第12話 高木さんと古村君
クリスマスイブの前日、いきなり同じクラスの古村君から映画に誘われてしまったあたし。別に好きとかじゃないのに、人生初のデートがこんな形で突然だったもんだから…
どうしよう…緊張が止まらない。
クリスマスイブの今日、誘ってもらえたのはとっても嬉しいんだけど、心の、心の準備が不十分と言うか、なんと言うか…
かと言って、この「お誘い」を先延ばしにされたとしても、心の準備はきっといつまでも出来てないと思う。
だから、古村君の顔を見るまでは、緊張で胸がドキドキし過ぎて倒れちゃいそうなままなんだ。
…あ…どうしよう…そんなこと考えてるから…ほら…だんだん…体が…体が震えて傾いて来ちゃっ…
「高木さ〜ん!おはよう!っとっとっとっと…だ、大丈夫?」
「あ、こ、古村君…あ…おはよ…」
わわわわ…きゃあ〜!古村君に、古村君に、支えてもらっちゃった〜!
わー、わー、わー、わー!
頭の中がぐるぐるするう!
あ、あ、早く!早く!お礼言わなくちゃ!言わなくちゃ!
「あ、あの、ありが…と…」
「いえいえ、それより大丈夫?よろけてるけど…あ、やめる?具合悪いんだったら、その方が…」
「あ、ううん、ううん、大丈夫大丈夫!あたす、だ、大丈夫だの!」
「ん、ふふ、うん、そっか、ふふ…ん…ふふ…」
古村君が震えてる。
笑いを堪えて震えてる。
あたし、あたしって言いたかったけど、なんだか動揺しちゃって…あたすって…あたすっつっちゃったよお…なんかヤダあ…恥ずかし過ぎ…泣きそう…でも今泣いたら、古村君にびっくりされちゃう。
いや、それ以上にドン引きされて、嫌われちゃうかも…
それは絶対ヤダ!
だって、今日クリスマスイブだよ!
古村君のこと、別に好きとか考えたことなかったけど、昨日、いきなり「一緒に映画行かない?」なんて誘ってくっから。
「なんであたしを誘ったあ?」って考えたら、急に古村君のこと意識してきちゃったけども、なんつうことない、あたしの後ろで古村君と仲がいい近藤君が「ごめん!明日行けねえんだわ!ホントわりい!」って断ったから、たまたま傍にいたあたしに「じゃあ…高木さん行ける?」ってなっただけなんだけども…
いかんせん、今まで一度も「男子」と2人きりで出掛けたことなんてないんだもん!
そら、緊張するし、意識もしちゃうし、ドキドキも止まらないに決まってる。
だって、これって俗に言う「デート」だよねえ。
男子と女子で一緒に出掛けるって、これ、すなわち「デート」ですよねえ。
昨日誘われた時、あたし1人じゃなんだから、他の友達誘ってもいいか聞いたら「いいけど、ムビチケは2人分だから、誘う人は自腹だけど…」と言われて、一瞬「自腹かあ」ってのと、同時に「えっ!あたしはタダでいいのね!イエ〜イ!ラッキー!」って喜んじゃったけども…
その後、ミサキやサヤを誘ったら、2人から「ごめん!デートなのよ!」とあっさり断られちゃったし、ユカやジュリ、アンナにも声をかけたけど、バイトだの、家の手伝いだの、歯医者だのと結局全員に断られちゃって。
そうなると、やっぱり古村君と2人きりってな訳で…
だもんで、昨日、帰宅してからなんか大変だった。
何着て行こうか?バッグは?靴は?持ち物は?などなど、仲良しの友達と出掛ける時とは大違い。
生まれて初めて「男子」とのお出掛けだから。
別に好きとかじゃないのに、なんか妙に意識してしまった。
やっぱり「男子」と人生初のデートだから、スカートの方がいいか?とか、いやいやそんな張り切っちゃってどうするよ?じゃあ、普通にズボンがいいか?とか。
どこか可愛く見られたい願望がある一方、妙に冷めた感情でわざとジャージとかも考えてしまった。
…で、結局、なるべく動きやすく疲れにくいズボンにしたけど、自分の持っている中では「可愛い系」(と思ってる)のアイテムを選んだつもり。
だって、そもそもそんなに沢山「服」持ってないし…
朝、お母さんから「デート代」として、5000円も貰っちゃった。
わ〜い!わ〜い!
「じゃ、行こっか!」
「う、うん!」
待ち合わせたバス停に、ようやくバスが来た。
乗り込むと丁度2人掛けの席が空いていたので、そこに古村君と並んで座った。
きっと普段ならなんとも思わず普通でいられるんだろうけど、今日はなんだかドキドキしてる。
微かに古村君と肩や腕、太ももなんかが触れる。
そういうのもいちいちドキドキ。
話している時はいいんだけど、会話が途切れた時、不意に窓から外を眺めるふりをしながら、窓ガラスに薄っすら映る古村君を見る。
こう見ると、古村君ってなんだかちょっと素敵だな。
それに比べてあたしときたら…もうちょっと、もうちょい、みんなみたいに可愛かったらなあ。
そう思った途端、気持ちが沈んでしまった。
古村君、あたしと一緒に出掛けるの、平気なのかなあ。
嫌じゃないのかなあ…って、嫌だったら、最初から誘わないよねえ。
あはは…あたしったら、何考えて…
「…あ、あのさあ…高木さん…俺と一緒で大丈夫だった?」
「…へ?」
「いや、だからさ、クリスマスイブにさ、俺なんかと一緒に映画観に行くの…あ、いや…な、なんでもない…ごめん、ごめん…あはは…」
あ…古村君…なんか、顔真っ赤。
バスを降りる時、先に降りた古村君が手を差し出してくれた。
「あ、ありがとう…」
「あ、ほら、乗る前、高木さん、よろよろしてたから…」
古村君…あたしのよろつき、まだ覚えてたんだ。
転んだりふらつくこともなく、無事にバスを降りたけど、なんとなくそのまま手を繋いでいる。
こちらから力づくで離してもいいんだろうけど、外は寒いし、古村君もそのまま離そうとしないから、私達は軽くお互いの指先だけを掴む形で歩いた。
クリスマスイブにこういう感じって、なんか照れる。
なんとも言えない嬉しさと恥ずかしさが入り混ざった、ふわふわした気持ち。
不意に、建物の大きなガラスに映った自分達の姿が目に入った。
こうして見ると、ちゃんと付き合ってるみたい。
「んふふ…」
「ん?高木さん、どしたの?」
「あ、ん、な、なんでもないの…ただちょっと…」
「ただちょっと?」
「…楽しくって…」
「そっか、よかった…高木さんが楽しいんなら…俺もなんか楽しいや…」
えっ…
今日はクリスマスイブ。
だから、今日はクリスマスイブなんだって!
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。




