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「さて……どうだ、そろそろお互いのクセやらは理解できたか?」

「大体、な。他は?」

 アクトが真っ先に答え、私達の方に向き直る二人。それに私達は頷いて答える。

「そういえばセシア、お前の隊戦い方が途中で変わったよな」

「あ、最初に気付いたのはデフィアか……うむ、予想外」

 何がどのように予想外なのか少し考えただけで分かってしまうところから、私は読心術でも使えるようになったかと心の中で冗談を言う。

「先生には……徹夜を強いられましたからね……嫌でも覚えますよ……」

 目の下に遠目でもわかりそうなクマを携えてげっそりとしたセシアが何やらぼそぼそと呟く。全く生気が感じられないが大丈夫だろうか? と、いうか一体どれだけの時間セシア達をしごいていたのだろうか。それでもけろっとしている先生が不気味でならない。

「さて、そろそろ昼飯の時か―――」

「て、敵襲ー! 敵襲ーー!!」

 ゼルキスがあくびでも一緒にしそうな声で言うのを遮る様に警鐘と怒声が響いた。

「さて……じゃ、事前に伝えた位置についてくれ。俺は今回セシア達と遊撃に参加すっから」

 頷いて少し離れたところに待機していた部下をまとめ、あらかじめ聞いていた場所目指して走り出した。




 目的の草むらが見え、部下たちと共に身を隠す。この「K-592」の西にある草原のうち、敵が侵入してくることができる唯一のルートの出口から二つ草むらをはさんだ位置に私達は潜伏していた。その二つの草むらにはアクトやゼルキスの隊が待ち構えている。

 じっと待っていると、渓谷を吹き抜ける風以外に荒く野太い号令の声と多くの足音が聞こえてきた。耳がもともと優れる私はそれを皆より早く聞き取り、アクトやゼルキスも含め武器を構えさせる。単に目配せをしただけだが、事前に打ち合わせたことと普段からの信頼関係もあって一瞬の滞りもなくそれぞれが背中や腰に預けていた己の相棒に手をかけた。

 後ろに構えている前線戦闘向き以外の隊は基本的に私達の補佐が多いが、今回はそうも言っていられそうにないのか前線より一歩引いて「待ち伏せ」を試みている。ようするに、私達の撃ちもらしを最終的に止めるというわけで、彼らの仕事は私達の仕事の成果にかかってくる。先生曰く、大体敵を五分の一程度まで減らしてくれれば言うことなし、最低でも半分以上減らしてくれとのこと……だいぶきついがおそらく大丈夫だろう。

 足音が次第に近づき、逆に日は既に落ち始めている。無論、昼であるために気にするほどでもないが、時間が経てば日は向こうの背に落ちていく。そうすれば自然と目くらましになりかねないので短期決戦に持ち込む必要がある。

「……いいか、この戦い、日が傾かないうちに短期決戦をしかけるぞ。他の隊にも伝えてくれ。まず、私が広範囲に炎をばらまく。その後はいつも通り戦ってくれ。ただ、魔力は今回惜しむなよ? さっきも言ったが短期決戦だ」

 静かに指示を出した私にしっかりと頷いて答える六名。それを見て、部下の二名がアクトとゼルキスの隊に伝令しにいく。私が放つ炎が彼らにあたりでもしたらしゃれにならない。





 足音がさらに近づき、比例して私達の緊張が高まっていく。草が揺れる音が鮮明に聞こえるほどに静まっている。肌がピリピリと刺激されるような感覚を覚える。相変わらず、戦場での静寂と緊張感というのはいつまで経っても慣れないものだ……






 一気に荒い掛け声と足音が大きくなる。これは流石に後方待機している者にも聞こえただろう。同時に、岩陰から大量に敵兵が現れる。だが、その狭い場所から出てくることは愚かでしかない。思うより広範囲に炎を放たないでも済みそうだ。

「はああぁぁぁ……ッ!」

 私が持つ剣の特殊な効果で強化、省魔力で放たれた豪炎は容赦なく岩から飛び出て回避に移れない敵を焼く。それに驚いて再び動きを止めた敵兵、撤退に移る敵兵がいたが、後者は事態が分からない後方の兵士に阻まれて結果前者のみといった結果に近い。

「今だ! 放てぇ!」

 遠距離攻撃に関しては部隊トップのアクトが号令を放ち、それに従った兵士が弾幕を張る。中には私の部下も含まれるが、残り数名は接近戦を仕掛けるべく力をためる。岩陰が灼熱に包まれて出てこれないところをアクト達の弾幕が追撃し、たまらなくなったらしくどっと枷が外れた川のようになだれ込んでくる。それを迎撃すべく弾幕をアクト達の隊に任せ、素早く私とゼルキスの隊が構えた。

