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CODE.49

 抜き放った一本の剣は、即座に炎を纏って暗い倉庫を照らす。両手で右下段に構えた直後、私は奴の真正面へと駆け、それを迎撃しようと撃ちだされた氷塊を砕く。

「残念だが……無駄だ」

「くっ!」

 右下から振りぬき、魔力を集中させた剣が所長を襲う。その斬撃は奴がアックスで防ぎ、体に到達しない。そのまま私は横一線に薙ぎ払うように振りぬき、それもまた防がれるが体勢を崩させる。

「忘れたか? 私の剣の数を」

 防ぎきってどこか安心していたその瞬間、もう一本を背から抜き、右の剣を追うように一閃。鎧のようなものをつけていたため、剣の腹で殴ったが、それでも鎧を砕き失神させる程度の威力は備えている。僅かに体が浮いて吹き飛んだ所長に追い打ちをかけるように、巨大な火球を撃ちだす。質量のない炎ではあるが、爆散した時の衝撃で更に吹き飛んだらしい。

「フン……あの程度で死にはしまい……」

 どうせこの倉庫に火をつけたとて、奴は生きているだろう。その程度の加減はしてやるつもりだ。私は両の剣からそれぞれ火球を数個放ち、あちらこちらに火を点ける。即座に燃え広がりだし、私は出口目がけて走り出す。その時――――

「待てぇ!」

 咄嗟に振り向けば、私に一直線に飛んできた一本の氷の槍。

「ちいっ!」

 屈んで何とか回避し、火球を放つ。

「逃がしはせん……こうなったら道連れだ!」

 やけにでもなったのか、何本も空気中に氷の槍が生まれ、また幾数個もの氷塊が作られる。使える魔力すべてをつかったらしく、かなりの量だ。

「厄介な……」

 私は後退しながら極力氷をかわし、かわせないものを剣と炎を使って砕く。火球の爆散は槍には効果が薄いが、氷塊は意外と簡単に砕ける。槍の方は剣の腹で砕いてゆく。無数の氷をかわし、砕き、私は出口を目指していく。

「これならどうだぁぁぁぁぁぁぁ!」

 次第に薄くなった氷の槍と塊の弾幕は一度とまり、新たな氷塊が形作られた。その氷塊は――――

「なっ!?」

 岩のような大きさ、と表現したとしても有り余る大きさだった。私ではあれは砕けない。そう悟り、咄嗟に後ろを向いて走り出す。剣をしまい、全力で出口を目指して走る。後ろから迫りくる気配を感じつつ、私は出口を出るや否や、体を横に投げだした。凄まじい音と共に強風が私を煽る。砕け散ったらしい氷塊が私の上にいくらか落ちるが、今はその威力は皆無に等しい。

「……倉庫ごと壊すとは……やはりやけだったか」

 無残に崩れ落ちた倉庫。その倉庫に再び火を点け、私は部下達の下へ急ぐべく再び駆けだした。




 私が駆け付けた時には、既に殲滅が中ほどまで進んでいた。退路を越えようとする敵兵対策に3名、もう2名は火のついている建物の中で暴れているらしい。オブニィが中にいるのだから、土で壁でも作って脱出する手筈なのだろう。私はそのまま出口で待ち構える方に加勢し、無論気絶させるだけではあるのだが、はむかってくるものももう少なく、長くは持たないだろうとわかる。






 それからしばらく、予想通りほとんど何事もなく、オブニィとフラックが中から脱出し、この倉庫にいた兵士達も全員気絶させた。

「ご苦労だったな。怪我など問題のあるやつはいるか?」

「いませんね。ここは兵士の能力が総合的に低かったこともあるのでしょう」

「そうか。所長はそこそこ魔力の多い厄介なやつだったが……まあいい。行こう」

 そうして私達は、この倉庫を後にした。







 そして数日。ほぼ誰もいない兵士宿舎施設を通り過ぎ、洞窟を越えて私達の前に広がった、ひとつの城――――

「ついに来ましたね」

「ああ。恐らく……ここが鬼門となるはずだ。魔王とあの男を同時に相手にする可能性が高い。みんな……死ぬなよ」

 いつになく真剣な顔つきで、頷きを返してくる。分かっているのだろう、ここで起こりうることが。そういう私も、恐らくいつも以上に緊張している。既にぴりぴりと強すぎる魔力を感じているのだ。この紫の禍々しい城の内部から放たれる、殺気に近い強大な魔力。私達は意を決し、門を潜った――――



 魔王城。かつてより王国と対峙してきた魔王軍の本拠地であるその城は、いつになく敵が少ない。そして、その中でも逃げる兵士が目立つ。

「……何かおかしい……」

「ですね。何か、と漠然ではありますが」

「上で何かあったんですかね?」

 フラックとリィナの言の間にも、大多数の兵士が逃げていく。もちろん私達に襲い掛かる兵士も多いが、その全てを倒してゆく。

 ――――そして最上階、魔王の間の前に到着した私達。幾つもある柱の影から、精鋭部隊らしき兵士が5名現れ、戦闘態勢に入る。と、なれば――――

「お前達……この場を任せても構わないか? 私は先に奴等をどうにかしよう」

「……わかりました。すぐ片づけて加勢にいきますよ」

 リィナが腰のサーベルを抜き、構える。続くように各々が武器を構え、私はそれに頷きを一つのこし、魔王の間へと続く大きな扉めざして走りだした。続くようにリィナ達も駆け、5ヶ所で戦いが始まった。剣のぶつかり合う音や魔法同士が弾ける音が次第に聞こえ、私はそれを背に扉に手をかける。思いのほか軽いその扉を押し開け、中へと進んだ――――

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