第2話 完璧な作戦なのに
本日2/3回目の更新です
タヌキなので器用に窓を開けられます。
で、外に出てみたのですがここは2階。……高いような気がしますが、まぁ行ってみましょう。どこかから上手に降りられるはずです、タヌキなので。
ブルーベリーさえ見つけたらもうここに用はありません。でも美味しかったらティーカお嬢さんの振りをしてしばらく居座るつもりです。一族にも知らせてあげないと。
花台を伝って進み、降りるのにちょうどいい台とかを探そうと思うのです。思うのですが。
しくじりました。お隣の部屋あたりまでは順調に移動できたのに、そこで花台に足がすっぽりハマってしまったのです。完璧な作戦のはずが、花台が網目デザインだったせいで!
綺麗な花を咲かせた植木鉢が並んでるせいで足元がよく見えなかったっていうか……。植木鉢が邪魔で上手に力が入らないっていうか……。
挟まった左足を引っこ抜こうともがけばもがくほど、深みにハマっていく感じ。右手も網の隙間に挟まってしまって焦りは募る一方です。っていうか、もう無理だと思う。きっと私はこのまま死ぬんだ……。
悪くないタヌ生でした。惜しむらくは恋愛ひとつしなかったことですが、自由に生きた結果なら仕方ありません。できればここのブルーベリーを食べたかったなぁ――。
「これはこれは……。ふふふふ。バタバタと物音がするから何かと思えば、まさかタヌキがこんなところにいようとは、ね」
心地いい声音とゆったりした語り口はさっきも聞きました。
そっと植木鉢をどかしたかと思えば腰のあたりを掴まれて、丁寧に右手と左足を引き抜いてもらいます。その間、私は死んだふりですけど。だって人間は捕まえたタヌを痛めつけようとすることがありますからね。
今は死んだふりをして、セーレイが油断した隙に逃げましょう。ヨシ、今度こそ完璧な作戦。
セーレイは私を室内に入れ、そっと床に降ろします。
死んだふりをしてるときって、どう動くのが正解ですかね。立ってちゃマズイですか。でも死んだら硬直するっていうし、立っててもおかしくないです。きっとそう。
「さて、固まっているようだけれど……このタヌキをどうしようか。東方由来の種に見えるけれど、この辺りには生息していないはず。となると、ティーカ嬢のペットかもしれないね。ちょっと確認してみようか」
言いながらセーレイは扉のほうへと向かいます。
もしかしてマズイのでは? 今、ティーカお嬢さんがいるべきお部屋は無人です。だってティーカお嬢さんここにいますし。
私はセーレイが開けた扉の隙間から、彼の足元を縫うようにシュパっと外に飛び出しました。セーレイより先に部屋に戻ればいいんですからね。これぞ完璧な作戦。
……で、私の部屋はどこですか。
飛び出して早々に立ち止まった私の真上で、クスクスと笑う声が。
「んふふふ。迷子、かな? それじゃあわたしが道案内を買って出ようか」
再び抱き上げられました。なんたる屈辱……。
しかも私の部屋はお隣だったみたいです。そういえば花台にスポっとハマったとき、お隣の部屋くらいって思った気がします。私としたことが重要情報を失念していました。エリートタヌキなのに。
「ティーカ嬢、ちょっといいかな」
セーレイが何度か扉をノックしていますが、返事はありません。ティーカお嬢さんったら失礼な人ですね。私ですけど。
「疲れて眠っているのかもしれないね。後にしようか――おや。今、何か音が……」
確かに室内で何か物が壊れるような音がしました。私の耳もぴぴっとその音を聞き取っていますし、私を抱くセーレイの腕にも力が入ります。
もしかしたら不審者が入り込んでいるかもしれません……!
「失礼、緊急と判断して入らせてもらうよ」
セーレイはそう言いながら扉を開きます。
拘束が緩くなったので、私は腕から抜け出して彼の身体を伝いながら降りました。不審者はセーレイに任せて、今のうちにティーカお嬢さんに化けないと。
さすがに目の前で化けるわけにはいかないですが、ベッドにもぐりこんでおけば寝てたって言えると思います。完璧な作戦。
「誰かいるのか? ティーカ嬢……? おや、彼女のドレスがなぜここに。花瓶が落ちているけれど、他に争った形跡はない、か。……ふむ、窓が開いているね」
ハッ。そういえばタヌキに戻ったときに脱いだドレスは窓際に置きっぱなしでした。
ベッドへ向かっていたところでしたが、さすがに裸のティーカお嬢さんが出て来たらびっくりさせてしまいますし、いったんクローゼットに入って……。あ、でもベッドの中なら裸でもいい気がします。人間はベッドで裸になるって聞いたことがありますから。
考えを巡らせるのと同時に何度か室内を行ったり来たりしてしまいましたが、ようやくベッドに到着。
……と思ったけどベッド高いな! 必死に跳ねても全然届きません。
「ここに乗りたいのかな? あまり汚してほしくはないのだけれど」
セーレイが私を抱き上げ、ベッドに運んでくれました。
タヌキの私にはちょっと重いキルトを手と鼻先でめくり、中へともぐりこみます。これで姿を隠すことができましたので、ティーカお嬢さんの姿に戻りましょう。




