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 先程の貴族は水を飲んだことでしばらくの後に意識を取り戻した。どうにか動けるようだったので、このまま馬車で保護しつつ王国に帰還することになった。食事も簡易的なものであるが取ってもらい、すぐに出発する。

「で……おたくの名前は?」

「アーグリオ・ノザルスです。伯爵の地位についておりまして、ノザルス家の現当主を務めております」

 ノザルス家……失念していた。ノザルス家といえばかなり有力な行動派に属する貴族家ではないか。主に政治や知識などを専門とする会議派と対をなす行動派貴族の筆頭とも呼べるべきノザルス家。最近特に目立った動きが無く、すっかり顔を忘れていた。

「ノザルス家と言えばかなりの名家ですよね。それが何故あのような場所に?」

 セシアの質問に皆が頷く。ノザルス家といえば、それこそゼルキスだって当然のように知っているような名家だ。この森は普段からそれなりの危険性を孕んでいるというのに、なぜ自ら出向いたか……もっとも、それも彼からすれば当然なのかも知れない。

「いえ、私の家は代々所謂行動派ですからね。国王様からの直々のご依頼でして」

 そう、こうなる。しかし、国王様直々とは思わなかった。

「ああ、そういえばそうでした。これは失礼しました……それで、どんな依頼で? そもそも終了しました?」

 恐らくは納得しきっていないセシアが、話を先に進める。

「ええ、あの森で何やら動物達に異常が起こっているらしくて……一部は調査が終わりましたが肝心の最深部に近付く前に……」

「最深部……? 待ってくれ、どういう事だ?」

「森の中央部辺り……あそこを中心に凶暴化が激しくなっているのです。その地帯は……確か……」

「大魔法樹の支幹がありますね……」

「大魔法樹? 支幹?」

「ええ、この王国の中心地から南東に5km程にエラージス・クレイという広大な魔力を湛えた湖があって……その中心にある巨大な魔法樹はこの大陸中に根を宿す程巨大な物でして、その根からもかなりの数の幹が出てくるのです。

 魔法樹自体が魔力を持っていて……その周囲は魔力に満ちているので私たちにとって大変有益な場所です。例えば傷の治りが速くなったり、魔力の減りが軽減され回復も速くなり、魔法自体も強力になることが分かっています」

「丁重な説明ありがとうイース。で、その大魔法樹の支幹が何かしらの異常を起こしているかもしれないと?」

「多分、ですが」

 心底めんどくさいという表情の先生。もはや何か面倒事に巻き込まれると悟ったのだろう。しょうがないことだが、今回ばかりは賛同しておきたい。

「で、それってもしかして俺らが行った方が良いのか?」

「お願いします」

 一切の躊躇いなく即答する。無論、先生は先生である程度その答えを予想していたのだろうが、まさかここまで即答されるとは思ってもいなかったはずだ。なんせ、私だってそんな即答がなされるとは思っていなかった。もしかして、狙って今の話をしたというのだろうか、このノザルス家当主の男は……と、すればセシアと同じ類のにおいに感じる。





 イゼフ達第五隊の半分を残し、それ以外総出でこの森の奥地を現在目指している。正直、あまりにもハイ・ビーストや魔族が多すぎて少々いらいらしてきている。しかも、しまいにはドラゴン系統のハイ・ビーストまで出てくる始末。いくらハイ・ビーストがより獣の割合が多いからとて、あそこまで戦闘力を引き出したドラゴン種は初めて見た。しかし、それでもこの人数だ。誰一人怪我を負うことなく、目的地と思しき場所へ到着する。

