第16話 罠だ!庭師め!
颯爽と部屋を出て行こうと思ったのに、扉が! 開かない!
ドアハンドルに全然手が届きません。かっこよくジャンプすればいけると思ったのに。私の完璧な作戦がちょっと頓挫しつつあります。
ちょうどそこにノックの音がして、セーレイが返事をするとお皿を手にメイドさんが入って来ました。お皿には緑色のクッキーがたくさん!
……ですが、ここは颯爽と出て行きましょう。「生涯のひとり」を決められないセーレイなんて嫌いです。ぷんすこ。
女の子はああいうとき、「もちろん、君以外の誰かを娶るなんてあり得ない」とか嘘でも言ってほしいんですよね! まったく、乙女心がわかってないなぁセーレイ君は!
それに、セーレイが亡くなったお母さんの話をしたときに見せた表情を思えば、やっぱり寿命の短い私が彼の特別になるべきじゃないんです。
あーぁ。妖術をちゃんとマスターすればギヨーブくらい長生きできるのに……って、あのおじいさんは本当にギヨーブだったんですかね。ご先祖様だからとっくに死んでると思ってた。長生きすぎる。怖。
「ご主人様、お客様はどちらに……」
「少し前に席を外してね。すぐに戻って来るから、部屋はそのままで」
「あの、この葉っぱは片付けても……?」
「あーーー。そうだね、ええと、とりあえずこれもそのままで」
困惑するメイドさんと、苦笑交じりのセーレイの会話が聞こえてきます。
葉っぱはさっきまで服だったものです。服が落ちているよりはマシだと思いますので、セーレイは私に感謝するべきだと思います。
このまま城を出て、一度オクディーラ領の実家に帰ろうと思います。ブルーベリーの話もしたいし、妖術をちゃんと学ぶのもいいかもしれない。それでもし長生きできるようになったら――。
どこからか話し声が微かに聞こえてきて、誘われるまま城の地下へと降りてみました。
地下には牢屋が並んでいます。その一角から少し高いセホーの声が聞こえました。
「隣国に売った情報の中身は何ですかな?」
「誰が言うか」
「もちろん。もちろんここで言わずとも結構ですぞ。ですが……我が主の管理下にあるうちに口を割るが懸命でしょうな。陛下はきっと――」
難しい話をしているようです。
エリートタヌキはこういうことには首を突っ込みません。帰ろ帰ろ。
元来た道を戻り、今度は庭を目指して裏口を出ます。
夜でも綺麗でキラキラなお庭は思い出がたくさんです。ブルーベリーを探して罠にかかったり、部屋へ戻ろうとして罠にかかったり、お散歩してるだけで罠にかかったり。
でもその全てでセーレイが助けてくれました。セーレイはいつも私のことを見ていてくれたんです。その手の温かさとか、笑顔とか、大好きだったな――。
「あぇー」
パシッと音がして、世界が逆さまになりました。
罠です。罠にかかりました。庭師め!
どうにかして足をくくるロープを外そうともがくのですが、不思議なことに身体が左右に揺れるばかり。
「罠の場所は変えていないのだけれど」
セーレイの声。
逆さまになったセーレイが肩をすくめて小さく息をつきました。
「さて。また逃げられては困るから、ちょっとこのままで話をしようか」
「ヴー」
遺憾の威嚇。
でもセーレイはクスクス笑うばかりです。ぜんぜん大好きじゃない。
「もしあなたが先に死んだら、わたしはきっとひとりで生きていくだろう。今までだってそうだったのだし、あなたがいなくなったからと言って、別の存在で穴を埋めようとは思わない」
セーレイが手を伸ばして私の頬を撫でました。この優しい手は大好き。
「ただ、あなたがいなくなるなんて、想像さえしたくない。できることなら、この命が尽きるまでわたしとともに居てほしい」
さらに罠を外してもらいました。よかった、思ったより早かった。
セーレイは私の身体を左腕でしっかり抱いて、右手で頭を撫でてくれます。やっぱりセーレイは温かいし、いい匂いがする。
だけど言ってることは支離滅裂だと思います。ハーフエルフのセーレイとずっと一緒になんて、土台無理な話なのに。
「使い魔契約――というのを知っているかな」
私の耳がぴょこっと動きました。
使い魔、わかります。
セーレイの部屋を行ったり来たりする小鳥がいるので、あれは何ですかって聞いたことがありました。あの小鳥たちは使い魔といって、セーレイの命令に従って手紙を運ぶ代わりに、美味しいごはんと安全が約束されている……というものだそうです。
セーレイは私を抱いたまま城の中へと戻って行きます。逃亡失敗です。
「エルフの使い魔契約は特殊でね……。エルフにとってはどんな生物もあっという間に死んでしまうから、何度も次の使い魔を探すのが面倒だったらしい。それで契約魔法に改良を重ね、ついに従魔と主の間で寿命が共有できるようになった」
彼の説明によると、主の寿命を使い魔に分け与えるというものだそうです。使い魔である限り老化とは無縁だけど、主の死と同時にその命も尽きるとか。もし今セーレイが事故死でもすれば、あの小鳥たちも死ぬってことです。
もちろん、使い魔と寿命を半分こするってことではありません。小鳥ならセーレイの寿命1年分で10年や20年は余裕で生きるとか。
応接室に戻って扉を閉めると、セーレイは私をソファーの上に降ろしました。結局連れ戻されてしまった。
仕方ありません。お芋でも食べましょうか。
「マヨ、わたしの使い魔になってみたらどうかな」
え? 軽っ!
びっくりしてソファーから転げ落ちちゃった。




