5.月は東に日は西に⑦
「おい、あれか?」
石造りの質素な砦近くの川辺に並ぶ小舟を見てシャギルが言った。
「そうだ。村人が普段使っているものだから、粗末なものだが」
キアラは答えた。
「グラン任せ、か」
ルリがつまらなそうに言う。
「確かに、奴の世話になるようで面白くないかもな」
シャギルがキアラを見て鼻を鳴らすと、シンは笑って小舟に近づいた。
「でも、これが最善じゃないかな?」
数隻の小舟が夜の川を進む。
その中の一隻はスオウが操っていた。
その舟にはシン、シャギル、ルリ、キアラ、そしてストーが乗り込んでいる。
月が輝き、みなが吐く息が白い。
川面を照らす小さな灯りを見つめていたシンに、キアラが試すように言った。
「ここでオスキュラに見つかれば、我々はたちまち窮地に立たされますね?」
シンはゆっくりキアラの方を振り向いて微笑んだ。
「村人に扮した兵に舟の護衛をさせると仰ったのは、キアラ殿ですよ? それに、キアラ殿はクルドゥリの力をご存じないからそんなことを仰るんです。こうしている今も、クルドゥリの仲間が我々の行く手を守ってくれています」
「そういうことだ。国を出る前に多少の手は打ってきたからな」
こう言いながらも、シャギルは川の両岸に注意を向けている。
「どちらかというと、陸地で戦いたい。泳ぎは得意だが、冷たいのは苦手だ」
シャギルの言葉に、キアラは笑って同意した。
「贅沢は言いたくないが、確かにそうだな。それにしても……まさか、あの方が次期長老とは」
キアラは上流を振り返った。
「ビャクか? あまりかかわらない方がいいと思うぜ? 見た目は美人だがな」
シャギルはいたずらっぽく言った。
「おしゃべり」
ルリが口を挟む。
「どういう意味です?」
答える気のないルリに代わってシャギルが意味ありげにウインクした。
「ただの親切だよ。お前はどうもシンみたいに勘がいいわけでもなさそうだからな」
スオウは怪訝な顔をするキアラを見て小さく笑い、それから黙って輝く月を見上げているシンに目をやった。
「とてもこれから国を奪おうという顔ではないな」
スオウはそっとシンに声をかけた。
「国は奪うものではないよ」
月を見上げたまま、シンはぼんやりと答えた。




