act.50
チームワークのへったくれもない一斉攻撃。俺は4つの攻撃を抜刀しざまの一閃ですべて弾く。安物であろう剣が火花を散らし、腕が跳ね上がり全員に隙が出来る。逆手に持ち替えた蒼鬼の峰で、振り切った右腕が一番近いヴァンプの腹を打つ。しっかりとした手ごたえを感じたと同時に、一瞬だけ手を放し、隣のタイガー種らしきビーストに左脚を叩きつける。直後順手に取りなおした蒼鬼で更にその隣のゴリラ種の首筋を打つ。最後だからであろうか、僅かに反応を示したエルフ。俺はそれに気付き、そのまま振り抜きざまに体術でトドメを刺そうとしたのを止め、体を捻り、回転力を加えた一撃を右脇腹に打ち付ける。
「……このまま帰るか? それなら俺は追わん」
膝をついたりうずくまったりする連中に告げる。蒼鬼の峰打ちはだいぶ効果があるはずだし、蹴りにしたって構造が大して変わらぬ体の、急所の一つである肺の横辺りを蹴ったんだ。呻き声を聞きつつ蒼鬼を鞘にしまう。しかし返事は返ってこないならまだしも、予想外のものだった。
「な、なめんじゃねえ! こんなとこで退いてたら俺達だって名が廃る! こ、これでも……ここらじゃ名のある俺達だ!」
どうにかといった様子で立ち上がったタイガー種のビースト。それに続くように全員が立ち上がる。正直、立っているだけで精一杯のはずだ。
「はあ……しゃあない。一瞬で眠らせてやんよ」
今度は蒼鬼じゃなくハッシュパピーを取り出す。ハンドガンであるコレなら、この森の中でも遺憾なくその取り回しの良さを発揮できるだろう。俺は雷の魔力を籠めた弾丸を4発、それぞれの胴体に撃ち込む。小さな見た目に反して強力なそれは一瞬にして全員を気絶させる。膝から崩れ落ちたのを見届け、俺は一つのため息と共にハッシュパピーをしまい、再び歩き始めた。
翌日。昨日からかなり歩いた俺は、ようやく目的の城に辿り着いた。
「久しぶりに見るな……魔王城」
以前来た時と変わってない。相変わらず目に悪い紫色の刺々しいその城こそ、俺の目指していた場所だ。俺は一息ついたところでそこへ向けて歩き出す。目的は今は一つ。魔王へ会うことだ。
魔王城に入った俺は、警備の連中に見つかっても厄介なので久しぶりにスニーキングすることにした。内部構造は大よそではあるが覚えている。門番の連中を雷で眠らせれば、あとはもうどうにでもなるはずだ。早速俺は遠距離から狙撃し、門の両側に立っている警備を気絶させる。この世界では通信機のようなものは普及していないから、こんな下っ端共は持っていない。特に何か処理をするわけでもなく、だが彼らの衣服からカードキーだけは抜き取り、門を開けて中に入る。
「さて……Show Timeといきますか」
気合を入れて潜入に取り掛かる。裏口から入りたいところだが、生憎と裏口の場所までは知らない。探すところから始める必要がある。とりあえず正門の反対側を目指すか……ということで走り出す。物陰が少ないため、いざという時は伏せて視界になるべく入らないほうがいいだろう。屋内に入りさえすればこっちのものなんだが……
走り出してしばらく、魔力探知式のサーチライト群に出くわす。確か、あれは照射先の魔力を感知する、視認の必要がないものだ。厄介極まりないが、見つかりさえしなければいい。息を整え、タイミングをうかがう。まだだ……まだだ……まだだ……今!!
地を思い切り蹴って一気に駆け抜ける。数はそうそう多くない。精々が5台というところなので、範囲としては300m位。雷を使って加速しているのでそれ位はほぼ一瞬だ。一直線に道が開けた時を狙ったため、上手く抜けることができた。誰も気付いていない。そしてここが丁度裏庭に当たるところだったらしい。裏口らしい正門よりはるかに小さな扉を見つけた俺は、そばに誰もいないことを確認してその扉から内部に侵入した。
「ふむ、倉庫になってるのか」
内部に侵入したと同時に感じた埃っぽさ。どうやら武器の倉庫になっているらしい。有事の際に一斉に取りに来るのか、今は武器が満載の状態である。剣の類から棍棒、弓矢、銃器までなんでもござれだ。魔力爆弾の類まである。流石本拠地の倉庫だ。恐らくはここだけではなく、後数カ所おなじような武器庫、そして食糧庫などが存在するだろう。まあどうでもいいのだが。魔王に会った後で考えればいいことだ。
倉庫から廊下に出て辺りを確認する。柱が多く、他にも身を隠す場所は多い。だが――――
「天井裏なら楽だよな」
天井を外し、その上へと上り再び戻しておく。さて、魔王の部屋は確か最上階だったよな――――――
ほどなくして最上階に辿り着く。緊張感といえば、足音を立てないようにするくらいなもので、ほとんど感じなかった。ともかく、相も変わらずだだっ広い魔王の間前の広間はどこか懐かしささえ憶える。ここで以前はあいつらが敵を食い止めて、俺が魔王とのタイマンを助けてくれた。脳裏に思い浮かぶあの時の光景に頬を緩ませつつも、何時までも感傷に浸っている時間もないなと奥の大きな両開きの扉へ向かう。ああ、そういやアポとってないから魔王いないかもしれないよなぁ……
「……突然で失礼だが、魔王はいるかい?」
「突然にも程がある。お前は誰……貴様!」
「あー待て! 敵として来た訳じゃない!」
「なに……? あの時俺をぶちのめしておいてか?」
慌てて制止した俺に言う魔王。改めて見てみれば――――
「……お前、デーリムか!」
「思い出したようだな……」
かつて俺が理性を失う程キレてぶちのめした、生まれつき闇の属性を持った男、デーリム……そいつが、今俺の前にいたのだ。