第11話 三ツ橋さん
同じ職場の三ツ橋さんが、やはり同じ職場の香月さんと結婚すると聞いて、正直とても驚いた私。だって、三ツ橋さんって…。
「えっ!香月さんと結婚するの!」
正直驚いた。
児童デイサービスで一緒に働く三ツ橋さんが、ここを運営している社長の香月さんと、いつの間にそういう仲になっていたのか、全くわからなかったし、予想だにしていなかったから。
「わあ!おめでとう!」と言ったは言ったけれど、内心(本当にそれでいいの?)と思った。
だって、三ツ橋さん、目をキラキラ輝かせながら、「休みの日はね、駅前の通りでギター抱えて自作の歌を歌ってる」って。
「ストリートの先輩と、いつかプロになろうねって約束してるんだ〜…」なんて言ってて。
私、彼女の語る夢の話に、「ふ〜ん、そうなんだあ、頑張ってね!」とは言ったものの、心の中では、(ストリートって…ただ路上で勝手に歌ってるだけじゃん。よく恥ずかしげもなくできるよなあ…)って、ちょっと馬鹿にした形で呆れた冷めた目で見ちゃってた。
だけど、あの夢はもういいの?
そんな簡単に諦めちゃえる程度だったの?
結婚したら、もうストリートでライブも出来ないんじゃない?
よくわからない。
実家が中古車販売業で、5人兄弟の末っ子だって。
そんでもって高校卒業してから金髪に染めたり、ピアスの穴開けまくったり、服から見えない場所に刺青も入れたそうだけど、特に家を出るとかなく、バイトも実家の手伝いなどで、面接も受けたことないって言ってた。
それでこの児童デイも1番上のお姉さんの旦那さんの元部下だった香月さんが、薬剤師のお母さんから出資してもらって始めたそうで。
香月さんも自分でコツコツ貯金してとかじゃなく、お母さんにお金を出してもらったってとこが、私からすると、なんだかなあって思うところだ。
いい大人が、親頼みとはって感じ。
私や佳代子先生はちゃんと「求人募集」を見て、ここに応募して、面接受けて採用されたんだけど、三ツ橋さんは姉夫婦がここのケアマネージャーとして働くことになった、と言うか、最初から香月さんと一緒にここを立ち上げたからって言うんで、姉妹だから、よくよく知ってる間柄だからってんで、無条件でここの「正社員」になったって聞いた。
「私もやりた〜い!」と言ったんで、即採用になったとさ。
だもんだから、私も佳代子先生も最初からなんとなくどこか「不公平さ」を感じていたっけ。
でも、仕事は仕事だから、そこはきっちり割り切って、気持ちを切り替えてやってはいる。
三ツ橋さんは仕事中、ちょっとでも不都合や厄介事があると、すぐ事務所に駆け込んでは、お姉さんや義理のお兄さんに助けを求めるってのか、いや、今は現場にいる私や佳代子先生と力を合わせにゃダメじゃろうと思うんだけど、毎回そうだ。
先生が1人抜けたら、本当、マジで困るからやめてよ!と言いたい。
言いたいけど…なかなか言えない。
佳代子先生も私と同じ気持ちのようだ。
三ツ橋さん、もう24歳と言うから、どこからどう見ても立派な大人なのになあ。
世の中には色んな人がいるもんだ。
三ツ橋さんみたいに、バーンと派手なことやりたがる割には、いつまでも実家暮らしだったり、全く知らないよそに面接受けに行って働いたりせず、身内のいるとこでしか働きたくないって、そんでもって、特に好きな訳でもないのに同じ職場の、年が18も離れた小柄な薄毛と結婚するって言う神経。
あんなに「ヤダ〜!あのなおじさん〜!」って、言ってたよねえ?
それって、イヤよイヤよも好きのうちだったってことなの?
私には理解できないよ。
まあ、でも、あれか…香月さんと結婚したら、自分の好きなこと諦めなくてもいいのか。
お金持ってるし、ここでちゃんと働かなくても「正社員」だから給料は、私や佳代子先生みたいな「パート」よりも貰えるだろうし、待遇も違うんだもんねえ。
あ〜あ、なんかヤダなあ、こんな人と一緒に働くの。
なんかホントヤダ。
なんとなくムカつく。
私にはそういう「コネ」なんてないもん。
もしかあったとしても、なるべく頼りたくない。
まずは自分でパートなりバイトなりに応募して、全く初めての所に1人で出向いて、面接受けてってするけどなあ。
なんなら、実家だって出て、一人暮らしとかするよ。
ってか、もうしてるし、1人で暮らしてるし。
結婚相手だって、たとえ同じ職場だとしても、ちゃんと好きになって、相手からもちゃんと好きになってもらって、何回も会って、沢山色んなこと話して、お互いのこときちんと知って、「結婚したい」か確認して…。
そういう風に丁寧な人生を送らないと、絶対後から後悔とか不都合とか爆発しそう。
でも、三ツ橋さんも香月さんも、いつまでも親のスネをかじり続けちゃうタイプなんだね。
ずっと自立できない人…かあ。
ヤダなあ、そんな人。
…あ〜…仕事辞めよっかなあ〜…
仕事帰り、居酒屋で、佳代子先生に相談してみた。
佳代子先生も私と同じ気持ちだった。
そして、私達は次の月、2人同時に仕事を辞めた。
佳代子先生も私と同じで、辞める前から次の仕事を探しており、辞めたタイミングですぐ次の仕事につけた。
佳代子先生も私も別々の職場だけれど、今度はあそこみたいな「ファミリー企業」じゃないので、少しほっとしている。
数ヶ月後、あの児童デイサービスで一緒に働いていて、まだそのまま働いている春日先生から「香月さんと三ツ橋さんが離婚した」とメールが来た。
「ええ〜!それでどうなったの〜?」と返信すると、「三ツ橋さんは仕事を辞めて、実家に戻ったらしいよ。」と。
また、実家。
三ツ橋さん、本当、実家好きだねえ。
私にはそう言うの、よくわからないや。
そして、それから約1年ほど経った頃、ニュースを見てびっくり!
佳代子先生と勤めていたあの児童デイサービスで、子供が亡くなる事故があったようで…
どうやら、あそこは潰れるらしい。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。




