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「「D-106」所長アフレイと副所長デーリム! 貴様らは包囲された、殺されたくなければ抵抗するな!」

 アクトが宣言し、それなりに広い室内で机に向かい雑務を行っていた二人が驚いたようにこちらを見る。

「な、なんだお前達!!」

「くっ、何者だ!」

 二つの声が重なる。前者はここの所長アフレイの野太い声。後者は副所長デーリムの鋭い刃のような声。

「名乗る必要があるか? これから私達の名も聞くことがなくなる貴様らに」

 あえて剣を鞘とこすり合わせて音を出しながら抜き放つ。アフレイは明らかにおびえていたが、デーリムは動揺した兆しは見せない。なるほど……どうやら戦闘に関してのみ言えばアフレイはほぼ役立たず、デーリムは少なくともアフレイの護衛ができるほどにはやるようだ。

「アクト、まずアフレイ確保だ。デーリムはかなりできるようだぞ」

 わかってる、と言わんばかりに頷きを一つだけ返すアクト。それを合図に、部下たちが警戒を解かずバックアップにまわり、それを確認した私とアクトがデーリムに突撃する。

 それに反応したデーリムは素早く腰の短剣を抜こうとするが明らかに間に合わない。それを瞬間的に悟ったデーリムは右足で腰の高さほどに蹴りを繰り出してきた。ギロチンのように迫るその蹴りを右手に持った剣の腹で受け止めるが、かなりの脚力らしくそのまま反撃に移ることができなかった。だが、もとより彼を倒す目的よりも、もう一人をとらえる目的のほうが断然高い。アクトは蹴りを無視し、一気におびえて震えているアフレイを確保、部下に引き渡した。

「くっ、それが狙いか……」

「ふっ、残念だったなデーリム?」

「貴様の命運もここまでということだ。さあ、足おどけておとなしくしてもらおうか?」

 それに従い、足を離すデーリム。しかし――――

「ぐっ!?」

 そのおろした右足を軸に、左足での回し蹴りを叩き込んでくる。しかし警戒を解ききってはいなかったため何とか受け止めるが、先程とは威力が段違い。私は顔をしかめ、後ろに回り込んだアクトを見る。同時に何発もの氷の弾丸がデーリムを襲うが、デーリムは慌てる素振りも見せずしゃがみこんで回避する。その隙に横っ飛びに距離を取り、構えなおす私とアクト。部下たちも残り一人しかいない敵に注意を向け、武器をそれぞれ構える。


 アクトの魔法攻撃を合図に、一気に掃射するように魔力をかなり込めた魔法を行う全員。四方八方からの攻撃がデーリムを襲った。

 勝った――――そう思った矢先、デーリムを檻のようにかこう幾筋もの黒い魔力。

「無駄だ……俺に魔法は通じない」

 煙が晴れ、同時に奴は宣言した。しまった、闇属性持ち……!


 気付いた時には、既に奴の闇が私達を襲っていた。対処する動きを起こす間もなく、鞭のような闇が私達を攻撃した。

 流石に本家の闇とは違い私たち自身を消失させるほどではないようだが、それでも壁に叩きつけられて呼吸ができなくなる。私達を捉えられなかった闇の鞭が壁にぶつかりひびを生む。

「なんだこんなものか? …………つまらん。死ね」

 心底つまらないという風に吐き捨てる。何とか私とアクトが立ち上がり、彼に向かい走る。

「へー、まだ立てるんだ。じゃ、コレならどうさ」

 もう興味を失ったらしく、まるでこれで十分だといわんばかりに打ち出したのは、数十の闇の球。

「うっ!?」

 掻き消そうと高密度の炎と氷が生まれるが、数的にも向こうが勝る。二方向に円錐状に放たれた黒い弾丸の群れはいともたやすく両方の魔法を破り、私達に向かう。

 悲鳴も上げられぬほどの威力の攻撃をくらい、再び壁に叩きつけられた。そのうちいくつかが壁にいくつもの大穴を開けた。




「なっ……!?」

 かすかに聞こえた驚愕の声。その主は、疑うべくもなく先生だった。まさか、もうあの数の敵兵を倒し終えるとは……

「ホウ、なんだまだいたのか?」

「てめぇ……」

「ククク、『断崖の研究所要塞』へようこそ。俺はここの副所長、デーリム。貴様も……ここからは出しはしないぞ?」

 薄気味悪い笑みを浮かべ名乗るデーリム。奴の能力を知らせるべく、アクトが口を開く。

「く……! せ、先生! 気をつけてくれ、そいつは……生まれながらのっぐぉぁぁっ!」

「アクト!」

 だが、それすら許さないのか再び闇の球をアクトめがけ一発放つ。もはやかわせないとわかっているのだろう。

「ふん、貴様如きが喋るまでもない。そう、私は生まれながらに闇を司る魔族の血を継ぎし者! 魔王候補の一人を前に貴様は這いつくばるのだ!」

「大層な大馬鹿者だ……眠れ!」

 雷を纏ったかと思えば、それは既に先生が移動した後に残った雷だった。それとほぼ同時に壁が崩れる音がしてその方向を振り向けば、文字通り壁が崩れている。その際に巻き起こった小規模の煙が晴れるとそこにはデーリムが崩れ落ちていたが、すぐに立ち上がった。

