元悪役令嬢は反抗される3
今回で『悪役令嬢は反抗される』は終わりです!
次のエピソードもお楽しみに!
翌日、ヴェロニカが教室に行くと、やはり誰もいなかった。ヴェロニカは教壇の上で静かに溜息を吐く。子供達と心を通わせるまでの道のりは遠そうだ。
外を見ると、しとしと雨が降っている。気が滅入りそうだ。
ヴェロニカが、今日は帰ろうかと思ったその時。遠くから大きな足音が聞こえてきたかと思うと、教室の扉が勢いよく開いた。
「あ、アイスナー夫人。いらしていたんですか。……あの、ハンナを見かけませんでしたか?」
焦った顔で聞いてきたのはライナーだ。側には心配そうに眉を寄せているカミルもいる。
「ハンナというと、長い金髪の、八歳くらいの女の子……?」
「はい。その子が、今朝から姿が見当たらないんです」
「今日は見かけてませんが……誰か心当たりのある者はいないのですか?」
ヴェロニカとライナーが話していると、カミルが目を見開いた。
「思い出した。昨日ハンナはゲオルク……僕の友達に、川に遊びに行きたいと言ってました」
「何ですって!」
ヴェロニカが大きな声を出した。
「本で読んだけど、この地方では、この季節、こういう雨の後で豪雨になる事があるそうよ。もう今から雨が強まっているし……本当に川に行ったとしたら、危ないわ」
「川に行ってみましょう」
ヴェロニカ達三人は、川へと走り出した。
◆ ◆ ◆
三人は、近くの川に来ると、辺りを見回した。川原にハンナの姿はない。ここにはいないかと思われたが、ヴェロニカは、微かに泣き声のようなものを聞いた気がした。
傘に雨が当たる音でよく聞こえない。ヴェロニカは、濡れるのも構わず白い傘を閉じた。
目を閉じて耳を澄ますと、先程よりははっきりと声が聞こえた気がした。声がする方を見て、ヴェロニカは目を見開いた。
川に、小さな中洲のようなものが出来ており、そこにハンナが取り残されていた。川は水かさが増し。勢いよく水が流れている。
「ハンナ!」
ヴェロニカが叫んだ。カミルとライナーもハンナを見つけ、目を瞠った。
「思ったより距離があるな……どうやって助けようか」
中州で泣いているハンナを見ながらライナーが頭を掻いた。
「とにかく、沢山大人を呼んで下さい。皆で手をつないで、岸から中州まで渡るようにするんです。」
「わかりました。アイスナー夫人は、ここでハンナが流されないか見ていて下さい。それと、声が届いたらですが、ハンナを励まして下さい」
「はい」
ヴェロニカの返事を聞くと、ライナーは急いで走り去っていった。
「ハンナー、聞こえるー? 今助けが来るからねー」
ヴェロニカは、大きな声でハンナに話しかける。ハンナもヴェロニカ達の存在に気が付いたようだ。
「ヴェロニカ様、カミル……う……うあああん……」
二人の姿を見て安心したのか、ハンナはより一層大きな声で泣いた。
「ハンナ、もう少しの辛抱だ、一緒に帰ろう」
カミルも声を掛けた。そして、ずぶ濡れになりながら声を掛け続けるヴェロニカをじっと見ていた。
その後、ライナーが大人を何人も連れてきて、無事ハンナは助け出された。
「ハンナー、良かった、助かって」
ヴェロニカがハンナに抱き着いた。しかし、次の瞬間ハッとなった。
「抱き着いている暇はないわ。随分冷えただろうし、ハンナを一応医者に診てもらわないと」
ヴェロニカは、服が濡れているのにも関わらずハンナを背負った。ハンナは、泣きながらもヴェロニカに話しかけた。
「ヴェロニカ様……」
「何?」
「あの……ありがとう……」
ヴェロニカは、笑って言った。
「いいのよ。それより、もう天気の悪い日は川の側で遊んじゃ駄目よ」
こうして、ハンナは無事救出され、医師に診てもらった後孤児院へと帰っていった。。次の日、ヴェロニカが風邪を引いたりと色々あったが、数日後、ヴェロニカはまた教室に足を踏み入れた。
教室の中を見たヴェロニカは、目を細めて微笑んだ。教室の後ろの方に、カミルとハンナがきちんと授業の準備をして座っている。
「授業を始めて下さい。ヴェロニカさ……ヴェロニカ先生」
カミルの声が、教室に響いた。
ブックマーク等を頂けると嬉しいです!