3.ファニの攻防⑦
「ほう、エモン様の弟君は腕に自信がおありか」
マクヒルはにやりと笑ったかと思うと、信じられない速さでその剣を振るった。
振るわれてみると、それは普通の剣よりもかなり長いものだった。その上、その大きな体と比例してマクヒルの腕は長い。振るわれたときの剣の距離も、その威力も予想以上だった。
シンはマクヒルの剣をかわし、改めてその間合いを計った。しかし、それを見越したように、マクヒルの部下たちがシンの後ろの空間を詰めてくる。
それでも彼らはマクヒルに遠慮して手を出そうとしない。このような状況に慣れているのだ。
マクヒルの部下たちは、始めからこの勝負を楽観して見ている。そんな彼らに、シンは容赦なく剣を振るった。
振り向きざまに振るったシンの剣が、油断したマクヒルの部下を薙ぐ。なんとかその剣を逃れて、震える手で剣を構えた一人の兵の喉を、シンの切っ先が容赦なく切った。
「うっ」
これを見て体が固まって動けない部下に、マクヒルは怒鳴った。
「構わん。こいつを討ち取れ」
その声に弾かれて、彼らは一斉にシンに向かって剣を構えた。
再び襲いかかるマクヒルの剣を受け止めると、シンは軽やかに身を翻す。シンのいた場所を空しく敵兵たちの剣先が突く。そして……次の瞬間、信じられない突風が兵たちを襲い、その身体をまとめて城の壁へ叩きつけた。
唖然としてシンを見つめるマクヒルを振り返ってシンは言った。
「これで終わりにさせてもらう」
「追われる身のお前が何を生意気な。お前はエモン様の義理の弟とはいうものの、それはラダティス公の温情に過ぎん。今までどんなところに隠れていたかは知らんが、どうせまた誰かの温情に縋り、みじめな……」
だが、マクヒルは最後まで言うことはできなかった。
シンの剣がマクヒルの首を薙ぎ、間髪を入れず、かろうじてその場に残っていた兵をも絶命させた。
生き残った者はいなかった。
目の前に転がった屍を静かに見下ろすシンの背を、シャギルはじっと見つめた。それからゆっくりと近づく。
「そろそろ、キアラを呼ぶか?」
シンは振り向かなかった。
「ああ、頼む。みんな無事か?」
シンは抑揚のない声で聞いた。
「かすり傷一つないはずだ」
シャギルは答えた。
「そうか。良かった」
シンはほっと息を吐くと、後からやって来たルリに顔を向けた。
「表は片がついたわ。ここも終わったようね」
ルリは血の海に倒れるマクヒルに目をやった。
「オウニたちは?」
「門を守っているわ」
「ウスキは意識のある兵の間を回って、最後の情報集めをしているよ」
シャギルが言った。
「抜け目がないな」
そう言うと、シンは息絶えた敵兵の躯の間を何事もなかったかのように歩き出した。




