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 おお、なんとなく久々に戦闘描写を細かく書いた気がする……?

 いつも通りの時間、日が昇ってから一番高くなるまでの丁度中間辺り。私達は王城内の訓練場にいた。午前から始まる訓練に参加するためである。

「おーし、今日は特別メニューだ!」

 開口一番そういった先生。それに私達は落ち込みざるを得なかった。なぜなら、ほぼ確実にこういう時はノルマ(難易度高い)を達成しないと罰ゲームと称して大抵なにかきつ過ぎるとかそんなレベルを超越したことをさせられる。

「そう落ち込むなお前ら。むしろ今日は成績優秀者にはご褒美が――――――」

 そのいつもとは違う言葉に、私達は希望の光を見た。これなら、もしかしたら「罰ゲーム」もないのでは――――と。しかし、それも無残にガラスのように砕け散る。

「無論……いつも通り成績が著しくない者にはご褒美とは対極の物をくれてやるから覚悟しろ!」

「く……もうここを二十周は嫌だぁぁ!」

 激しく賛同する。むしろ、二十周で済めばいいが。褒美とか言うからには、それ相応にノルマ上昇や罰ゲームがきつくなるというのが先生の性格からして安易に予想できる。

「そ、それで……今日は何を?」

「いい質問だイゼフ。今日のメニューは……」

 沈黙が場を包む。空気が気体ではなく個体になっているような感覚に陥り、額に、背中に、首筋に、幾筋もの汗が流れていくのを感じる。

 その数瞬を数時間に感じるような沈黙は、予想通り先生のメニュー内容の発表で破られた。

「俺との試合だ。今までの組み手と違って魔法使用を許可、あるいは魔法以外の戦闘も許可だ。つまり実戦と一緒。

 どちらかが戦闘中に明らかに負けを認めた時を勝敗の決定とする。無論気絶したりした場合もだ。

 で、何か質問は?」

 こくり、と頷く私達。普段から組手は行っているが、身体強化なども含め魔法はほぼ使えない。主に魔力切れや遠距離を主体としている隊が接近されたときに対応できるようにしたり、そもそも接近戦が主体である隊のためだ。

 だが、今回はまさしく実戦形式。唯一違うのは「戦争」ではなく「試合」だということか。

「よーしじゃあ先ずは……よし、アクト。お前の隊からだ。誰から来ようと構わんぞ」

 石畳に上り、アクト達第一隊を呼ぶ。


 しかし、私には本当に些細なことであったが、一つの疑問であった。セシアにとってはそれが重要に感じたのか質問を投げかけていた。

「……あれ? 先生、カタナは?」

「んなもんお前……使ったら即座に俺が勝つもん」

 びしり、と音がしそうなほど左手を天に突き出し人差し指を伸ばす。自信にあふれ、初見の相手であらば彼を自信過剰と称したろうが、生憎と私達は実力を知っている……その自信に見合う実力を。

「で、俺が使うのはCQCと遠距離以外の魔法。お前らは何使っても構わんぞ」



 そんなこんなで第一隊がアクトを残し全員戦い終えた。その結果は予想に違わず全敗。一人につき一分とかかっていない。

「情けない……アクトの隊はアクト以外はお仕置き確定だな!」

 あなたが強すぎるんだ……そう言いたいところではあるが。第一隊の面々は恐怖で顔が真っ青になってしまっている。今の青空といい勝負ではないだろうか。

「さ~アクトー、かかってこーい!」

「後悔するなよッ!?」

 いつの間にか対峙していた二人。アクトが魔法具を用いて氷の弾丸を放つが、それも風の障壁で跳ね返される。いつもながらに信じ難い強固な守りだ。

「なっ……反射!? くそ、バケモンめ……!」

「なんか傷つくな~……じゃ、そろそろ行くよ?」

 先生が纏う雰囲気が少し変化する。今までは和やかさを残した雰囲気だったが、今はその和やかさは消え、にじみ出ているのは微かな殺気と強大な重圧プレッシャー

「フハハハハハ! 我が右手、発射用電力蓄積中!」

 その殺気をぶち壊す高笑い。同時に天を仰ぐかのように両手を広げる。その両腕に雷属性の魔力が集まり、バチバチと音を立て始める。

「消し飛べぇい! チャーグル・イミス……じゃなかった、電磁投射砲レールガン、投射!!」

 その両手をアクトの方向に突き出す。

「あ……しまった威力強くしs―――――」

 慌てた様子で魔力を操作する。どうやら多少コントロールを誤ったらしい。そもそも、投射ということはそれは「遠距離魔法」ではないのだろうか……

 直後爆発が起こ――――爆発!? アクトは大丈夫か!?

