CODE.23
先生が、気絶させた門番をたたき起こして情報を聞き出した。曰く、この城は六階建て。魔王のいる部屋は聞くことができなかったが、推察するに最上階だろう。
そして、その情報を聞き出した敵兵を再び気絶させた後、一階に突入。二階への上昇手段を探していた時だ。
「ソコにいるのは分かってるぜ?」
足を止めた先生が、何本もある緑がかっている柱の内の二本の奥に向かって話しかける。先生もこの殺気を感じていたなら、どうやら私の気のせいではなかったようだ。もっとも、その殺気を隠すつもりもなかったようだが。
柱の影から出てきたのは、緑の防御用魔法具を着た二人の魔王軍兵士。手には小銃型の魔法具を持っている。顔は隠れて分からない。
「見破ったことは褒めてやる。だが死ね!」
「ひ、ヒデェ!」
一気に腰だめに構えた魔法具から、炎属性らしい弾丸が乱射される。それを、先生は風で壁を作って防いだらしい。
「うらぁぁぁ!! ……どう……だ…………な、何ぃぃぃぃぃ!?」
煙が風に吹き飛ばされ、それを見た敵が自信満々だったその顔を驚きに染める。
「くっ……う、撃て撃……ぎゃあああ!!」
再び腰だめに構えようとしたその手をつかもうとしたのか、先生が恐るべき俊敏さで敵により右腕を伸ばした。それに恐怖を覚えたらしく、身を引いた敵。先生の右手は、相手の腕ではなく魔法具を一部引きはがすのみに終わった……ひ、引きはがした!?
「……うそぉ……」
「……粗悪品ではなさそうだが……」
「もう、あれくらいじゃ驚きませんよ自分は……ふふ、ふ……」
イゼフ以外の隊長三名が小さくつぶやく。ちなみにイゼフはもはや絶句している。
「なっ! くそう、て、撤退だ! 体勢を立て直すんだ!」
今度は後退しながら、再び弾丸を乱射する敵。あの乱射量を見ると、一発に使う魔力量はそうそう高くはないようだ。
逃げた二人は、おそらく上層に逃げ込む。私達はそれを追って、二階へと進むことにした。
二階は造られたという雰囲気がした一階と異なり、壁も床も天井も夜空に囲まれたようになっている。
その部屋には先程の敵二人と、更にもう一人。そして、さらに赤と桃色の中間のような色の魔法具を纏った者がいる。上官だろうか?
「少佐がいてくれるんだ……いくら奴が強いからって!」
「先生、援護します!」
言い出したのはほぼ同時だった。私が宣言したとともに、他の部隊員も動いてくれているのが分かる。
「おう、頼りにしてるぜ。とりあえず……俺の背後を頼む! 奴ら……特に赤いのは結構やるようだぜ?」
そういうと先生は腰から銃を取り出し、目にもとまる暇なく敵兵の魔法具ごと風で撃ちぬいた。
「一撃……だと!? 備え付けの大砲並みの威力というのか! 王国軍の兵士は化物か!」
「とことんシャアだな……んでもってまわりは墜ちろぉぉ!」
もう一度、その銃口から風が放たれる。一発は直撃し気絶させたが、もう一発はかわされてしまった。
「良くかわした。だが甘い!」
敵が飛んだのを見て、先生は即座に飛んで距離を詰める。そのままカタナで魔法具を粉砕、延髄に刃を返したカタナを叩きつけ、その敵は落下と共に気絶した。
「なかなかやるようだな。だが、身体能力が圧倒的戦力差にならないと教えてやる!」
「なにっ!?」
先程の先生を上回りかねないスピードで接近し、拳を振るう。それをカタナの腹で受け、体勢を崩したところに蹴りが迫った。
「がぁッ! ぐ、まだだ!」
反撃でカタナを振るが後退でかわされ、魔法具から放たれた大量の風の弾丸を一階で見せた風の障壁ではじく。その直後、銃口から曰く備え付けの大砲レベルの威力の風が襲い、それを向こうは着ている魔法具と同じ色の盾で防ぐ。そのまま盾を構えた姿勢を変えず、先生に突撃する。今なら前が見えない……!
「今だ!」
セシアの号令のもと、遠距離へ攻撃できる魔法具を持つものが一斉に射撃を開始する。無論、私のように遠くに放てば拡散してしまうようなものは今回のように室内では危険だ。私はあくまでバックアップを務める。
それを気取ったのか、一気に急上昇し、再び急下降を始める。先生がそれにCQCの構えをとったが、それに危険を感じたのか再び上昇に転換する。背中に羽が見えた気がするが、気のせいだろうか?
「ッ! 伏せろぉぉ!」
私は、その急上昇に何かしらの意図を感じ取った。身の危険に関するものだと瞬時に理解し、咄嗟に叫んでいた。
唸りを孕んだ鈍い音がした。それにそっと頭を上げてみれば、既にヤツの姿はない。逃げたのだろう。
「……まさか、俺が倒しそびれる奴がいるとはな……」
「そうですね、彼は確かに強かったです。確か……紅き流れ星のジュイスと呼ばれていたはず……」
セシアが言ったその名、確か名前だけは聞いたことがあった。魔王軍に属する兵士でも頭一つ抜きん出ていて、さまざまな戦果を挙げているとか……
「っと、とにかく急ぎましょう、先生、隊長!」
「そうですよ。ところで……敵が少なすぎませんかね?」
「た、確かにそうです……」
「恐らくは上にわんさかいるよ。同じ体験をレムとアクトはしてる。覚えてるか?」
「研究所襲撃の時ですか……覚えていますよ。そうしたら……」
「先生と魔王は一騎打ちになるだろうな。俺達で押し寄せる敵兵を全力で排除するぞ」
デフィアの言葉に私達は頷き、最後の決戦へ向かうべく先生を先頭に走り出した――――
ちなみにこの時、先生こと拓海は空中戦等を行っておりました。ゆえに、レム達の声が聞こえなかったんですねぇ。