序章①
1.地上世界
この物語の舞台は高度な文明が滅びた後の世界。そこでは一度破壊されつくした土地に、およそ千年の時をかけて再び国々が形を成してきた。
その中で力をつけてきたのはオスキュラ。
しかし、かつて地上の国々をゲヘナと呼ばれる恐ろしい兵器で滅ぼした大国オスキュラと同じ名前を持つこの国の国民も、彼らの先祖に遠く及ばない原始的な暮らしをしている。
動力としては人力や馬などの家畜、そして水車などを使い、道具に鉄が使われる程度である。文字を読める者もいるが、本は貴重品だ。
大陸中央に横たわるオスキュラの南にはススルニュア、東にはクイヴル、北にはグラン、その他にも幾つもの小国があるが、文明のレベルはどこも似たようなものである。
ただ、中には高い科学技術を持ってゲヘナを持つオスキュラ(紛らわしいので古オスキュラと呼ぶ)から隠れた民もいる。
先ずは、クルドゥリ。
その民は千年以上の間、彼らを隠し、守るために造られたシステムの中で暮らしてきた。そのシステムは今でもクルドゥリの巨大な電脳によって維持されている。
それでもクルドゥリの民は長い年月の間にかつての科学技術の多くを保持できず、衰退しつつある。
他にこのような境遇にあるのはウィウィップとバラホアの民である。
2.海の国セジュ
大陸の強国、古オスキュラが莫大な破壊力を持つ兵器ゲヘナを開発すると、脅かされた周辺の国々はたちまち古オスキュラに下った。その中で、ゲヘナでさえ防ぐことができるシールドを開発したのがセジュ国だ。
シールドの技術を奪おうとする古オスキュラと、それを守ろうとするセジュとの戦いは長く、激しいものだった。
この戦いで多くの同胞を失い、戦いに飽いたセジュの王は、セジュの大巫女とともに民を率いて地上を去り、その住処を海底に移す決意をする。海に入ったセジュの人々は、シールドの力で造ったドームの中で静かに長い年月を過ごした。
セジュの主な九つのドームは、海底に民を率いた王の九人の息子が開いたものだ。セジュの人々が暮らすドームは、地上と同じように昼夜があり、ドームごとに独自の気候を持っている。
彼らはその巨大なドームのことを核と呼んだ。
九つの核にはそれぞれ特徴がある。
ケペラは農業、ニエドは商業、ミアハは手工業、ヴァグは輸送と工業、スカハは土木と資源開発、バナムは芸術とファッション、ネストは観光・レジャー、ハルタンは医学、そしてゼフィロウは科学技術開発というように。
海底のドームという人工物の中で暮らすセジュの人々は、地上にいたときに持っていた高い知識を更に深め、独自の文化を築き上げている。
その特色の一つが思念。
セジュでは個人個人が持つ思念が指紋のように判別され、認識する技術がある。人々は日常生活の中でも、身の回りの機械には思念を使って指示を与えることが普通だ。
そして、その思念をさらに磨き続ける集団がある。
セジュの巫女たちだ。
彼女たちは大巫女を頂点とし、小さなドームの中にある神殿で暮らしている。
その神殿はセジュの九つの核の一つ、ゼフィロウの近くにあるシェキの洞窟からヒントを得て造られたものだ。
シェキの洞窟とは、その中に入った者の精神の方向性を奪い、様々な幻想の中に誘い込む空間だ。そこから無事に戻るためには強力な意志の力と、未知の場所でも自分の行くべき先を見出す能力が必要とされる。
巫女たちが日常生活を送る神殿も、彼女たちが思念の力を開放すれば、たちどころにそれぞれの力に応じて様々な扉を出現させ、扉を開いた者を試す。
深い海の底で暮らすセジュの人々にとって、地上はもはや別世界。
その地に誰も関心はない……