「クク、クハハハハハ! なるほど、貴様はそこの『クズ共』よりも面白いようだな!」

 その言葉を聞いた瞬間、ピクリと先生が反応する。

「クズ……だと?」

 普段聞くことがない、いや、聞くことがなかった、理性すら置いていくほどの怒りをはらむその声に、私の背中に軍服が張り付くほどの汗が流れていることに気付いた。

「ああ、そうだ! そこに伸びている『クズ共』などよりお前はよっぽど強い! さあかかってこい! 貴様を殺す方が面白そうだ!」

 また、先生の雰囲気が変わる。より明確な憎悪を纏っている先生は、今まで全く見たことがない。

 カタナの刃になっていないほうで殴り飛ばす先生。それくらいの慈悲の心や理性は残っているらしい……が、それでも不安だ。いつ、先生が壊れてしまうかわからない。そして、たぶん先生は再びデーリムを……衝動で殺したことに後悔してしまうだろう。それだけは、絶対にダメだ。

「ぐはぁっ!」

 以前、先生が敵兵に対し怒りを爆発させたときの黒い雷。それが今度はデーリムを襲う。闇魔法で防御する間もなく、一気に床に叩きつけられる。小さな穴が床に空き、その衝撃を物語る。

「ク、ククク……強い、強いぞ……! どうだ、貴様。そこの『クズ共』とつるむのは止めて、魔王様の配下にならないか! ゆくゆく私が魔王になれば、貴様を優遇してやるぞ?」

 未だに力の差をわからない様子のデーリムは先生を魔王軍に勧誘し始めた。

 しかし、それを最後まで聞くことなく先生の掌には先程よりもなお黒い、まるで夜の星が少ない空のような雷が生まれる。それがデーリムを吹き飛ばすと、今度は荒れ狂う風を纏って回し蹴りをくらわせる。そうして倒れ伏したところへそのままかかと落としで追撃し、衝撃で浮かび上がったところを再び黒い雷が襲う。

「……まだあいつらを『クズ共』呼ばわりするか?」

 壁に叩きつけられたデーリムに、もはや感情すら感じさせないほどの低い声で問う。その向けられたカタナの切っ先が唯一彼の心境を代弁する。

「フ、フン。お前は強くとも『クズ共』は『クズ共』に変わりはなグギャァ!」

 最後まで答える前に黒い雷が爆ぜ、浮いたところを空いた左腕で殴り飛ばす。

「もう一度問おう。最後の問いだ。

 ……まだ、言うか?」

「何度……聞いても答えは変わらんな」

 立ち上がれないながらも強がりを見せるデーリムに、先生は今までの三倍は高い威力を持っているらしき黒い雷を蓄積させ始める。明らかに目は本気だ、外すつもりはないらしい。あんなのが当たれば……死体すら残さない!

 そうわかった瞬間、私の体は動いていた。

「……断罪する…………死ね!」

「ダメぇっ!」

 体の全体重をかけて体当たりを敢行する。もし半端な攻撃で先生を動かすこともできなかった場合、容赦なく雷はデーリムを襲うだろう。

「誰……ッ」

 一瞬状況が理解できなかったようだが、吹き飛ばした私のほうを見るとそれなりに理解したようだ。

「あれ……俺は……?」

「先生……何で……っ!?」

「え……ってうぉぉ!?」

 ふと先生が横を見た瞬間、彼は素で驚いたらしい声を上げる。まさか、まさかとは思うが……彼は怒りで我を忘れるタイプなのだろうか……それならそれで都合がいい。あったことを(一部抜かして)先生に伝えておく。




 結局、先生を止めることができて、私達の方にも敵軍の方にも死者は出ていない。それをアクトから聞き、帰還しようと立ち上がる――――

「とっとと……ありゃ?」

 ぽすり、と音を立ててしりもちをつく先生。

「どうしました?」

「た、立てん……むぅ……何故だ!」

「魔力の使い過ぎ……は先生に限ってあり得ませんし……何でしょう? とりあえず肩貸しますよ」

「おう、すまない……」

 手を差し出し、彼の肩を担ぐ。今までの強さから想像もできないその体の軽さに一瞬驚いてしまったが、それがなおさら先生がもともと軍人や格闘家の類でなかったと思い知ったのは蛇足になるだろう。

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