくれるだろうか?」

「もちろんよ。ストー殿と手はずを整えてこちらに向かっているわ」

「シャギルはいつ戻るかな?」

 シンはラル川に目をやった。

「今夜にも戻れるんじゃないかしら? 帰ったらまっすぐシンのところへ行くわよ。だからシン、少し休んだらどう?」

 セグルはルリに感謝の視線を送ると、大きく頷いた。


 その夜、シンはかつての自室に入った。

 城を奪った夜以来だった。

 部屋は居心地良く整えられていた。

 シンは自分のベッドに横たわった。だが、困ったことに、目は冴えるばかりだ。

(この城を出る前は、全てが明るい光の中にあるようなものだった。たとえ、自分の両親のことを考えて心許(こころもと)ない気持ちになったとしても、好きな本があり、ストー先生の提供してくれた居場所があった。それに、ラダティス父上は、いつも僕の気持ちを尊重してくれていた。今は……何もかもが違っている。どこまで続くかわからない暗闇の中にいるようだ。それでも、あの頃に戻りたいとは思わない。僕はもう、自分の道を歩き出してしまった。引き返すことはできない)

 シンはベッドから出るとソファーに横になり、剣の柄を握った。それが、いつの間にかシンの習慣になっていた。

『ナハシュ、アイサは?』

 シンは聞いた。

『さあな。ここからでは遠すぎる。アイサの剣の気配も感じられない』

 ナハシュの声が直接シンの頭に伝わる。

『遠くか……』

 それでもシンは呼びかけてみる。心に暖かいものが触れ、ようやくシンは眠りに落ちた。


挿絵(By みてみん)

sanpo様より頂きました。海辺のアイサです。


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