「アクト、下がれ! 俺達が行く!」

「わかった、援護に回る!」

 私達の中でも最も近い距離での戦闘を得意とする第三隊が、中距離戦闘を得意とする第一隊と入れかわる。それに一歩遅れる形で私達第二隊も突撃し、戦闘を開始する。同時に遠距離に隠れるように待機していた第六隊の射撃も加わり、一気に戦闘が激化する。

 だが、向こうの目的はこちらの殲滅などではなく砦の奪取。自然、私達の攻撃をすり抜けて砦を襲おうという者も出てくる。実際既に何名かの通過を許してしまった……だが。

「残念だったな。貴様らの快進撃もここまでよ!」

 微かに聞こえたその宣言に、私はほんの少しだけ口角を吊り上げる。作戦が成功したことと、何より頼りがいあるその声に、私は目の前の敵に集中する。


「レム、悪ぃそっち行った!」

「ちゃんと捕えろ馬鹿者が!」

 悪びれた様子もなくこちらに兵を逃がしてしまったゼルキスに、六割程度の怒りを浴びせておく。それでもしっかりと剣の腹で敵の振りかぶった剣を止め、腕をとり右足を払って地面に背を叩きつける。そのまま気絶したらしくがくりと体を地面に預けた敵を放っておき、遠距離からの弓矢をかわす。近くに寄ってきた斧を振りかぶった兵を剣の柄で殴り気絶させ、いったんその場を離脱する。直後に巨大な氷の柱が出来上がるが、既に私はそこにはいない。その氷柱を作ったらしき敵が舌打ちしたのを見て、即座に炎をぶつける。かわされたが体勢を崩したため、即座に走り寄って腕を取り投げ飛ばす。高くから落ちたのであっけなく気絶したらしい。魔力攻撃メインで鍛練を行えば自然と体力がなくなるのは仕方がないことだ。




 しばらく戦っていると、既に数がだいぶ減ったことに気付いた。まるで動くことが流れに流されるようだった魔王軍であったが、今ではもう数百しか残っていないらしい。そうとなると不利と分かったらしい魔王軍軍勢にも焦りが見え始めて動きが単調になる。

 そしてしばらく、あっけなく最後の兵士も気絶して、戦闘は終了した。その後、気絶したりと無力化した敵兵を回収している時だ。魔力が風を切って飛ぶ音と、それを放つ弦が弾けたような音が聞こえ、全員が咄嗟に身を屈める。

「ぐぅあぁっ!」

 だが、一瞬だけ間に合わなかったらしい。先生の方を見れば、顔を覆うように赤い飛沫が舞っている。それで叫びそうになったが、それは先生自身の言葉に遮られた。

「馬鹿野郎共! 俺なんかに構っている暇があったら迎撃準備だ! 俺がこれ位で倒れると思うか!」

 虚勢だ、と瞬時に悟っていたが、皆先生の気を汲んだらしい。私も同じく、それ以上何も言うことはなかった。


 その直後に、再び魔王軍兵士が岩の道から出てくる。まだ隠れていたというのか! それに応戦すべく身構えると、ふと気配が後方で一つ動いたのを感じ、その方向、つまり右を見ると……

「ちょっ! せ、先生は下がってて下さいよッ!?」

 先生が先程と異なり、あろうことか最前線であるここまで出てきていた。

「だいじょーぶだいじょーぶ。遠くから撃ってるから」

 最前線まで出張ってきて言うセリフではない。しかし、その体から感じる微かな圧力に私は渋々頷かざるを得なかった。




 その後、先程の大軍勢より遥かに少ないその軍はあっという間に全滅した。と、いうのも、尋問した先生やイゼフに聞いた話だと彼らは先程の大部隊のバックアップ、及び彼らをおとりにした奇襲をしかけるつもりだった……とのことらしい。そんなものだから兵数も少なく、行動をスムーズにするために遅れて出発したらしいが予想以上に早く大部隊が全滅していたらしく、せめてもの報復として矢を撃ったらしい。

 そんなセシアからの報告にため息をついてその場を後にしたとき、先程射られた顔を抑えながら思いつめたような雰囲気の先生をみかけ、駆け寄る。

「先生! 大丈夫です……か?」

 こちらに気付いた先生の顔を見た瞬間、私は言葉を詰まらせた。雰囲気を感じ取ったのか、他の各隊長やそれぞれの部下が集まってきた。

「……どうも、目が逝ったようだ……」

 その言葉を聞いた瞬間、周りの空気は凍りついた。あまりにも深刻なその怪我に、私達は言葉が出なかったのだ。

「そ、そんな……私じゃ直せないんですか!?」

「無くなったり傷ついた器官は直せるのか!?」

 二人は微かな希望に気付いたが、先生が聞いた瞬間イゼフの表情は曇る。

「あ……それは……その」

「……そうか。まあ、起きた事を悔やんでも仕方が無い、か……」

 ふう、とため息をつきながら先生は諦めたように言う。確かに割り切るのが最良の選択なのかもしれない状況だが、そうもあっさり諦められることだろうか? とはいえ、先生本人も半ば諦めきれないらしく、その表情は暗かった。

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