第14話 セーレイは私のこと好きですか
なりふり構っていられませんでした。
頭の中は真っ白で、どうしてそうしたのか自分でも説明ができないのですけど、気が付いたときにはセーレイを庇って彼の前に躍り出ていたのです。
もちろん剣で切られるのは怖いからぎゅって目を閉じてしまったわけですけども。
「マ――!」
セーレイが何か言いかけました。
でもその直後に深いため息をついて、背後から私を抱き締めたのです。やっぱりセーレイは温かい。
さらにいつまでたっても痛くならないから、そっと目を開けましたら目の前で伯爵が固まってました。剣を振り上げたままの姿で。
「止まってる」
「うん。止めたんだ。間に合ってよかった。まさかわたしの妖精が飛び込んでこようとは、ね」
そう言ったセーレイの声も手も、少し震えていました。セーレイはいつも「何もかも知ってます」って顔で落ち着き払ってるから、こんなに動揺すると思わなくてびっくりです。
「な……な……何をしたのだ、動けんではないか!」
伯爵は動けなくてもお喋りはできるみたいですね。
セーレイは以前、私の身体を自由に動かす妖術を使ったことがあります。きっと伯爵にも同じことをしたのでしょう。
身体を離したセーレイは、私を後ろへ引っ張ると同時に一歩前へと出ました。彼の甘い香りが漂って、なんだかホッとします。
「命を狙われた以上は、しっかり裁判にかけなければね」
「あ、怪しい術を使うお前を誅するのは、王国の臣下として当然の――」
「怪しい術、か。魔法については陛下もご存知でね。残念だけどわたしを裁くことは不可能だよ」
「魔法……? お前、エルフか」
その問いにセーレイは答えません。
夜のお喋りでセーレイは自分の半分がエルフであることを嫌がってたから、エルフが嫌いなんだと思います。ただ、半分が人間であることも嫌がってたけど。
「陛下にその忠義を訴えれば、いくつかの罪は免れるかもしれないね。でも他国への情報漏洩や君命に対する背信はどうしようもない、かな」
「な……、お前、どこまで知って――! し、しかし我が輩がいつまでも戻らねば、我がオクディーラ伯爵家の誇る精鋭たちがこの城を襲撃するぞ」
そんな伯爵の言葉に対し、セーレイは返事の代わりに杖を高く上げました。と同時に白い光が真上に線のように伸びていきます。かっこいーー!
光はなんらかの合図だったらしく、すぐにたくさんの人の気配が近づいてきました。
「人使いが荒いですぞ、閣下」
「対応に感謝するよ、セホー。わたしの部下を動かしては、伯爵に気付かれてしまうからね」
まったく、と大儀そうな表情を浮かべたのはチョビ髭のおじさんです。彼が軽く右手をあげると背後に控えていた何人もの武装した人たちが、同じく武装した男の人たちをその場に転がしました。
エリートタヌキは賢いのでわかります。転がってるのは伯爵の部下で、チョビ髭の後ろにいるのはチョビ髭の部下!
「こちらはただの商人だと申し上げているというのに。不本意。まったく不本意ですな!」
「提示の倍額払おうか」
「今後とも何卒ごひいきに」
チョビ髭のセホーは仰々しく両手を動かしながら紳士の礼をとると、再び右手をあげました。
背後の部下たちがキビキビ動いて伯爵を縛り上げ、どこかに連れて行きます。おかげであっという間に庭が静かになって、残されたのは私とセーレイだけ。
「これでティーカ嬢との結婚は白紙、かな」
「ティーカお嬢さんはどうなりますか」
「ん? ……ああ、王宮で父親の悪事についてどこまで把握していたか、尋問されるだろうね」
「た、タヌキは」
「さて……。ティーカ嬢のペットである以上はオクディーラ家に帰すのが筋だろうけれど」
「駄目です! タヌキはここにいたがると思います」
駄目です。
私はここにいたくて伯爵と喧嘩したのに、追い返されたら困ります。
追い返されたって戻って来ますけど、また追い返されたら堂々巡りです。なので、ちゃんとここにいていいよって言ってほしいのです。
「わたしの妖精はタヌキについても詳しいようだね」
「セーレイは……タヌキ好きですか」
「好きでも嫌いでもないよ。でもマヨは好きかな」
「そうでしょうそうでしょう」
マヨはエリートタヌキですからねって頷いてたら、セーレイが肩を震わせています。
もしかしてマヨと離れるのが寂しくて泣いてるのでしょうか。それならやっぱり、マヨはここにいるべきだと思います。
「ククク」はちょっと泣き声っぽくないですけど、ちゃんと慰めてあげましょう。
「大丈夫です、タヌキはどこにも行きません」
「さっき、わたしの手の届かないところに行こうとしたのに?」
「え?」
なんの話でしょうって首を傾げるより早く、セーレイが再び私を抱き締めてしまいました。
さっきよりも力が強い。頬にセーレイの胸板がぎゅむっと当たります。柔らかいのに圧がすごい。これは筋肉ってやつですね。
セーレイはもう泣いてないけど、声は震えてる。
「剣で切られたら死んでしまうんだよ」
「そうです。だからセーレイが死んじゃうかと思って驚きました」
「わたしはあなたが死んでしまうと思ったら、恐ろしくて」
腕の力がさらに強くなって、そこでやっと気づきました。
私もセーレイも同じ気持ちだったんだって。
セーレイはタヌキのマヨを好きだって言ってくれたけど、この姿の私のこともすごくすごく大事に思ってくれているんだと思います。
「もしかしてセーレイは私のこと好きですか」
「ああ、とてもね」
「じゃあ、ここにいてもいいですか」
「もちろん。ずっといて欲しい。だから結婚しよう、マヨ」
「はい――はい?」
今マヨって言いましたか?
いや結婚って言った?
びっくりして尻尾が出てしまいました。




