表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/67

CODE.29

 今日の午前の訓練が終了した。午前の、というのは便宜上で、昼食を含め、午前と午後をまたぐ訓練は昼時に大休憩を挟む。それを境に午前の、午後の、という呼び方が定着しているのだが……今日は、いや、今日からしばらくは、訓練は午前の少しだけで、昼の少し前から休養になっている。と、いうのも、やはり先生が魔王を(撃退とはいえ)脅威的なものとしない状況に追いやったのが主要因。

「ククク、セシア。お前頑張らないとジュイスに隊長の座をとられちまうかもな」

「う……本当にそうなりそうなんですから止めて下さいよ……」

「いやいや、隊長になるには戦闘能力だけではなく情報力、生活力、何より精神力があってこそ。まあジュイスはそこにも既に光るものがあるけどな」

「まあセシアの運の悪さは置いておくとして……久しぶりの休暇、皆遊びすぎるのではないぞ?」

 アクトの時折見る悪戯っ気に、見事にセシアが意気を轟沈させている。それを私は意に介さず、隊員達に注意を促す。私達は休暇とはいえ、いつ出動が必要になるかは分からない。肝心な時に戦力外など、ただでさえ人員が不足気味の直属部隊ではとんでもないことだ。


「先生は今回初めて休暇だったよな。どうするつもりだ?」

「んー……とりあえず街をぶらぶら歩いてみようかなって。街を歩いたのなんて作戦で街を守っていたりした時位だからな」

「ぬ、私と決着はつけないというのか!?」

「うぉっ!? なんだ、ジュイスか……脅かすなっての。それに今お前は俺に敗北を喫したばかりだろうがっ!」

「あんな訓練で真の実力が出せるものか! 遠距離魔法禁止など、制約が多すぎる!」

「あれ? で、でも確か昨日は先生に負けて……」

「……認めたくないものだな。自分自身の若さ故の過ちというのは」

「まーもうちょい強くなってからかかってこい。さて、と。とりあえず昼飯でも食いに出かけるかな」

 先生は軽くジュイスをあしらうと、そういってにやりと笑みを浮かべる。無論ジュイスに対してだ。

「そういえば、皆さん予定は?」

 セシアが唐突に聞いてくる。普段運が悪いからか、精神的な復帰はある程度早いらしい。

「俺は雑用があるな。武器の手入れの依頼とか買い出しとか……」

「私は特にないな。街でも歩くつもりだ」

「俺も雑用がいくらかあるな。アクトとは違うが」

「わ、私はレムさんと同じで、街を歩くつもりです」

「俺もそうだな」

「私は、まだ軍事以外に仕事が……」

「はあ、皆さん休日にやることが決まってるんですねぇ」



 と、いうわけで、私を含め、先生、セシア、イゼフ、デフィアの五名で王城近くの街を散策していた。ちなみにセシアは情報源として強制連行。程よく賑やかなこの街は、特に予定がなくても歩きたくなる印象を持たせる。主に木造、石造の建物が半々程度で並ぶこの辺りは、王国でも二番目に大きい街だ。そんな中の、とある商店街。他の場所に比べれば比較的静かなこの通りは、他より木造建築が多い。ここは普段からあまり賑わうことは無い。落ち着いた、とかいう言葉が当てはまるが、決して閑静ではない。この商店街は、私の好きな商店街の一つだ。もっとも、あまり来ることはできないのだが。

 ちなみに、服装は私服。軍服で休暇、それも街歩きというのは、というイゼフの提案だ。薄手の黒いシャツと、多少濃いめのベージュのズボンで、あまり普段の軍服と変わらないが、私としては大きな違いを感じる。そういえば、先生の私服姿(とはいえ借り物だが)を見るのは初めてだったと思い出す。

「さて。どこの店が良いかな……っと。お、あそこでいいか」

 昼食を食べる店を探して歩いていた私達。先生が言ったのは、私も見たことがない店。外にいくらかテーブルもあるが、やはりメインは中のようだ。

「へぇ……こんなところにこんな店があったんですね」

「ふむ、確かここは数年前に開業したレストラン兼カフェだったと思います」

「き、キレーですね、その割には」

 木造の店内は、紅茶の香りがほのかに漂う、落ち着いたものだった。

「ほう、ここならゼルキスがいなくて良かったと素直に思うよ」

「……さり気なくヒドい事言うねデフィア君? ま、いいか」

 デフィアの意見にさりげなく同意しておこう。奴ならほぼ確実に何かしらしでかす。


 メニューを聞かれて答えてしばらく、私達の前にそれぞれの注文したものが並べられる。全員紅茶、サンドウィッチ、サラダの組み合わせではあるが、中身は違う。ちなみにデフィアはさらにもう一皿サンドウィッチを頼んでいる。この後食べ歩きするから、と軽食なのに、大丈夫……なのだろうと確信した。なぜか。私より食べ終わるのがとても速かったから。



 そのあと、予定通り食べ歩いていた。主にフルーツ類を食べていたが……正直に言うと、先生とデフィアは食べ過ぎだと思う。あの量を見ていると、こちらまで腹が膨れそうだった。

 それ以外にも、私やセシアはいくらか小物を購入する。普段あまり来ることはできないので、普段使うけれど買いにくいものをこの機会に買う。例えば筆記具類や日用品の類だ。そういえば、イゼフは食べ物よりも(趣味方面の)小物を多く買っていた気もする。いや、買っている。先生とデフィアだけは食べるのに夢中のようであるが……いや、辛うじて先生はライターを一つ買っていたか。青い、王国のシンボルである、大陸を囲う円と、その直径を基点に弓なりに少し下へと書かれた一本の曲線が入った絵柄の掘り込みがあるライターだ。無論魔力式。先生は時折葉巻を吸うからだろう。

「うむ、もう夕方か。そろそろ帰るか?」

 デフィアの言葉に空を見てみれば、確かに空はいつの間にか茜色。あまり街歩きで空を気にしなかったのが災いし、帰り時を考えていなかった。私達は、夕食に間に合うかどうかはらはらしながら、若干焦り気味で王城へと向かっていった。今日みたいな日は、やはり楽しかった、と思えるのも、この夕焼けのせいであろうか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