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CODO.57

 ――――しばらく、何が起こったのか分からなかった。ただ、数瞬の後に自分が感じた浮遊感と、目の前に広がる雲の多めな空、それでようやく自分が吹き飛んだんだと理解した。半ば反射的にどうにか受け身を取って落下のダメージを殺す。しかし、その瞬間にとてつもない激痛が奔った。

「く……ッ!?」

 起き上がれない。起き上がろうとすると、体に激痛が奔り、動かなくなる。見やれば、イチカワの方も吹き飛んではいたようだが、ゆらりと立ち上がっていた。恐らく無限だという魔力のうち風を用いて、ダメージを最小限にとどめていたのだろう、と痛みぼんやりとする頭で考える。

「ここまでだ。惜しかったな」

 こちらに歩み寄り、起き上がれず息の整わぬ私を見下ろしながら、鈍く輝くカタナを振り上げる。ああ、終わった――――そう諦めた時、そのカタナが魔力――――正確には風の魔力によって弾かれる。リィナがやったのだろう。しかし彼女の武器は銃ではないはず……直接飛ばしたのだろうか。

「チッ! やっぱり隠れてやがったか!」

「その通りだ!」

 突然、聞き覚えのある声がしたと思えば、刃が空を切る音が聞こえる。

「てめっ……!?」

「ふん、悪いな。お前に着いて来たのも全部、王国側の命令だ」

「ライ……いや、ニライアス……そうか、初めから全部お前はスパイだったわけか。なら――――殺す!」

 お互い、カタナと二本の短めのスピアを構える。どうにか動けるようになった私は一度岩陰に身を隠し、息を整えつつ彼らの戦いの様子を見る。


「勝てると思ってるのか? この俺に」

「勝てるさ。魔力だけが戦力じゃない」

 そう言うと、同時に消えるような速度で走りだし、直後甲高い音が響く。いつの間にか抜いていた小刃、そしてカタナが、二本のスピアを受け流したらしい。そのまま流れるようにカタナで斬りかかったイチカワ。しかし、うまくスピアの柄で逸らされ、体を回転させて右のスピアで斬りかかる。あのスピアは、丁度短剣の刃を柄にくっつけたような形状だからこそ、あのような使い方が出来るのだろう。しかしその斬撃も後ろへ体をそらされてかわされ、カウンターに蹴りを放つ。それもかわしざまにニライアスの持つ雷の魔力を纏った回し蹴りで反撃されるが、後ろに跳んでやり過ごされる。雷を纏っていたため、CQCに持ち込めなかったのだろう。

 互いにレベルの高い近接戦闘。私は近接戦闘は魔法をメインとした戦法であるため、あのような身体能力を生かす戦い方は苦手だ。イチカワも、本来私よりも更に近接戦闘のスペックは低いはずなのだが、CQCがそれらすべてをカバーする上、持ち前の頭の良さで先読みしてくるため、私と大して実力差はない。

「せあぁぁっ!」

「らあぁぁっ!」

 刃物のぶつかる音や、蹴りや拳をブロックする音が連続する。しかし、お互い一歩も退かず、ダメージも大きなものはない。イチカワの得意なCQCの投げに持ち込まれかけたニライアスも、私では想像もつかない強引な方法でそれを回避する。例えば、脚を取られればその脚で浮き、逆に蹴りを見舞うし、腕をとられれば関節を極められる前に頭突きやスピアでかわさせ、回避する。正直、私には思いつかないどころか、実行もできそうにない。

 次第に、魔法の頻度も高くなってくる。風や雷が散り、光や闇が辺りを覆う。お互い、高速戦闘の最中故かあまり魔力のこもった攻撃を繰り出すことは出来ていないようだ。しかし、あれでは持久戦になり、魔力量を考えてもニライアスが不利になってしまう。だがよくよく考えてみれば、体力面であればニライアスが勝つかもしれない。勝敗は、私には予測もつかない。つくはずもない。

「くそっ! なら……」

「させると思うか!」

 小刃の方へ魔力を集中させ始めたのを見逃さず、阻止させるべく小刃目がけスピアを振るう。しかし目的は――――

「ニライアス! 小刃は囮だ!」

「遅い!」

 逆手に構えていたカタナを思い切り振るイチカワ。風の魔力を大量に纏ったその一撃を、どうにかスピアで防ごうとしたニライアスだったが、魔力量の膨大さと単純なカタナの威力の大きさから、いともたやすく砕かれ、吹き飛ばされる。

「ニライアス!」

 吹き飛ばされ、地面を転がっていったニライアス。そこから立ち上がろうとするも、敵わず地に伏せる。



「さて……まだ厄介なのが残っているな。くそ、面倒な……」

 今までニライアスが戦ってくれたおかげで、確かに私はいくらか動けるようになった。しかし、魔力はもうゼロに等しい。だが、やらぬわけにもいかない。いざとなれば、待機している部下もいる。

「くっ……はあっ!!」

 片手に持っていた剣を、回転を駆けながら投げつける。と同時に駆け出す。倒れこみ、地面が直前まで迫ったところで足に力を籠め、一気に加速する。イチカワの直前で地面を蹴り、丁度投げた剣を弾いて隙の生まれたそこを、剣を空中でつかみながら切り上げ、一回転の後着地する。しかし、手ごたえはなかった。かわされたらしい。

「ちぃっ!!」

「あぶねぇな……やっぱり厄介極まりないな」

 一度金属の弾き合う音を響かせ、距離を取る。しかしすぐにお互い距離を詰め、私は横に、イチカワは縦にお互い獲物を振るう。その時――――

「な……!?」

 しまった。そう思う。この任務についてから、しっかりと武器を手入れできていなかったことも要因だ、とも思う。私の剣が、斬撃のぶつかり合った真ん中あたりから、音を立てて折れてしまった。後一振りはあるとはいえ、この事態は限りなくまずい。しかし、悩んでいる暇も皆無だ。右手の折れて残っていた残骸を投げつけ、僅かにずれた位置に突きを繰り出す。

「甘いッ!」

 それを弾かれ、腕をとられる。しかし、今は私は片手が開いている状態だ。腕を折り回避すると同時に、掴んでいた右腕を取り、脚を払う。しかし脚をうまくかわされ、重心を崩すことは出来なかった。お互い一歩距離を取り、にらみ合いが始まった。

「残念だったな。もうお前に勝ち目はない」

「どうかな。今わかった。貴様に勝つには、二振り持っていてはだめだ……そう気づいた」

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