「ん……と……大丈夫?」

 先生が声をかけたその視線の先の煙が晴れると……そこにはとりあえず生きているアクトがいる。

「ぐ……? く、流石、だ……」

 がくりと倒れ、隊員達に運ばれていった。


 本気を出さずにアレか……若干、この後に訪れる自分の番が恐ろしい。



 ただ、時というのは無常で、しかも次に選ばれた隊は私達の隊だった。

「では私から行こう。では……行きますよ?」

 表面上ではどうにか冷静を装いつつ、内心膝が震える思いだった。もしあれが直撃していたら、と考えてしまったりしている。

「おう、かかってこい。多分さっきみたいな事故は起こさんから……」

 その自信のなさに改めて恐怖が湧くが意を決して二振りの剣を構え、地に沈むほどに体勢を低くする。そのまま地を蹴り急速に接近を試みる。

 そして先生まであと三歩といったところで、私は屈めていた体の勢いを利用して、今度は上空へと地を蹴る。

「はああぁぁっ!」

 その跳躍の勢いを利用し、地を抉るように剣を振る。舌打ちを残して横っ飛びに先生が避け、そのまま回し蹴りを繰り出してくる。着地の際に沈み込む力を殺さないことで沈み込みそれをかわす。

 ほう、と先生の声が聞こえた気がした。だが、正直今の蹴りが右肩を掠めて冷や汗をかいた私にはそれどころでもなかった。

 そのまま右の手に持った剣を横薙ぎに振るい、先生はそれを一歩踏み込んで黒い小刃で受け止めた。まずい、これは――――!

「はっ!」

 剣の根元付近を弾かれ、動かせなくなった右腕。それを引き寄せ、私に背を向けるように体を反転させて右肩に乗せる。この後はおそらく腕を引かれ、そのまま腰で体を浮かされ背中から地面に叩きつけられる。そう直感で悟った私は、右腕を捻り肘を曲げる。同時に腕を引くことで、このパターンは回避できたはずだ。

「ほう、やるな」

 飛び退いて距離を取った私に、先生はそう言った。余裕すら見せる先生と対照的に私は既に汗をかき始めている。

 先生が独特の構えを取り直す。左手を前に、両手を顔の前で交差させるような構えは、完全にCQCを狙っている。

 一瞬だけ沈黙が流れ、先に動いたのは先生だった。咄嗟に剣を手放し、来たる彼の攻撃を受け流すべく両腕に緊張を走らせる。

 左腕をとられ、引かれる。その力に逆らおうとすることもできぬまま、私の体は前へとつんのめる。その勢いを利用し、左腕は離さず私の左横に移動する。前に出た左足を払われ、そのまま私の視界は私の目が追い付かないほど素早く動いた。

 直後、背中に痛みを感じ、肺から空気が出ていった。

 投げられた。そう悟った私は、降参の声を上げていた。

「大丈夫か?」

「え、ええ……ごほっ……」

 呼吸を整えながら何とか立ち上がり、邪魔にならないよう石畳から外れて腰を下ろした。




 その後、結局先生に勝つ者はいなかった。持って数分、大抵は一分ともたなかった。私以外にセシアは二回CQCを返したが結局目にもとまらぬ何かを食らい吹き飛んで行った。あとはみなCQCを返すことはなかった。かけられることがなかった者もいるにはいるが。


「よし、レム、セシア、お前らはいいや。後……うん、後はおしおきだな。よし、ここから―――」

 その言葉を理解するのに数瞬を要したが……私はどうやら合格したらしい。他の者には申し訳ないが胸をなでおろした。

「で、レムとセシア。お前らは……まあ食堂で待っててちょーだい。コイツら終わったら行くから」

「分かりました♪」

「了解です」

 おしおき、こと罰ゲームはまたもやランニングだった。いつもの数倍の距離の。彼らが走り出していったあと、先生の言葉に思わず楽しげに返してしまったのも目をつぶっていただきたい。なんせ、あの恐ろしい罰ゲームをスルーできたのだから。


「お前ら……純粋だな―……」

 私とセシア以外の泣きながら食事をとる面々を見て、呆れ笑いを隠すことなく先生が言った。

「この世界では奢るという行為はあまりないんですよ。だからじゃないですか?」

 おそらく先生のいた「世界」での奢りは、ここよりもずっと身近で気軽なことなのだろう、と悟った私は一応知らせてみた。

「そっかー。じゃあ明日からこのご褒美を行う事も考えておこうかなぁ」

 そんな私のセリフに、にやりと笑みを浮かべてわざとらしく言ったそれに、ほぼ全員がぴくりと反応した。ああ、明日からきっともの凄いことになる――――本能でそう悟った。

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