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やまぶきいろ
小さい頃、色鉛筆を眺めるのが好きだった。
色鉛筆の珍しい色を、音読して覚えた。
だけどそこに彫られていたのは平仮名で、
私は、「やまぶきいろ」のことを誤解していた。
「もえぎいろ」「あさぎいろ」
それらと同じく
「やまぶきいろ」は私の中で、「やまぶ黄色」だった。
いつの間に気付いたのか、今となっては覚えていない。
「やまぶ」なんてモノは存在しないこと
そもそも「山吹」という花の色を指していたこと
小さい頃に眺めていた色鉛筆には、平仮名で色の名前が彫られていた。
けれど大人になった私の脳は、パッと見てすぐに「山吹色」と変換できた。
それでも、一つ変わらないことがある。
春から初夏にかけて見える、満月の少し深い色。
朧月ほど霞んではいないが輪郭のぼやけるその月を見ると、
私は自然と思うのだ。
今日の月は、やまぶきいろだ、と。
タンポポよりも少し濃くて、甘めの卵焼きのような、
とても懐かしい月の色。
やまぶきいろ。
「●●ムーン」という他民族由来の呼称より、日本で生まれた美しい表現に出会いたいものです。