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タヌキ令嬢マヨの完璧な作戦 ~どうもタヌキです。貴族令嬢に化けたら辺境の公爵様に嫁がされました~  作者: 伊賀海栗


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10/11

第10話 マヨはここにいますのに?


 朝がきて、お日様が高く上ってもやる気なしです。


 タヌキは夜行性なので。

 昼間はやる気がなくて当たり前です。別にセーレイがティーカお嬢さんと結婚するとかどうでもいいんです。ふて寝。


 本物のティーカお嬢さんがお嫁にきたら、私はタヌキとして悠々自適な生活するだけですし。美味しいブルーベリーと美味しいお芋と美味しい緑色のクッキー食べるんです。


 ……考えたらそれでいい気がしてきました。結婚したからといってタヌキを追い出すことなんてしないでしょうし。だってタヌキだし。


 だからセーレイなんかさっさと結婚しちゃえばい――。


「ティーカ嬢、少しいいかな」


 控えめなノックと気遣わし気な声。

 ベッドでぐでんぐでんしていた私は飛び起きて正座しました。そしてもたらされる、オクディーラ伯爵の情報……。


 何しに来るのかは、セーレイも知らないみたいでした。というか、私のほうが詳しいんじゃないかって顔をしています。言われてみれば確かに、私は伯爵の娘っていう設定です。


『公爵閣下と仲良くしなさい。善良な人間ならば本物のティーカが代わるし、そうでなければ逃げればいい。ただし、すぐに会いに行くのでそれまではティーカとして過ごすように。そこで以降の方針を決めよう』


 それが伯爵のお言葉です。


 私はタヌキなので伯爵の言うことをちゃんと聞く必要はないんですけど、居心地が良くて結果的に言われた通りにしちゃってました。


 もしかして本物のティーカお嬢さんが来るんでしょうか。だってセーレイはいい人ですからね。


 セーレイは私を問いただすでもなく、優雅な仕草でお茶を飲んでいます。いつの間に淹れたんだろう。あ、私のぶんもある。


「マヨ」

「あい」

「ん?」

「あれ?」


 顔を見合わせるなり、セーレイがお腹を抱えて笑い出しました。なんだろう。


「んふっふふふ。タヌキはどこにいるのかなと思って、呼んでみたのだけど」

「あっ! ……いまはいないです」

「そのようだね……ふふ……」


 あっぶな!


 つい返事をしてしまいました。セーレイは深く気にしてないみたいだからよかったです。まぁ私の完璧な変化の術が見破られるはずがないので、当たり前ですけど。


 笑いのおさまったセーレイが軽く咳払いをして背筋を伸ばします。


「ところで、あなたのお父様はどんな人物なのかな」

「どんな?」

「うん。これから家族として付き合っていくのだし、どんなものを好んで、何を苦手に思うのか知っておければ、とね」

「好物はエッグベネディ――ちがいました」

「ん?」


 お父様ってきっとオクディーラ伯爵のことです。タヌキは賢いのでわかります。


 ただどれだけタヌキが賢くても、知らないおじさんのことは知りません。困りました。人間ってどんなものが好きなんでしょうか。


 虫はあんまり食べないらしいし、やっぱりお芋かなぁ。お芋は美味しいですから嫌いな人はいないはずです。


「父はお芋――」


 私の言葉が最後まで発されることはありませんでした。


 だって、お庭のほうから悲鳴がふたつ聞こえたんです。ひとつは、たぶん私にしか聞こえないくらい小さな、タヌキの喘ぎ声。


 それから一瞬遅れて、メイドと思われる人間の女の人の叫び声でした。


「きゃー! マヨちゃんっ!」


 マヨはここにいますのに?

 私とセーレイは顔を見合わせて。そしてふたりで庭へと走ります。


 そこにいたのは1匹の古狸でした。ぷらんとぶら下がって左右に揺れています。私がしょっちゅう引っ掛かる妖術がこれです。


「困ったな……」


 セーレイはそう呟いてから、あたふたしっぱなしのメイドさんにタヌキを罠から外すよう命じました。私のときにはセーレイがすぐ助けてくれるのに。もしかして、おじいのタヌキは苦手ですか。


 だとすると、もしかしてセーレイはタヌキの区別がついてるんでしょうか。メイドさんはタヌキといえばマヨだと思い込んでるみたいなのに。


 下ろされたタヌキはしばらく私の匂いを嗅いでいましたが、突然興味を失ったかのように背を向けて、ポテポテと歩き始めます。


「また別の罠にかかるかもしれないね。わたしが彼を送ってくるよ。ティーカ嬢は部屋へ戻っていてくれるかな」


 そう言ってセーレイがタヌキの後を追い、一方でメイドさんは首を傾げています。


「あれマヨちゃんじゃないんですねえ」

「あれはマヨじゃないです」

「タヌキなんてこの土地にいなかったはずなのに、どこかに巣でも作ったかしら……」


 メイドさんは小さく頭を下げてから、足元に落ちていた籠を拾いあげて立ち去りました。籠には真っ白な布が入ってたから、あれはきっと洗濯物です。


 太陽の光をたくさん浴びたシーツはとっても気持ちがいいですよね。よし、ベッドに戻ろう。


 と、城内へ戻る途中で振り返ってみれば、古狸も遠くからこちらを見ていました。セーレイに促されて歩いては、立ち止まって振り返る……。


 私に用事があるのでしょうか。それならさっきそう言えばいいのに。


 だってあれは化けタヌキです。同胞といっても、全員の顔を知っているわけではありません。だから彼のことは知らないですけど。


 とはいえ、あんなご高齢なタヌキ、一族の間で話題になっててもおかしくないのになぁ。だって寿命はとうに越えてそうですし。それって妖術をマスターしたってことですからね。



 うーん。ま、いっか。

 クッキー食べてごろごろしよーっと!




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