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act.49

 ふと目を覚ました俺は、辺りが薄暗いことに気付いた。そしてもう一つ。

「寝ちまってたか……」

 ちょっと休憩するだけで全く眠る気は無かったんだが……まあ、今更悔やんでも仕方がない。魔王城まではあと二日ほどで着くだろうから、これくらいの誤差ならいい方だろう。しかし、今周りが薄暗いというだけで、夜になりかけているのか朝になりかけているのか分かりづらい。もうちょっと時間をおけば更に周囲が暗くなるか明るくなるかするはずだから分かるのだが、正直そこまでしてわかりたくはない。俺はとりあえず移動を再開することにし、そばを流れる、休憩前まで辿っていた川で水分を補給し、歩き始める。

「……寒いな」

 休憩前の灼熱を彷彿とさせる暑さと真逆に、今は震えるほど寒い。スニーキングスーツだからいいが、それでも奥歯が鳴りやまない。そういえばこういう場所って日が出てると暑くなって出てないと寒くなる、温度変化が激しい種類の場所なんだよなぁ。砂漠とかもそうだけど。うん、どうでもいい。

 とりあえず、幸いにも体に害があるほどではないので、強行的に進み続ける。こういうとき、雷や風だけじゃなくて炎系統も使えれば暖かかったんだろうなぁ、とか余計なことを考えつつ。



 しばらく歩いていると、ひとつ建物が目に入った。見た目じゃよくわからないが、間違いなく言えるのは魔王軍の施設ということだ。ここで俺の顔を売っておくというのもいいかもしれないが、今のところ俺の王国、魔王軍からの評価は「魔王を殺した」というものであるから、正直無理だろう。亡命したと言ったって信じてもらえるとは限らない。ここはこの施設自体を回避するのが得策だろう。迂回して背後の洞窟を抜ければ、魔王城まではあと少しだ。とはいえ、迂回したとしてもそれなりに距離はあるのだが……洞窟までおおよそ一日といったところか。


 洞窟を目指して進む途中、森に入る。鬱蒼としていて、あまり爽やかとは言えない。日差しはあまり入ってこないし、ジメジメとして地面もぬかるんでいる。まあ、魔王軍の制圧しているここら一帯だけじゃなく、王国を含むこの一つの土地自体、あまり爽やかさを感じる森というのは多くない。雨自体は多いわけではないが、どうもその少ない雨を有効活用しようとするからか、湿気のこもりやすい土地が多いらしい。ぐしゃりぐしゃりと深い極まりない音と感触を体感させてくれる地面を踏みつけながら進む。ああ、こりゃどっかで洗わなきゃだめだな。川沿いを既に離れているから、水場はまた探さなきゃならん。


 そんなことを考えながら歩いて幾時分……野生の動物などと一言に片付けるには大きすぎる気配を感じた俺は、その場に立ち止り蒼鬼の柄に手をかけた。段々と気配の位置が細かくわかるようになってくる。丁度二時くらいの方向……距離と相手の大きさは不明瞭。下手に飛び込めば隙を作る。ここは待つしかない。

「…………」

 静寂。沈黙の裏に流れる時はより長く感じる。この流れる汗は蒸し暑いからというだけではない。そんな時間が永遠に続くのではないか――――そう思い始める。だが、そう思い始めた時に限って、それは打ち破られる。一つの風がたまたまこの場を吹き抜けた。それが収まったと同時に――――





 雷を纏った刃が、すれ違いざまにソレの腹を斬り裂き、背後で大きい獣が崩れ落ちる音を聞く。後ろを見て、この目でソレを倒したと確認し、一つ息を吐く。一体獣を倒しただけでもの凄い疲労感があった。斬る前から集中力を限界まで使っていたのもあるだろうが、この二日ほどでの気温変化が大きな要因だろう。あまり好ましくない状況だ。とはいえ獣を倒したことに変わりはない。食糧を求めて獲物を狩ろうとしたコイツに罪はないし、俺も食糧を確保する必要はあった。ありがたくその肉を頂戴し、そこいらの枝と葉を集める。枝の上に葉を敷き詰め、肉の塊を置いて、更に葉を乗せ、包み込むようにくるむ。枝に雷で火を点けて待つこと暫し。

「上手に焼けました……って蒸し焼きか」

 頃合いを見て包みを解く。食欲をそそるいい肉の薫りが鼻を満たしたその瞬間。

「お、ウマそうじゃないか。元気そうだな」

「……ライか。どうした?」

 背後の木から降りてきたライ。俺は振り返らず肉を切りながら応える。それは向こうも予想通りだったのか、火を挟んで俺の正面に座り込んだ。

「もうすぐ魔王城だな。噂はどうやって広める気だ?」

「俺が本当に魔王軍に入って、んでもって魔王に忠誠を誓ったって噂か? それなら、流すまでもない。もし流れなくても、通達が魔王かその側近からあるはずさ。なんてったって、増える味方が味方だからな」

「それもそうか。もともと『魔王殺し』だからな。今までのお前さんは、ここじゃ誰もが『敵』って認識か」

「そうだ。だが時の流れはその強固な認識すら変える。不変のものなんてありはしない」

 ライにも肉を切り分けて渡しながら言う。そう、時の流れと共に万物は移り変わる。その先の可能性は無限大だ、俺達人類では予測がつかない。そもそもいつ世界というものが滅ぶかもわからない。今では常識であることがかつては非常識であったり、逆にこれから非常識となるかもしれない。だからこそ俺達は変わらなければいけないし、逆に変えることができる。

「明日には魔王城につくはずだ。王国の方はどうなってる?」

「今はとんでもない混乱状態だ。国王直属部隊も住民のパニックを抑えるのに精いっぱいだったようだ。だがそれも沈静化しつつある。奴らが追い始めるのは時間の問題だ」

「そうか……まあ、問題ないと言ったところか」

「そうだな、問題は今のところ起きていない」

 その後他愛ない話をいくらかして、そろそろ出発しようかという頃。

「ああ、言い忘れていた。ひとつ気をつけてくれ。この森……魔王すら手こずりかねんほどの大物(バケモノ)がいるらしい。まあ……不意さえ突かれなきゃ、あんたなら手こずる間もなく倒せるだろうがな。いくつか施設もやられているらしい」

「忠告感謝しよう。じゃ、またな」

 去っていったライを振り返ることなく歩き始めた俺は、件のバケモノについて考えていた。遅れをとることはないのかもしれないが、そんな噂になるほどの強さということは、そいつの首を持っていければこちらの亡命を受け入れられる可能性も高くなるかもしれない。まあそんなことよりも、そんなバケモノがいることが問題ではある。正体は不明、それどころかどんな被害が起きているのかもわからない。噂であるから尾ひれがついている可能性もある。全くのウソではないはずだから警戒はすべきだが……

「まあいいか。とっとと行こう」

 今考えてもしょうがない。遭遇した時に考えればいい。そう結論付けた俺は魔王城をめざし歩き始めた。のだが。




「アンタ、運が悪かったな! 死にたくなきゃ金目のモン置いてとっとと消えな!」

「ケケケ、俺たちゃ強いぜぇ? あんまし舐めてるとすぐ逝っちまうからな」

「……おお、古典的な奴らだ。てか、俺の顔って知られてないのな、存外」

 ビーストが2、エルフが1、それとヴァンプも1……と。4名様ごあんなーい。

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