1.クロシュの仲間⑩
地下の隠れ家から外に出ると、もう夜明けが近づいていた。
凍てついた空気の中に清浄な緑の香りがする。
「さすがにこの森は変わっていないな」
シンは胸いっぱい懐かしい森の香りを吸い込んだ。
ストーの隠れ家からラダティスの城を囲む森を通り、クロシュの町に入ると、そこここに城の牢から抜け出したチュリやジェリノたちを探すエモンの兵がいる。だが、ベールで姿を消したシンとチュリ、そしてジェリノとその仲間は堂々とクロシュの町を行き、グランの商館前までやって来た。そっと商館のドアを開け、中に入る。ほっとした彼らの前には、腕組みをするシャギルがいた。
「おい、ルリ、ようやく不良王子がお帰りになったよ。どうやらお友達もご一緒のようだ」
姿を消したシンたちを前に、シャギルは確信をもって言った。
彼らがベールを取って姿を現す。
「よしなさいよ、シャギル。どうやら怪我はなさそうね? だけど、クロシュに着く早々、シンが城から友だちを助け出すなんて、私たちでも考えていなかったわ」
奥からキアラとやって来たルリが一団を眺めながら言った。
「ルリ、シャギルも……昨夜のこと、知っていたんだ」
「当たり前だ。だが、今回は、お前の行動は十分予想できると思っていた自分の甘さを思い知ったよ。お前はもっと優等生タイプだと思っていたんだけどな」
「無鉄砲さにかけては、アイサの方がどうしても目立ってしまうから、仕方がないわね」
ルリが苦笑する。
「まあ、お話はお食事の時にでもゆっくり聞かせていただくことにいたしましょうか。お連れの方もいらっしゃいますし」
難しい顔を崩さず、キアラが言った。
朝食を食べながら、シンは昨夜から今朝方にかけての顛末を説明した。
「サッハからいらっしゃったとおっしゃいましたな?」
このグランの商館の主、フリントがテーブルに着いたジェリノに聞いた。
「はい。私たちはサッハで暮らしに困っている人たちを手助けしていたのですが、エモンのやり方に我慢ができなくなったのです。そんな時に、オスキュラからパシパの炎が失われ、神の雷の脅威がなくなったと知って、今なら頭からオスキュラに押さえつけられているこの状況を変えられるのではないかと思いました。そのためには、まずはもっと仲間が必要です。そこで我々はファニに目を付けました。ファニはエモンの故郷ですが、未だにラダティス様を慕う者も多い。ここでエモンを足元から脅かすことができればと、我々はこのファニを訪れたのですが……」
「エモンの兵に捕らえられたのですね?」
フリントが続ける。
「そうです。エモンは周到でした」
「仲間を集めると言えば……ジェリノ殿、あなたなら、ストー殿のことをご存知でしょう? あの方もエモンに対抗する兵を集めていますから」
フリントは聞いた。
「はい。サッハでもストー殿のことは耳にしていました。しかし、ストー殿はウルス王に仕えていた方。それに呼応しているのも王統派の方たちだったので、我々は一線を画していたのです」
ジェリノは答えた。
「俺は王統派でもなんでもないが、クイヴルのために戦う気ならあるんだ。そういう仲間なら、このクロシュには結構いる」
チュリがジェリノにセグルやカヌ、そして仲間のことを話し始めた。
「サッハのジェリノ……なかなかの者をつり上げましたな?」
熱心に話し込むチュリとジェリノを見ながら、フリントはシンに囁いた。




