CODE.37
いよいよ今作本編ともいうべきAnother&Afterへ!
―――――――――魔王討伐から数年が経った。
先生に師事をしてもらっている私達の軍は、もはや一つの部隊で2,3の小隊規模の軍なら相手取ることが出来るほどに成長した。魔王軍の勢いは確かに弱まった。しかし、新たな魔王が生まれるということが魔王軍にとって原動力となっているらしい。境界線は以前より西に移ったが、それでもなお魔王軍は壊滅には至らない。
「よし、今日はここまでだな」
先生の合図で、私達の訓練はいつも通り終了する。最近、ときたま親衛隊も私達と共に訓練を行うようになった。もとより国王直属部隊とは双璧ともいうべき部隊。私達が強くなっていく間にも、同じく彼らも努力し、強くなっていく。
「先生、どこかへ?」
いつもなら一度自室へと向かう先生が、今日はそれとは違う方向へと向かう。南方向にある先生の部屋に最も近い出入り口ではなく、東側の出口へと向かった。そんな先生に、同じく疑問を抱いたらしいイースが問いかける。
「ああ、ちょっと国王様のところへ、な」
苦笑いを浮かべながら言う先生。以前から変わらない先生の面倒くさがりは、もう私達には慣れている事柄の一つだ。いつも最初には否定的な態度ではあるが、流されたり事情を聴いたりすれば大抵は肯定的な態度になってしまう。以前とは異なり、腰ではなく背に括り付けてある鞘に先生愛用のカタナをしまいつつ、そのまま出入り口から先生は見えなくなった。
「そうだ、レム。俺達隊長陣も、国王様に呼ばれてるんだ。いくぞ」
「そうなのか? わかった」
アクトが忘れていたらしい用事を聞き、私は先生と同じく東側の出入り口へと向かう。他の国王直属部隊隊長もそうだ。
大きな扉の向こうからは、何も聞こえてこない。分厚いその扉は、中の音を聞き取りにくくする。
「一体何があったんだ?」
「分からん」
「まあ、国王様に聞けば分かるんだ。待とうぜ」
セシアに視線を向けてみるが、彼も情報は掴んでいないということらしく、軽く首をふる。なるほど、セシアもまだ知らない情報か。きっとまた厄介なことになったのだろう。長い軍隊生活での経験が私に告げる。セシアの耳に入っていない情報は、厄介なことはあれど楽なことはないというのは、もはや先生ですらつかんでいるほどのことだ。
多少の暇を持て余している私達。そんな私達の目の前で、いきなり爆発と共に扉が吹き飛んだ。
「な、なんだ一体!?」
「こ、国王様!?」
「い、一体!? あっ、ち、治療に……!」
イゼフがいまだ煙が漂う国王様達がいる部屋へ入る。と、その直後に私達も部屋に入り、私達は言葉を失った。
――――――――国王様達が、倒れている?
「な…………」
「よう、お前達。来たのか」
「先生、一体何のつもりだ?」
「愚問だな、ゼルキス」
「来る……ッ!」
ゼルキスの問いに答えた瞬間、デフィアが小さくつぶやいた。私達に重い風がのしかかる。しかし、無論魔力は使われていない。これは、先生の放っている重圧。いつものように笑顔を浮かべている先生。しかし、その内面は、私達がいつも接している先生ではなかった。
「ふっ……!」
姿勢を低くし走り出した先生。先頭にいたイゼフに狙いを定めたらしい。
「くぅぅっ!」
足を払いバランスを崩したところを、腕を取って前に投げ飛ばすように地面に叩きつける。
「何を……くあっ!」
「なっ……ぐっ!」
突然の行動に声を上げたアクトに同じく足払いをかけ、自分を軸に振り回すように投げ飛ばす。その軌道上にいたセシアを巻き込み、アクトは腕を離され吹き飛ぶ。
「ちいっ! ぐおっ!」
やっと事態に順応し始めたゼルキスが駆けるも、逆に懐に潜り込まれ、首に手をまわされ、足払いを駆けられ地面に引き倒される。
「くぅっ……くああっ!」
同じく応戦すべく動き出したイース。繰り出した右腕はかわされ、逆にとられ、肩を利用し折られ、押されるように地面に倒される。
「何を……!」
「分からないか?」
繰り出された右腕を受け流し、逆に足払いをかける私。しかし腰を落として受け止められ、襟を掴まれる。掴んでいる左腕に右腕を潜り込ませ、外側に捻る様に外す。ひじを曲げて私の右腕から脱出していった左腕と入れかわりに、今度は右腕が私の右肩を掴む。一瞬対応が遅れた私の右腕は左腕で掴まれ、足払いを駆けられる。私の視界が振り回され、直後、首に鈍い衝撃が走った。
「く……ぅ……一体…………?」
「聞け、国王とその部下よ。俺は今から――――――――――魔王軍へと亡命する」
「なっ……!?」
「そん……な……!?」
辛うじて声を絞り出したデフィアとセシア。それ以外は私を含め、言葉すら出せずにいた。
「すまないな? 俺とて俺の思想がある」
そう言って、先生は右掌に風と雷の魔力を集めていく。それを床に叩きつけたのと、それによって生まれた爆発に飲み込まれた衝撃を感じた直後、私は意識を失った。