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Bright Swords ブライトソード  作者: 榎戸曜子
Ⅲ.夜半の月
162/533

2.二人の王族②

 その日のうちにシン、シャギル、ルリの三人は、グランの商館を後にした。

「ファニはスマンスから離れた地だが、俺たちは身軽だ。ナイアス軍がエモン軍にぼろぼろにされる前に、ナイアス殿の顔を拝めるだろう」

 軽やかに馬を走らせながら、シャギルが言った。

「ナイアス軍の実力の程も知りたいわね」

 強行軍であるはずの旅だが、ルリも明るく答えた。


 スマンス領へは、まずファニ領を南に向かわなくてはならない。ファニ領から隣のソル領を通り抜け、スマンス領へ入る街道をシン、シャギル、ルリは取ったが、そのあたりは海路の方が発達しているので、街道といっても規模が小さい。

 太陽が沈むそのぎりぎりまで、シンはクルドゥリの二人に遅れることなく馬を駆った。

 アイサのような人馬一体となった技とは違うが、シンもすばらしい乗り手である。野宿も慣れたものだ。

 危険な旅を、ただ生き延びるためだけに続けていたシンではなかった。その間に身に着いたものは多い。

 スマンスに入ると、街道はスマンスから逃れてきた人々で混雑してきた。

 家族とはぐれた子ども、疲れ果てた人々、その中に、目つきの鋭い者も混ざっている。

「こんなところでオスキュラやエモンの手の者に煩わされたくないな」

 シャギルは言い、そこで彼らは街道を避け、脇道を使った。何回か物取りにも出会ったが、彼らの敵ではなかった。


 暫く脇道を行ってスマンス領主ガドの城があるアヴェに近づくと、シン、ルリ、シャギルは再びスマンスの街道に戻り、ガドの城を目指した。

 アヴェの城下町は、既にサッハ軍によって蹂躙(じゅうりん)された後で、今や閑散としていた。

 シン、シャギル、ルリの三人は、品物の消えた商店を覗いた。

 葬り手のない遺体がそこここに転がり、異臭を放っている。

 生き残った住民は既に姿を隠し、美しかったはずの大通りを飾る草花は世話をする人もなく、萎れていた。

「やれやれ、これじゃあ、山の中の方がよっぽど賑やかだったな」

 町や人混みが大好きなシャギルがこぼした。

「見て」

 ルリが大通りの先を指差した。 

 そこに見えたガドの居城は、まだ煙がくすぶっている。近づいてみると城の周辺は黒く焼け焦げた木々や、建物の跡が残るだけの焼け野原となっていた。

「もうこんなにやられちまったのか」

 シャギルが溜息をついた。

「ナイアス殿は場所を移したわね」

「兄上の軍は南の丘陵を向いている」

 廃墟となったガドの城から離れて南方に(うごめ)く大軍が見える。

「ははあ、ガドの山城だ。ナイアス殿は早々と籠城する気だったな」

 シャギルも小高い山に見えるスマンスの山城と、それを見上げてにらみを利かせるエモン軍を見た。

「城はともかく、住民の被害が多すぎる」

 シンは呟いた。

「ああ、奴らは、都からやって来るエモン軍を迎える前に街に潜んでお膳立てをしておいたな。容赦なくスマンスを叩いて民を怯えさせ、エモンに反対する力を()ぐつもりだろう」

 シャギルは言い捨て、三人は黙ってガドの山城へ馬を向けた。


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