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Bright Swords ブライトソード  作者: 榎戸曜子
Ⅱ.古の国
102/533

3.ファマシュの客①

 はじめは確かに落ちたのだと思った。そのうち急速に外に押し出されているという気がしてきた。

 虹色の光の中でいくつかの殻を通り抜けたと思うと、再び光が弱まり、闇が近づく。

 シンの体が止まった。

(それとも僕の周りが止まったのか?)

 目の前に立っていた大巫女ガルバヌムが笑った。

「たいしたものじゃな、あの蛇を呼ぶとは。お前はこれから先、あの蛇を抱え込んで生きることになるぞ? それでもいいのか?」

 シンは静かな笑みを浮かべた。

「もともとあの迷いは自分の中にあったものです」

 ガルバヌムは頷いた。

「あれは、これからお前を守るだろう。今度はお前の迷いを断ち切る者として」

「それはどういうことでしょう?」

「今にわかる。とにかく間に合ったようじゃな。おや?」

「シン、良かった。どこも何ともない?」

 アイサが洞窟に駆け込んできた。

「早いな、アイサ。だが、何故シン殿が戻ったとわかった?」

 ガルバヌムは目を細めた。

 ほんのりと香る神殿で使われる香。シンはあの不思議な深みのある香りを思い出した。

「ありがとう、アイサ。君、僕のところに来ていただろう?」

 シンは心から微笑んだ。

(シン、こんな風に笑うんだ?)

 アイサは驚き、シンを見つめた。

「シン……気がついていた? 一生懸命思念を飛ばしてみたのよ」

「まさか、アイサ、お前、ゼフィロウの科学技術を抜けて入り込んだと? 神殿とシェキは関係が深いが、あそこから思念を飛ばすとは……」

「干渉はしていません。ほんの気配だけだったと思います」

「それでも助かったよ」

 シンもアイサを見つめていた。

「これで、ファマシュ家は二代続けてシェキの洗礼を受けた客を迎えることになるか……」

 腕を組み、ガルバヌムは呟いた。

「客?」

「そうじゃ、エアはこれからお前をファマシュ家の客として扱うだろう。アエルの時のように」

 シンの顔に浮かんだ当惑を見て、ガルバヌムは続けた。

「心配するな。たとえ、シン殿がすぐに地上へ行くとしてもじゃ。それは、どこにいようと変わらないのじゃ」

「ありがとう、おばば様」

 アイサの表情が輝いた。

「シン殿、そなたはエアとよく似ている。エアも若い頃このシェキに入り、戻ってきた。それまでは、ゼフィロウの領主になる気などなかったが、戻ってしばらくすると、渋々承諾した。いつか必ず引き受けると。ここで何を見たのであろうな? アエルに会う前の話じゃ」

「父上らしいな」

 三人が洞窟の入口に目をやると、泡のカーテンをくぐってラビスミーナが姿を見せた。

「ラビス姉様」

「アイサ、早かったな? しかし、ここを監視していた私より早いとは」

「意識をシン殿のもとに飛ばしていたようじゃ。ゼフィロウと、このわしを抜いてな」

 ガルバヌムが言った。

「ほう、ヴァンが聞いたら面白がるだろう。格好のモルモットにされるぞ?」

 ラビスミーナは肩をすくめ、アイサは顔をしかめた。

「心配するな。やつは今父上と、この坊やにやるプレゼント作りに夢中だ。シンと言ったな? とりあえず、おめでとうと言っておこう」

「この洞窟は、いったいどうなっているんだ……?」

 シンは呟いた。

「聖なる地だと聞かなかったか? それをゼフィロウの学者や、歴代の大巫女が守ってきた。その内部に入った者は自分の奥底にあるものと出会う。まあ、そんな所だそうだ。しかし、アイサ、お前、よくそんなところに意識を飛ばせたな? 掟破りもいいところだ」

 ラビスミーナがガルバヌムを窺う。

「ラビスが言うと身も蓋もない。だが、掟破りにはあたらないだろうよ。今までそのようなことをやった者がいなかったというだけのことじゃ」

 ガルバヌムは笑った。

「よし、おばば様、今の言葉忘れないでいただこう。シン、セジュはシェキから無事に帰った者を認める。そして、その者はファマシュ家が守護することになっている。お前は今から我が家の客という訳だ」

 ラビスミーナの言い方は素っ気なかったが、アイサは嬉しそうにシンを見た。

「さあ、話は後だ。お前たち、ひどい顔をしているぞ? 城に戻ろう」

 ラビスミーナはさっさと洞窟を出てオルクにまたがった。


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