CODE.26
国王様からの称号授与が終わり、昼食を食べていた時。セシアが部屋に来て、今夜晩餐会を行うから来てほしいという連絡を受けた。無論主催は国王様だ。その後三時間ほどの午後の訓練があるが、それを終えてからでも十分に間に合うだろう。分かったとだけ告げると、セシアは頷いて他の部屋、おそらくは他の出席者に伝えるべく歩いて行った。
件の三時間ほどの訓練を終了し、私は一度自室に戻ってきている。流石に汗を流さず国王様の晩餐会に出席するということはできるわけがない。とはいえ、流石に開催までそんなに長い猶予があるわけでもない。体を拭き、着替えるだけにした私は、それだけでは逆に余ってしまう時間を利用して、武器類の手入れをしていた。
「ふぅ……最近まとまった時間が取れないからか?」
研いでも研いでも数多の大小の傷が目につき、私はため息をつく。そろそろ替え時かとも思うが、両親の代から使ってきたこの二振りを放すには惜しい。結局再び研ぎ始め、時の許す限りその作業は続く。
研いでいた愛用の二振りを一度鞘に戻し、私は部屋を出る。夕闇が空を覆い、雲が所々を流れていく中、私は城の中を歩いていた。相変わらず、この城は広い。この国で最も大きい建造物という記録を持つが、それを歩くたび実感する。先程部屋を出た時はまだ朱だけの空が、今はもう群青も混じっていた。ようやくといった時間をかけ、晩餐会の会場である部屋の前に到着する。私の背丈の数倍はある重厚なその扉は、その両脇に立つ歩哨が開けるというのが普段のこと。今日もそれと同じく、彼らに話しかける。
「ご苦労さん。悪いが、開けてもらえるか?」
「ハッ! 少々お待ち下さい、レム国王直属部隊第二隊長様!」
相変わらずの堅苦しい呼び名に心の中でだけため息をつく。これだけ長たらしいと、大変ではないのだろうか?
そんな私の心境をよそに、地響きのように低い音を立ててその扉が開く。中に見える部屋はやはり豪華絢爛という言葉が一番しっくりとくる。その中に入れば、既に到着していたのはセシアとイゼフ、そしてイース。国王様に促され、若干の緊張を感じながらも指定された席に座る。
しばらくすると先生や他の隊長の面々がそろい、晩餐会は始まった。いつもは見ることすら叶わないような料理が並び、次いでその他身の回りの物が並べられる。
「さて……そろそろ本題に入ろうか。今日はお主らに紹介したい人物がおる。入ってきてくれ」
食事を始めて少ししたころ、国王様が切り出した。その呼び出しに答え、見覚えのあるエルフが二名……
「紹介しよう。ワシの息子、エリムと娘、フェニアだ」
数年前から王国各地を巡る旅に出ていた国王様の子供たちだ。空のように青い髪と目は、両者が兄妹であると納得するのに十分な特徴だ。そして、今でこそ年で白くなってしまった国王様の髪も、少し前までは子供と同じく澄んだ空のような青であった。
「ああ、もう旅は終えたのですね。どうでしたか?」
「各地を巡って様々な体験や人々との交流ができましたよ」
「とても良い勉強になりました」
アクトの問いに、笑顔を作って答えたのを見て、思わずこちらも微笑みが浮かぶ。
「ところで父上、彼は一体?」
そういえば、先生は彼らが旅に出てからこの王国に入ったのだった。つまり、お互い今回が初対面ということになる。疑問を持つことはあまりにも当然だった。
「どうも、市川 拓海と申します。国王直属部隊全体顧問をさせていただいております。以後、お見知りおきを」
「ぜ、全体顧問!? そ、それほどならば是非、私とお手合わせ願えないでしょうか!?」
笑顔を浮かべて自己紹介をした先生の地位に、エリム王子様が突拍子なことを言い出す。軍事関係志望の彼からすれば、先生の地位がどれだけ憧れになる地位かはわかる。しかし、かなり無謀というか命がけというか、そういった勝負になり得ることはほぼ確実だ。
しかし、そう感じて国王様やフェニア王女様の方を見たら、なんとどちらも賛成の様子。それどころか、この晩餐会に出席した一部を除いて全員が賛成の方向のようだ。ちなみに反対は、私のほかにはアクトとイゼフ位だ。ああ、ちなみにいつも通り先生は怠け癖も相まって反対の様子だ。国王様達を見た途端諦めの表情が浮かんだようだが。
「では、夕食の後にこの部屋にいる皆だけで試合を見ると致しましょう。それでよろしいですか?」
その無意識にかけられた圧力は、反対であった私達も頷かざるを得なかった。
なぜか、その試合の審判は私とアクトが名指しされてしまった。なんというか、もうお決まりのパターンとなってしまっている。
「ふぅ……相変わらずの好奇心だね、王子様は」
「ああ。旅に出てもそこは変わっていないようで、どこか安心した……それと不安になった」
くすくすと笑いながら同感だ、と言ったアクト。そのまま会場の審判スペースに移動する。
「ルールは致命傷になり得る攻撃の禁止、負けを認める行為があった場合、即座に攻撃を中止する事」
「敗北条件は気絶、ギブアップ、フロアからの脱落およびフロア以外のどこかに体が触れること。質問は?」
双方を見て、どちらも構えを取っているのを見る。質問がない、という意味だ。互いに剣の切っ先を向け、刃先を合わせた。
「それでは……試合、開始ッ!」
私が宣言するとともに、互いに弾けたように後ろへと跳ぶ。空が群青に染まり、一日の終わりを告げている時、それはこの日一の盛り上がり、手合せが始まったことを告げていた。




