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「隊長のあんたは知っているらしいな、タクミの目論んでいたこと」

「ああ……まんまとハメられた。まさか、私達を囮に、誰にも怪しまれずに魔王を継ごうとは……」

「そう、魔王があそこで死に、対抗する手段としてやむなく継いだ、そう見せかければよかったんだ。だが、あいつはそれを実行するために、誰にも知らせなかった。俺にさえな」

「ではなぜお前が?」

「なぜ知っているかって? 簡単な話だ。今回のバックアップを、俺に頼んだんだよ。直前になってな」

「バックアップ……だと?」

「万が一お前達が魔王に会う前に殺されそうになったら、なんとかして生き残らせろ、ってな。もちろん、俺が直接手を下すことはできなかった。陽動が精一杯だ」

「そうだったのか……そういえば、この道はどこに出る?」

「この道は確か……魔王城の地下を通って、少し離れた森の中だ。この道を知っているのは極僅かの奴等のみ……それこそ、魔王とそのすぐ近くにいるような奴位だ」

「そうか。ニライアス、奴がどこに行ったか、わかるか?」

「ああ。魔王城から見て北北西の方角……」

「ここから北北西……スデニアドエン・ツロク地帯か?」

「その通りだ。切り立った崖を持つ、海に面した地域。常に潮風にあおられるあの地に、奴はいる。正面からしか近づけない、あそこにな」

「不意打ちは無理か……しかし、なぜあんなところに?」

「今言った通り不意打ちがないということだろう。それに、あの地は食糧にも困らない。すぐそばに海に山にと揃っているからな。地面も硬くて安定している。闘うにせよ建物を建てるにせよ条件はいい。風が強いのと、辺り一帯天気が悪くなりやすいことを除けば、かなりいい土地には違いないな」

「……スデニアドエン・ツロク……運命の終わる岩地……その名にふさわしく、そこをこんどこそ最期の地にせねば」

「ああ。さて、そろそろだ」





 ニライアスの言うとおり、魔王城近くの森に出た私達。ほとんど日の光は遮られて入ってこないが、薄暗い程度で視界には困らない。

「さて……俺が手伝えるのはここまでだ。俺も、戻らないと怪しまれる。さっき言った通り、スデニアドエン・ツロクに奴はいる。急げよ? 何をしでかすかわからない、なんてもんじゃない。奴は……この王国を手中におさめ、他の二大陸さえも落とそうとしている」

「わかった」

 いつものように、森の中へと飛ぶように消えたニライアス。直後私達も行動を開始した。ここから走って数日……早くて3日、そうでなければ4,5日ほどかかる位置に、スデニアドエン・ツロクはある。向こう(イチカワ)は飛んで行っただろうから、必然的に向こうの方が早く着くだろう。向こうがこちらが到着する前に余裕がある分、準備する時間があるということになる。急がなければ――――しかし、急ぐばかりでもいけない。私達は焦る気持ちをどうにか抑えつつ、フラックとフィルを王国へ報告に行かせ、走り始めた。


「隊長! 右斜め前、気配が!」

「わかっている!」

 走り始めてほどなく、草木に紛れた気配に炎を浴びせる。その直後、炎が晴れたと同時に近接攻撃を浴びせて仕留めてみせた部下三名。仕留めたとはいえ、気絶させただけではある。といえば簡単に聞こえるが、殺さず気絶させるには彼らの武器は不向きだ。両刃の剣、銃、弓。それが、彼らの持っている獲物だから。

「よくやった。そいつらは放っておけ、急がねば」

「そうですね。しかし、間に合いますかね……」

「間に合うか間に合わないか、が問題じゃない。間に合わせるか間に合わせないか、だ」

「隊長……」

「今、私達が出来ることなんて、その程度だ。それに、間に合うとしたら私達しかいないんだ。仮に無理としても、やるほかはない」

「そうですね……」

 そう言った私だが、正直間に合うかどうか、と聞かれた以前から焦りや不安がいっぱいだ。間に合わなければ、ほぼ確実に王国は落ちる。間に合うボーダーラインは、奴が実行に入るまで……実行すれば、私達が途中でたどり着いたとしても、それはもはや手遅れだろう。わかっていても、ペース配分や急いでいる時に襲ってくる危険を無視したくなる。半ば八つ当たりのように、隠れていた気配を見つけ出しては炎であぶり出し、部下と共に近接攻撃でトドメを刺していく。

「隊長、少しペースを落としませんか? このままじゃ後の方に体力切れちゃいそうで……」

「……ああ、そうだな。すまない、少し焦っていたようだ」

 ふぅ、とため息をつきながら、私はペースを緩める。リイナの一声で、私が本当に焦り気味だったと気付いた。抑えているつもりではあったが、抑えきれていなかったらしい。

「珍しいですね。こういうときでも冷静なのが隊長だと思ってましたが」

「私を何だと思っていたんだ……私とて、こんな状況では焦るさ……」

「そうですか。でも、安心しました。いつもの隊長に戻って」

「……そうだな。すまなかった。で、リィナ。確認したいんだが、ここから例の岩地まで。施設は3つだったな」

「そうですね。ただ、3つとはいえ……」

「ああ。途中に厄介なところが一つあるな。武器貯蔵庫、D-113……」

「あそこの所長、クスフタは、ジュイスと対をなす魔王軍代表、ですからね」

「ああ。デーリムが魔王になった辺りか、名前を聞くようになったのは」

「ジュイスが忠の浅い男だったのに対して……あの女、ですからね」

 クスフタ。ジュイスより若く、魔王軍の新参ではあるが、彼とは対としてよく語られるようになった、ヴァンプの女だ。ジュイスが紅き流れ星と呼ばれ、銃器型の魔法具や格闘を用いた風持ちの男であるのに対し、クスフタは蒼い瞬雷と呼ばれる、細槍と空中戦を得意とする雷持ちである。また、ジュイスの魔王に対する忠誠心はそう高くない、いや、むしろ低いと言われていたが、クスフタは全くの逆。魔王(デーリム)の為であるならどんなこともする。そう言うに相応しい忠誠心。いや、もはやそれは忠誠心ではなく、デーリムに盲目になっているともとれる。それほどではあるが、魔王城にいるわけではなく、魔王軍有数の大きさと重要度を誇る、D-113に所長として君臨している。理由はわからない。しかし、何かしらの思惑か何かがあるのだろう。気にする点ではないが、知りたくないとは思わない程度の疑問点。

「クスフタに会ってしまったら、勝てますかね」

「……勝つしかないさ。ジュイスと対に語られるということは、やはり腕は確かなのだろう。しかし、これでもジュイスとの手合せや模擬戦は、勝率は七割ほどなんだ。勝てない相手ではないはずだし、勝つ必要はない。あくまで、通り抜ければいい」

「そうですね。そういえば、魔力はまだ大丈夫なんですか? さっきから凄い使ってますけど」

「一日あれば回復する程度には抑えている。心配するな、そこまで考えないほど、理性を失ったわけじゃない」



 それから一日をかけて、私達は小さ目の詳細不明な研究を行う施設を越え、件のD-113に辿り着いた。

「……いいか、両側を谷に挟まれているここは、内部を通過することが不可欠だ。だが、通るだけでいい。いいな?」

 その確認に、全員が頷いたのを見て、私達は行動を開始した。

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