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 あれから一日半という時間を費やして、ようやく私達は目的の食糧庫にたどり着いた。正直に言ってしまえば、どこの建物も魔王軍は似たような景観だからか、多少飽きというか諦めというか、とにかくそういった類の感情を覚えてくる。

「ふう……いい加減施設破壊以外はないのかと思ってくるな、ここまでくると」

「そうですねー。それでも、後二つですよ。実質一つは空のようですし」

「隊長、ニライアスの気配、捉えました」

「よくやった。案内を頼む」

 辺りに魔力がないか感知することに集中していたフラックが、ニライアスの魔力を捉えたらしい。彼について行くと、そこは食糧庫へ続く道から少しそれた、森の中とは思えぬ暗い場所。普通森は木々が群生していたとて、暗くなるにも限度はある。だが、ここはまるでムートの出ていない夜のように暗い。辛うじて僅かな隙間から日が差し込むのが救いか。

「お、早いな。こっちから呼ぼうと思ったんだが」

「フラックに魔力を探らせたんだ。気配や魔力を察知することに関しては、こいつは優れているんでな」

「そうか。で、早速本題に入るが。ほら、これだけあればしばらくは困らんだろう?」

 そう言ってニライアスが指さしたのは、一抱えは余裕であるような袋が二つ。どちらも口をしばれるギリギリまで物が詰め込まれていると分かる。

「ああ、確かに。だが、よくこれだけ用意できたな?」

「まあ、俺もタクミの右腕として動かせてもらっているんでね。その顔を使わせてもらったわけさ、最大限にな」

 全くと言っていいほどどう行動したのかはわからないが、こちらとの関係がばれないように便宜を図ったことは期待していいだろう。

「すまないな。ところで、今……」

「タクミか? あいつなら今、デーリム抹殺の為に準備に勤しんでいるよ。なんでも、ちょっとした準備と、終わった後のアリバイ作りと将来を見越した、新たな拠点の準備、だとか」

「……行動までの時間はわかりそうか?」

「生憎と奴も正確には把握できんらしい。少し時間がかかるとは言っていたがな。俺も詳しいことは知らないからな、いつになるかは見当もつかん」

「そうか……それで、お前はこの作戦が完了した後はどうする気だ?」

「唐突だな……何、俺ももう向こう(王国)には戻れんだろうからな、姿を消すだろうな」

「……それでお前はいいのか?」

「構わないね。正直、もう俺はそうそう長くは生きられんだろうからな、どういう結末だろうと」

「どういうことだ……?」

「さあ、な……さて、俺はそろそろ行くぜ。お前らも気をつけ……ああ、そうだ。あそこの食糧庫だがな。ここから火を放てば――――」

 ニライアスに食糧庫壊滅に役立つポイントを教わり、今度こそ別れる。以前と同じく木々の間を素早く駆けて消え、私達もそれを見届けた後行動を再開する。




「さて、と。隊長、どうぞ」

「ああ。しかし、こんな鍵の方式、前からあったか……?」

「いえ……恐らくはあの男が教えたのでしょう」

 オブニィの推測はおそらく正しい。その推測に、私は視線を落とす。

「……人間、か……」

 一度目に訪れたという「人間(ジョニー)は私達を守る兵器を残した。そして二度目に訪れた「人間(イチカワ タクミ)」は、かつては力と知恵を貸して、更には魔王を倒し私達の国を救った。しかし今は、その力と知恵を私達が敵対し、何よりかつて首領を倒したはずの魔王軍に貸している。私には――――到底理解できない。理解できまい。理解しようともできまい。例えそれが、あの男に考え合っての心変わりとしても――――――――――


「隊長、大丈夫ですか?」

「ん……? あ、ああ。すまない。大丈夫だ」

 そうですか、と心配げな顔をして首をかしげるリィナ。それを見て、考え事に没頭していた私は目の前のことに目を向けなければと思いなおす。

「よし、行くぞ。先程ニライアスが言っていたポイントを優先的に回るとしよう」

 ニライアスが言っていたのは、6つのポイント。4つは施設の四隅。四隅は魔王軍の性格もあってか草が茂り、燃えやすい。その上退路は四隅の近くにあるので、退路を塞ぎやすいという。5つめは食糧庫そのもの。中は燃えやすいものが多く、なおかつこの施設で最も大事な場所だ。そして最後に裏庭。普段はさびれているが、こちらは緊急の脱出路の出口らしい。施設の四隅とは比べ物にならない量の茂みが手を加えられていない状態で残っているため、ここを燃やせば退路を塞げるということだ。

 もっとも、魔法の火とて万能でもなんでもない。強風にあおられたり土の魔法などで火を揉み消されたりすれば意味はない。だから、なるべく素早く退路を塞ぎ、倉庫を燃やすと同時に施設内を取り囲むように殲滅するのが得策だろう。

「退路を塞いだ後の殲滅はお前達に任せる。倉庫を燃やし次第私も行くが……それまで耐えてくれ。頼むぞ」

 指揮官ポジションでもある部隊長の私がいないことは少々不安ではあるが、もともと普段からこの隊を分けて行動するようなことが多々あったため、何とかなるだろう。




 魔力を封じ込めた鍵を使い、何事もなく施設に潜入した私達は、早速行動を開始する。まず班の中で半数が使える炎。フラックとフィルがそれぞれ回り込むように四隅に火をつけに行き、それをリィナとオブニィがサポートするべく後をついて行く。私とジェフは裏庭へと素早く回り込み、頃合いを見て火をつける、というのが今回の作戦内容の第一段階だ。


「ジェフ、辺りに微弱な風を張ってくれ。ここでは風がなくて燃え広がりにくそうだ」

「わかりました。では……!」

 魔力を感じたと同時に、辺りをそよ風が舞い始める。それを確認した私はあちこちに小さな火を放つ。地面に着くや否や、草を伝い炎が広がり始め、私も肌で熱気を感じ始める。

「よし、ジェフ。後は他の者と頼むぞ」

「ええ、任せてください。隊長も御気をつけて」

 ジェフのほほえみにああ、とだけ返し、倉庫の方へと駆けだす。かなり大きいようだが、それはそれで好都合。そもそも施設が倉庫部分と営業的な部分で分けてあるあたり、まるで倉庫をどうぞ好きにしてくださいと言っているようなものだ。私は身の丈の三倍ほどの木製の扉を押し開き、薄暗い倉庫へと進入する。大分埃っぽく、息をするたびにその誇り臭さがうっとおしいほどに鼻を刺激する。数歩ほど進んだとき、私はどこに火をつけるか目星をつけるべく辺りを見回し始めた。その瞬間――――

「そこまでだ、侵入者めが!」

 野太い声が倉庫内に響き渡り、その意図を瞬時に悟った私は一つ舌打ちを響かせる。ゆっくりと入口の方へ向き直ると、そこには大柄なヴァンプの男が腕組みをして仁王立ちをしていた。

「フン、おおかた倉庫が別館になっていてここの設計は馬鹿なのかとか思っていたんだろうが……馬鹿はお前達の方だったようだな。残念だが入り口の扉が立てる音はな、そこの階段から降りられる地下、ワシの部屋、所長室に響くようにできているんだ。侵入してもすぐに察知、排除できるようにな」

 勝ち誇ったように言うヴァンプの男は、ここの所長だったらしい。扉に関しては完全にしてやられた。だが――――

「だからどうだというのだ。お前をここで倒してしまえば、何も問題は残るまい?」

 そう言って私は、背から一対の剣を抜き放った――――

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