CODE.45
無事、何とか全員と合流した私達は、私が吹き飛ばされたあの崖の近くへと来ていた。
「……こりゃひどい」
「ああ。かなり荒れてしまった……木々がここまでなったのは見たことがない」
木の幹はほとんど吹き飛び、その残骸である切り株状のそれは明らかに強い力でねじ切ったり吹き飛ばしたような傷跡が残っている。そして改めて崖下を見てみれば、あちらこちらに折れた木々が散乱している。移動中に見た倒木の正体がようやく分かった。
「しかし、本当にこんな力で飛ばされてこの高さから落ちて……よく生きていたものだ」
普通に考えれば、これだけ木を薙ぎ払い吹き飛ばすような大きな魔力を食らえば、その時点で命が危うい。そして更に身がすくむような高さの崖から意識を失ったままでの落下。生きていること自体、今でも半ば信じがたい。
「さて……どうしたものかな……」
正直、全員集まったとてどこか行く当てがあるわけではない。こちらを迎撃に来たということは、何かしら行動を起こすつもりでもあるのだろう。そうでもなければ、こちらをわざわざ迎え撃つほどのメリットはない。
「とりあえず、魔王城を目指してみてはいかがです?」
「そうですね、私もそれに賛成です」
リィナとフラックの言ったことは、確かに一番確実だ。むしろ、他のルートを考えることが難しい。
「そうだな、それが一番だろう。よし、なら――――――――――」
続けようとした言葉は、突如として私達を襲った爆音に遮られる。
「一体――――――ッ!?」
かなり遠くから聞こえたその音に振り向いて、私達は絶句する。それもそのはず、私達の視線の先――――王城付近から、天に向かっておびただしい量の黒煙が立ち上っていたからだ。ここから王城まではかなり距離がある。それでも聞こえた爆音と、立ち上る黒煙は、その威力のすさまじさを物語っている。既に雲ほどの高さまで伸びている黒煙の柱は、私達を絶望に落とすには十分すぎる状況だった。
「……な、何が……」
「……あーあー、あそこまでやるか、フツー……」
足音と声に素早く振り返れば、そこにいたのは金髪をオールバックにしたライオン種のビースト――――ニライアスが立っていた。
「……ッ!」
「っと、そんなに身構えるな。俺は敵じゃあない」
「何?」
「……国王様から協力者の話は聞いたか?」
「協力者……?」
国王様との会話を細部まで思い出していくが、そんな単語はまったく口にしていなかったはずだ。黙りこくっていた私を見て悟ったのか、ニライアスが口を開く。
「はぁ、どうやら聞いていないみたいだな……俺はあんた達をサポートするよう言われているんだ。偽装の亡命でね――――無論、国王様のご命令で」
「……信用しろと? そんな突飛で、そして昨夜私達を明らかに攻撃したというのにか?」
「……言ったろう? 偽装亡命と。俺も信頼を得にゃあならんのでね。まあ、信用できないのもわかる。だから、こんなもんを持ってきた」
「……これは?」
「見たまんま、国王様から預かった、炎系統の魔力を補助する腕輪だ」
紅蓮に燃え盛る炎の色をした、細めの腕輪。確かに本物に間違いはないし、国王様が持っていたことも知っている。いや、国王様のオーダーメイドだということを知っている。だから――――
「確かに国王様のものだ。それで、これをどうしろと?」
「俺は使えないさ。あんたがたが使ってくれ、とさ」
「そうか……まあいい。それで、協力者と言ったか」
「ああ。だが、直接は手を出せない。あくまで情報の提供やちょっとしたサポートになる。それを覚えておいてくれ」
「わかっている。『信頼』だろう。早速ひとつ聞かせてほしいんだが、今の爆音……一体?」
「タクミの奴が王城に向かってどでかい魔力の雷をぶち込んだんだよ。ピンポイントで王城を狙ってな。幸いなことに、今日の王城は事情があってほとんど誰もいなかったようだが」
「事情?」
「ああ。詳しくは知らないが、なんでも国王様を含め、王城の連中がそろって別の場所で行われるイベントとやらに行ったとか。真偽は知らんが、どうも住民への説明らしい。今回の一件についてのな」
なるほど、確かに住民の移動は抑えたが、この件についての説明はまだだったと思い出す。そして王城に誰もいない、ということについても、安堵の息をついた。
「さて……俺はそろそろ戻らんとならん。まずは、この近くにある『D-182』を目指すといい。今回、奴らはまたこりもせず新しい兵器を作っているらしくてな、その開発の中枢がそこなんだ」
「またか……今回はどんなものなんだ?」
「さあ、詳しくはわからん。だが気をつけてくれ、そこを破壊しても今回は開発は止まらない。多くの武器開発を担当する施設に分担させているんだ。精々時間稼ぎになる程度で考えていてくれ。じゃあな」
言い残したニライアスは、こちらが声をかける間もなくまさしく雷のような速さで行ってしまった。
「隊長、あいつのこと、信じるんですか?」
「……今はあいつの情報を買う以外手がかりもなかろう。さあ、行くぞ!」
そうして私達は、再び前回の時と同じように、研究所を破壊することを目先の目標に動き出した。
今回の目的は「亡命者イチカワ タクミの抹殺」のほかに「対王国兵器の調査、開発の妨害」が必要になったようだ。開発が進み切る前に、急がねば――――