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タヌキ令嬢マヨの完璧な作戦 ~どうもタヌキです。貴族令嬢に化けたら辺境の公爵様に嫁がされました~  作者: 伊賀海栗


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17/18

第17話 失礼しちゃいます


 転げ落ちた先には枯れ葉が散らばっていました。


 人間の姿のときに服として使っていた葉っぱです。

 再びそれを急いでかき集め、ヒトの姿に変化しました。ちゃんと話をするのにタヌキの姿では不便ですからね。


「それは従属であって結婚じゃなくないですか」

「おや。タヌキのマヨも可愛いけれど、ヒトの姿も素敵だね」

「誤魔化さない」


 腰に手をあててズイっと一歩踏み出せば、セーレイは同じ分だけ一歩下がります。


 きっと柔和な笑顔の下で、どうやって従属を結婚と言いくるめようか考えてるんだと思います。


 この腹黒いところが、悔しいけどちょっと好き。私にはできないことだし、それに……セーレイの手のひらの上で転がること自体が、多分ちょっと好きなんだと思います。


 私が一歩進んで、セーレイが一歩下がって。それを3度繰り返すと、セーレイの背が壁にぶつかりました。


「使い魔ってセーレイの部下になるってことでしょ、そんなの結婚とは――えっ」


 これ以上逃げられなくなったセーレイがどんな答えをひねり出すのか、密かにワクワクしながら詰め寄った、その瞬間でした。


 セーレイは私の肩に触れたかと思うと、くるっと互いの位置を取り換えてしまったのです。あっという間に私が壁際。


 私が抗議するより早く、セーレイは右の肘から先を背後の壁にドンと叩きつけました。お顔がすごく近いし、微笑んでるのに目だけはすごく真剣でドキッとしてしまいます。


「病めるときも健やかなるときも、喜ばしいときも悲しみに暮れるときも。寿命を分け、最期の一瞬までともにいることが『番』でなければなんだろうね?」

「えっと……」

「命を共有することと、神殿で口頭だけの誓約をすること、どちらがより深い繋がりであるかは考えるまでもないと思うのだけど」

「それはそう、ですけど」


 でもやっぱり何か違う気がします。っていうのをちゃんと言葉にできません。


 セーレイみたいに頭が良ければいいのに。いえ、私はエリートタヌキですけど。ちょっと語彙が少ないだけです。タヌキなので。


「まだ納得できないようだね」


 ぷくっと膨れた私の頬を、セーレイが左手でつぶしました。唇からプスっと空気が漏れます。


「使い魔とその主は主従関係です。でも結婚は対等です」

「なるほど、その通りだね。では、わたしはあなたに『魔術による強制をしない』と、魔術によって改めて誓約しようか。元々、マヨの嫌がることはしないと誓っているのだから、わたしは何も困らないよ」


 そこまで言われて考えてみましたけど、あれ? 問題ないのでは……?


 命令、依頼、懇願……セーレイから私へのあらゆる働きかけに対して、私の自由意思で決められるなら、部下とか従者とかそういうのとは違う気がします。お、なんだか賢そうな言いまわしができました。さすがエリートタヌキです。


「それなら、いいです、けど」

「よかった」


 私の顎に添えられたままだったセーレイの左手が、そっと私の顎を上向けました。


 グレーの瞳を縁取る長いまつ毛が僅かに震え、その瞳が伏せられます。少しずつ近づく端正なセーレイのお顔に、私の喉が鳴りました。


 緊張で身体が強張って、呼吸の仕方もわからなくて。もしかして、もしかしなくても、これは口吸いというやつ……!


 とにかく目をつぶらなくちゃって、思い切り目を閉じた瞬間に尻尾が出た感覚がありました。もしかしたら耳も出たかもしれません。

 セーレイの高い鼻の先っぽが頬をかすめたとき――。



 閉じた窓からカツカツと硬質な音がして、扉からはドンドンと強いノックの音がして。


「うわっ」

「……間の悪いことだね」


 そう言ってセーレイは私の額に軽く唇を落とし、扉の向こうにいる誰かへ返事をしました。


 セホーが入って来る間にセーレイが窓を開けると、飛び込んで来たのは使い魔の小鳥です。セーレイの手にとまって「チチッ」と小さく鳴きました。


 小鳥の持って来た手紙を広げながら、セホーをソファーに座るよう促すセーレイ。もう、日常の光景です。


 なのに私だけが特別な瞬間から戻って来られません。まだ心臓がドクドクいってるし、頬っぺたは熱いし。尻尾をもみもみするとちょっとだけ落ち着きます。


「オクディーラは隣国へ機密をリークすることで、ちょっとした小遣い稼ぎをしていたようですな。閣下の進言によってオクディーラが重要情報を扱えなくなったこともあり、我が国の損害は微少ですぞ」

「それは何より」


 セホーはチラっとこちらを振り返りましたが、気にした様子もなく話を続けました。

 尻尾出てますのに?


「ただ、隣国に対して令嬢の受け入れと引き換えに、化けタヌキの情報を渡したとか」

「おや」

「自分を生かせば隣国に対してタヌキの話を誤魔化してみせると、うるさいのなんの……。して、そちらの手紙は?」

「陛下からだね。捕縛したティーカ嬢から、化けタヌキの情報が漏れてしまったらしい。城へ連れて来いと仰せだよ」

「ふむ。つまりタヌキは二か国から狙われているということですな」


 ふたりの視線がこちらに向きました。


 なんだかゾワゾワします。私の中の野生のタヌキが逃げろと言ってますので、逃げます。今度はちゃんと扉を開けてからタヌキに戻りました。エリートタヌキは学習しますからね。完璧な作戦です。


「逃亡しましたぞ」

「慌てなくても問題はないよ。恐らく罠にかかるだろうから、ね」


 そんな会話が薄すらと聞こえてきました。

 タヌキは耳がいいですからね。


 でもセーレイはわかっていません。エリートタヌキが何度も同じ罠にかかるわけがないんです。失礼しちゃいます。


 大体、庭のどこに罠が仕掛けられているかなんてちゃんと把握して――。


「あぇー」




全18話と申しました。

つまり、次話で完結いたします!


お寂しいことではございますが最後までマヨを見守ってやってください。

ではまた明日!

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― 新着の感想 ―
か、可愛い…… 腹筋が辛いほど可愛いですぅ……幸せになって欲しい(ノ∀`)・゜・。
あぇー 第二部! 世界には第二部が必要です!
もうっ、おバカッ。可愛すぎて目が離せません。
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