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 扉を開け、中に入ると同時に剣を両方とも抜き、身構える。

「来たか」

「フン、今度は以前のような無様な負け姿だけは晒してくれるなよ?」

 部屋の中央あたりから聞こえた2つの声。その声の主はもちろん、亡命したイチカワ タクミと、現魔王、デーリムのものだ。

「フフ、そう身構えては……体が動かんぞ?」

「ッ!?」

 回りこまれた――――そう理解するのに数瞬かかった。振り上げられたカタナを辛うじてかわし、横に一閃、その後残った左腕の剣で振り上げるように更に一閃。余裕の表情でかわされた後に、デーリムの方から伸びてきた闇の鞭をかわす。

「腕は上がっているようだな?」

「鍛えすぎも困ったもんだな。デーリム、恐らく外で起こってる小競り合いもそうそう長く保たないはずだ」

「ああ、所詮は時間稼ぎだからな」

「と、いうわけだから、とっとと決めさせてもらおう」

 言った直後、再び雷を利用した高速移動で迫ってきたイチカワ タクミの剣閃。横一閃に薙ぎ払われたそれを屈んでかわし、至近距離からの火球を放つ。若干驚嘆したような、それでも余裕をみせるような声をあげて、風で打ち消される。そのまま私は横に転がる様にして上空から放たれた闇の球体を回避、炎を波のように放ち、いったん距離をとる。認めたくはないが、あのコンビネーションはかなり上手で、その分厄介だ。このままではいずれ、一撃をもらうこととなる。と、なると、私はその瞬間負けが確定してしまうだろう。もとより2対1という状況はそうなりやすい上に、属性が属性のため、非常に追い打ちを食らいやすい。正直、勝つためには一撃たりとも食らうことは許されない。

「そぉぉらっ!」

 気合の声と共に横にカタナが振られる。その剣閃がそのまま飛んできた。光属性の魔法だ。やはり屈んでかわし、剣を突き出すようにして炎を放つ。その炎は闇で作られた壁に阻まれ、あっけなく消滅。その闇の壁が晴れると同時に、先程の光の剣閃が幾筋も飛んできた。だが、かわせないほどでもない。縦横無尽に振るわれたカタナから放たれた光の刃を、全て潜り抜けるようにかわしていく。そのうち闇の小さな、しかし高速な弾丸も混じり始め、避けるだけでもせわしなくなっていく。しかし体も慣れるもので、炎を放って反撃に転じる。すると向こうも炎を避けねばならなくなったためか攻撃の手が緩み始め、かわして炎を放つという余裕が増えてくる。

「デーリム、そろそろ決めておくぞ」

「ああ……では行くぞ」

 一旦デーリムの闇が止んだと思えば、その直後に波のように押し寄せた闇に呑み込まれかける。しかし、広範囲にばらまいたからか大した威力もない。1点にそれなりの力を籠めた火球を当て、一瞬生まれた隙間を潜ってやり過ごした――――が。

「俺を忘れてないか?」

「がっ!?」

 脇腹に鈍い痛みを覚えた瞬間、視界が凄まじい速さで流れ、そしてすぐに背中を再び鈍い痛みが襲う。

「チェックメイトだ」

「トドメは俺が刺す。いいな?」

「魔王殿下の仰せのままに」

「フン、殿下……ね、そんな口調で呼ばれてもな」

 カツリ、カツリ、と足音を立てながら、こちらに歩み寄ってくるデーリム。視界が霞みはじめ、まともに動くことが出来ない私は、もうどうすることもできない。

「さて……どうやって始末してくれようか?」

「手足を一本ずつ切り落とす、とか」

「それはいい。では、まずその左脚からいただこうか? あっても無くても、もう逃げる体力はないだろうがな……あいつの風や雷を纏った蹴りを2発ももらったんだ、意識が残ってるだけ大したもんだ」

「そりゃそうだ。意識が残る位には加減したからな。その方が面白いだろ? ……とはいえ、並みの奴等じゃ気絶じゃ済まない威力はあったが」

「そうか。そりゃ有り難い……では――――」

 見せつけるようにゆっくりと、細身の巨大な剣を振り上げるデーリム。動きたくても動けない。なのに意識だけはあって、それが私の体をなお動かそうとする。剣が頂点につくころ、私の中ではすでに恐怖が渦巻き、生への執着と死という道への諦めが混ざり合う。

「まず一本――――!?」

 いよいよ振り下ろされる、という時、聞こえたのは私の左脚の肉や骨が切られる音ではなく、剣が床を叩く音だった。落ちたのはデーリムの右腕。

「なっ――――」

「はーいそこまで。悪いね、デーリム『元』魔王さん」

 これまで見せたこともないような凶悪さを持つ笑み。その主は、イチカワ タクミだ。振り抜かれたカタナは、その軌道を血のアーチで彩り、そのアーチも刹那の内に崩れ去る。その崩れた直後、今度は胸部に吸い込まれる様に突き刺さる。刀身を血が伝い、先端から滴となって落ちてゆく。

「カ……ハッ! くっ、は、図ったな……!」

「『誰にも怪しまれずに魔王の位を継承する』ただ唯一のタイミングだからな」

「くっ……くそぉぉぉっ!」

「じゃーな。せめて……これ以上は苦しまずに逝け」

 振り上げてカタナを滑らせて体から引き抜く。そのまま上段に振りかぶられた刀身は凄まじい稲妻が覆い、紫電が如き速度で振り下ろされる。後ろから袈裟懸けに切り裂かれたデーリムは、そのまま真っ二つに体が分かれる。

「……これか」

 デーリムの体から現れた、黒い球体。否、黒いというより、色のない無の球体。おびただしい魔力を感じるそれは、デーリム達魔王の証、闇の魔力で間違いない。

「クク……これでいい。さて……」

 その闇の魔球を簡単に体に取り入れたイチカワ タクミ――――いや、魔王が、こちらに向き直る。

「お前はまだ殺さない。分かるだろう? お前は英雄となるのだ――――魔王をその手で葬った、というな。だが、それだけではない。お前はもう一つ、肩書を追うこととなる。魔王の力たる闇の魔力を俺、イチカワ タクミに奪われ……新魔王を生んで、それにやられてしまった、とな」

 そこまで言われて、ようやく意図が分かった。もともとこの男は私達を殺すつもりなどなかったのだ。ここまで誘導し、自分で魔王を討伐するも、私を生かすことであたかも私が討伐したかのように見せ、その仇として私を打ちのめす――――そう、自身が魔王を倒したのではない、とすることで、そして私をどうにかするためだった、と魔王の継承を自然に見えるようやってのけたのだ。

「じゃあな。もっとも、お前は俺を追ってくるのかもしれんが……いつでも受けて立ってやる。死の覚悟を以てして来い。だが――――急いだほうがいいぞ? この前のような惨劇を繰り返したくなかったらな」

 そう言って風を纏って空へ浮くと、いまだ動けない私を一瞥し、掌に作った闇の球体を投げつけてくる。抵抗もできずそれを食らった私は、体が浮遊感を感じたとともに、視界が黒く染まっていった。

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