第13話 セーレイの敵ってことです
伯爵がプリプリ怒りながら何か言っていたのですが、タヌキの姿だと私は上手に話せません。舌噛んじゃうので。
なので人になりました。
集めた葉っぱは服になります。ティーカお嬢さんの姿ならどうでもいいけど、自分本来の人間体になるなら、さすがに服は着ておきたいです。エリート乙女なので。
変化と同時に頭をぶつけました。痛い。
オクディーラ伯爵がじろじろとこっちを見ています。仲間になりたそうな感じはしません。
「ふむ……これで話ができるのだな?」
「話す前にまずここから出してください」
「出なかったのはお前だろうに。タヌキに戻ったら出してやるから、しばしそのままで。さて、今一度問おう。お前のその力、我が輩の元でふるわんか」
「やです」
伯爵はセーレイを追い落とすって言ってました。だからセーレイの敵ってことです。
セーレイは美味しいブルーベリーとか美味しい緑のクッキーをくれるので好き。声は柔らかくて落ち着くし、抱っこされるとあったかいし、毎晩のお喋りは楽しい。あとお芋もくれます。
でも伯爵はダメです。何もくれないし、怖いし、偉そうだし。
「あの若造に絆されたか?」
「少なくとも、タヌキを畜生って言う人には協力しないです。タヌキは畜生じゃないので」
「では交渉決裂だな。残念だが仕方あるまい。さぁ、父のところに帰してやるからタヌキに戻るといい、檻から出そう」
これはエリートタヌキの勘ですが、伯爵は嘘はついてなさそう。どんな理由があるにせよ、本当にパパ上のところに帰そうとしてると思います。
でもまだ帰りたくないんですよね。ブルーベリー食べたいし、秋になったら栗が美味しいってセーレイが言ってました。それに、セーレイの近くにいたいです。
セーレイはいつもさみしそうだから。
「やです」
「は?」
「帰りません。パパ上には私からお手紙出しとくから大丈夫」
「大丈夫なわけがあるか、我が輩には時間がないんだ。四の五の言わず早くタヌキに戻らんか!」
伯爵が思いきり檻を蹴ると、すぐにギャって言いながらうずくまっちゃった。痛かったみたいです。
金属がぐわんぐわん震えるから私も耳がおかしくなりそう。怖い。とりあえず残ったフルーツを食べておきます。口に物を入れるとちょっと落ち着くので。
「くそ……っ! まぁいい。我が領地がタヌキの巣窟であるが故に、化けタヌキの生態についてはいくらか記録が残っておる。確か、怪我をさせればタヌキに戻るそうだな?」
それは半分正しい。
別に、怪我をしていると変化できないというわけではないです。ただ、怪我に驚いて変化が解けるとか、タヌキ姿のほうが治りが早いとか、いくつか理由があってタヌキ姿に戻ることが多いのです。
伯爵は持っていた麻袋を放り投げると、腰にぶら下げた剣を抜いて切っ先をこちらに向けました。この大きな檻は剣なんてまるで防いでくれそうにありません。
私はエリートタヌキなので怪我をしたくらいでタヌキに戻ったりしないですけど。
でも、痛いのは嫌だなぁ……。
「夜更けにずいぶん騒がしいと思ったら……客人かな?」
恐怖を紛らわすようにリンゴを頬張ったとき、どこからか踊るように軽やかな声が聞こえてきました。
声の主はもちろんセーレイです。庭の照明に照らされて銀色の髪をキラキラさせながら、セーレイが木陰から姿を現しました。手には綺麗な水晶がくっついた杖を持っています。
「セーレイ!」
「おや。わたしの妖精が捕らえられてしまったようだね」
マヨはタヌキの名前だって言っちゃったから、この姿では名乗ってないのです。そしたらセーレイはいつの間にか「わたしの妖精」って呼ぶようになりました。わたしの妖精だって。んふふ。
って喜んでる場合じゃありません。
伯爵は怒ったお顔のまま、でも口もとだけは笑おうとしてるみたい。
「こんばんは、閣下。ずいぶん夜更かしでございますな」
「わたしの庭で何をしているのかな?」
「不審者を見つけましたのでな」
「それは不審者ではないよ。わたしの大事な客人だからね。しかしこの罠は一体?」
ふたりともお喋りするのはいいんですけど、先にここから出してほしいなぁーって思念を送りましたら、セーレイがチラっとこちらに視線を投げました。
もしかして思いが通じたかも!
「その檻に鍵はないよ。自分で開けられるのではないかな」
「あっ」
なるほど確かに。今は人間でした。
出口となるはずの動く柵を探して金属をガチャガチャ揺すります。あった。人間のマヨならこれくらい簡単に出られますからね。出口さえ見つければこっちのものです。ふふん。
ちょうど正座に疲れてきたところだったので本当によかった。
「まずはこの状況についてご説明願おうか。あと……彼女が姿を消せばティーカ嬢の不在を訴える、という言葉の意味もね。まるで、彼女がティーカ嬢になりすましていたみたいに聞こえたけれど」
「……ここで亡き者にするが得策か」
私が出口を探す間にも、おふたりの間では不穏な空気がマシマシになってるみたいです。
とにかく早く出なくては。
重い柵を上に持ち上げて、僅かに生まれた隙間に身体を押し込みます。背中で柵を持ち上げながら四つ這いでどうにか脱出できました……が。
「死ねぇ!」
伯爵がセーレイに向かって剣を振り上げたのです。
セーレイが死んじゃう!