 少し開けたこの場所は、葉と幹が静かに蒼く輝き、幻想的な感情を抱かせる。それだけならいいのだが、一つの要素が私達を緊張させる。

「で、だ。その美しいと噂の中心地に来た訳だ……が!」

「フム……貴様ら、王国軍か。では……消えてもらわねば困るな」

 緑の軍服と、その上に羽織った黒いローブ。その格好と言葉から、明らかに魔王軍だ。何をしていたかはわからないが、どうせロクなことではない。

「塵すらも燃え散るが良い! ヘルフレイム!」

「邪魔だおっさん。消えろぉぉ! 滅びの……爆裂疾風弾バーストストリーム!!」

 波の如く押し寄せようとした地獄の業火を、それを上回る暴風で強引に掻き消す。思わず強風で腕で顔を覆い地を踏みしめる脚に力を籠める。

「はぁ……はぁ……」

 どうやら終わったらしい。ゆっくりと腕と脚を戻して視界を確保すると……

「無茶苦茶だ……」

「普通あんなの一人じゃ撃てませんよ……?」

「……もう何があっても驚かないと思ったが……」

「な、何が起こったんだ……?」

「……非常識な……」

 森が一部とんでもないことになっている。半ばほどからなぎ倒されて上部がないもの、そもそも技が直撃したのか木そのものが消失しているもの……相変わらずの無茶苦茶ぶりだ。

「……敵に情けをかける性格じゃあ無いんだが……大丈夫か?」

「ぐ……」

 その場の雰囲気から逃げるように吹き飛ばした敵に歩み寄り、声をかける。だが、呻きをもらしたものの意識はないらしい。どうしようかといった風に腰を上げた先生。



「お、おい、タクミ。聞こえっか?」

「うぉぉっ!? な、なんだゼウスか。どうした?」

 ゼウス……? そう呼ばれた唐突に表れた男は、どうやら先生の知り合いらしい。いきなり目の前に現れてかなり驚いていたが、すぐに調子を取り戻す。

「マズイことになった。魔王軍が力を蓄え始めた。既に魔王のいる城に戦力を集結させているらしい。他の重点的な施設にも大分集まっているな。残念だが……敵さんは本格的に攻め込んでくると思うぞ」

 な、何だと……?

「ちっ……」

「ちょ、ちょっと待て。誰だお前!?」

 今の事態を聞いたが、それでもなお好奇心が勝ったのはこちらの質問だったらしい。アクトが男の正体を問う。

「この前飛び降りた時の声の主とは違うのか?」

「その片割れだ。で、どうすりゃいい?」

「先手を打つしかなかろう……と、いいたいところだが。既に先手を打つ余裕は少ないぜ?」

「……帰還しよう。森は後回しだ。急ぐぞ!」

 アクトの質問はさらりと終わらせられる。むしろ、それより数段大事なことを離さねばならないとゼウスとかいう男は話を進めた。


「チッ……よし、第二、四、五、六隊は俺と、それ以外は王国に帰還し国王に事態を伝えてくれ。そんで万が一に備えてお前達は防衛線準備、指揮は各隊長が行ってくれ」

 恐らく全員で戻っては間に合わないのだろう。先生は部隊を各隊ごとに役割を分け、即座に行動を開始することを暗に促してくる。その事態の緊急性を即座に悟った私達は素早く各々の部下をまとめ、今の事態を手早く再確認、再び集合して最終的な情報の伝達があった。

 先生によれば……この戦いは終止符をうつ戦いになるという……ついに、永い間行われてきた戦争に、少なくとも一つの区切りがつく時が来た――――

 そういえば作中でハイ・ビーストの説明が出ていないことに気づいてしまった……と、いうわけで後付になってしまいましたがここで。

 ハイ・ビースト:作中に最初に出てきたブル・ビーストもこの中に分類される。一言で言い表せば、ビーストのうち、より特徴が濃く出ているものを指す。もともとビーストは一つのベース(人間に近いと考えるとわかりやすい)に、それぞれ動物の特徴を織り交ぜたもの。いちおう純粋な動物というのは存在しないわけではない(作中の馬車などを見てもらえばわかるとおり)が、種族的には純粋な動物<(ハイ)ビーストである。と、いうのもビースト、あるいはハイ・ビーストが二つの種の特徴を併せ持つために、動物の身体能力とベースの知性を兼ね備えているということがあげられる。ついでに、そのベースになった方は環境適応力が低かった為滅亡した……らしいと伝承される。ベースはいわゆる人間よりも知性は高く身体能力は低かった為、バランスが生き残るのには不釣り合いだったようだ。ハイ・ビーストはベースの知性より身体能力をより多く受け継いでおり、見た目はビーストよりなお純粋な動物に近い。ただしもとは同じ種であるため、両親がビーストだからと子供もビーストとは限らず、逆もまた然り。ただし傾向的には両親の特徴を受け継ぎやすいらしい。




 え、設定が異常に裏設定的すぎる? そりゃそうですよ裏設定帳から引っ張り出してきたんですもん。

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