表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/44

元悪役令嬢は反抗される2

今日からヴェロニカの授業が始まる……?

 翌朝、ヴェロニカは孤児院の門の前に立っていた。茶色い壁の、石造りの孤児院。今日からここで子供達に勉強を教えると思うと、身が引き締まると同時にワクワクする。ヴェロニカは、意気揚々と孤児院の門を潜った。


 それからしばらくして、ヴェロニカは教壇の前で――顔を引きつらせていた。

 ヴェロニカの授業が始まる時間はとっくに過ぎているが、教室となる部屋に子供が誰もいないのだ。古びた木製の机や椅子がいくつも並んでいるが、ただの置物と化している。つい先ほど他の教員の授業を見学した時には、子供達がきちんと座っていたのに。


「あー、やっぱりこうなりましたか」


 教室を覗き込んだボランティア仲間のライナー・トラウトが苦笑して言った。彼は三十代前半の男性で、普段は靴職人として働いているらしい。


「というと……?」

「えーとですね……あなたが以前学園の資金を横領して追放された事を、子供達も知っているんですよね。ただでさえ子供達は、貧しい自分達をよそに贅沢をしている貴族を良く思っていないわけですよ。だから、実際に横領までして浪費したあなたの事を……まあ、教師と認めていないわけです」


 成程。過去の行いの弊害がこんなところに出てくるとは。


「……まあ、地道にやっていきます」


 ヴェロニカは、溜め息を吐いてそう言った。


        ◆ ◆ ◆


 翌朝、ボランティアの日でもないのにヴェロニカは孤児院を訪れていた。こっそりと教室を覗くと、自習している子供が二人いる。自習している子供達がいる事は、ライナーから聞いていた。


「ねえ、カミル、200ザルツの5%って、195ザルツ?」

「何で引いちゃうのかな、ハンナ。100ザルツの5%が5ザルツだから、200ザルツの5%は10ザルツだよ」


 カミルと呼ばれた十歳くらいの少年は、ハンナという年下の少女に数学を教えているようだ。


「あら、賢いのね」


 ヴェロニカが声を掛けると、優しそうな顔をハンナに向けていたカミルは驚いたように振り向いた。ウェーブがかった金髪に青い瞳のカミルは、綺麗な顔をしていた。


「……ヴェロニカ様、今日は授業もないのにいらしたんですね」


 カミルは笑顔をヴェロニカに向けたが、どこか影がある笑顔だった。


「カミルと言ったかしら。私の授業に誰も出席してくれないものだから、あなた達に会う為に今日も来てしまったわ」

「それは申し訳ございません。きっと皆、授業があるのを忘れていたんですね」


 皆そろって忘れる事などあるものか。


「明日も授業があるけれど、明日の授業は出てくれるわよね?」

「ええ……そうだ。ヴェロニカ様に見てもらいたい花があるのですが、庭に来て頂けませんか?」



 三人は、庭に移動した。ヴェロニカが庭を見渡すと、確かに花壇には様々な花が咲いている。

 一番前を歩いていたヴェロニカが庭を進んでいくと、急に体がガクンと落ちる感覚がした。


「きゃっ!!」


 ヴェロニカは、思わず叫んだ。落とし穴に落ちたのだ。穴の中で尻もちをついたまま周りを見ると、ご丁寧に馬糞まで撒かれている。


「本当は明日あなたをここに落とす予定だったんですけどね。……あなたにはこれくらいがお似合いだ」

カミルが、十歳前後とは思えない冷たい目でヴェロニカを見下ろしていた。


「何てことするの!」


 ヴェロニカが叫んだ。

 やはり怒ったか。これに懲りてもうボランティアなんてやめればいいのにとカミルは思った。どうせ貴族なんて、本気で人を救おうなんて思っていない。ヴェロニカだって、自分の評判を上げる為だけにボランティアをしているに違いない。


 しかし、次のヴェロニカの言葉は、カミルの想像と違った。


「小さい子供が間違って落ちたらどうするの! 一歩間違えたら大怪我をするし、もし周りの土が落ちて埋まってしまったら窒息死する可能性もあるのよ!」


 怒る所はそこなのか。カミルはポカンとした顔をしていたが、ヴェロニカの言葉の意味を理解し、言葉を発した。


「……すみませんでした。もうしません」

「わかればいいのよ」


 ヴェロニカは、にこりと笑った。そして、馬糞だらけのドレスで立ち去って行った。


         ◆ ◆ ◆


 その夜、夕食の席でヴェロニカが溜息を吐いていると、テーブルの向かいにいたハルトムートが声を掛けてきた。


「どうした? ヴェロニカ。元気がないようだが」

「旦那様……いえ、その……孤児院の子供達が中々心を開いてくれなくて……」


 ヴェロニカが目を伏せながら言うと、ハルトムートは考え込むような表情で呟いた。


「そうか……それはさすがにヴェロニカが自分で子供達の信頼を勝ち取らないとな……」

「はい……」

「大丈夫だ。ヴェロニカが子供達の為に努力をしている事は知っている。きっと、子供達にもヴェロニカの想いは伝わるさ」

「ありがとうございます、旦那様……」


 ヴェロニカは、微笑んで礼を言った。

前途多難なボランティア生活です。

次回も読んで頂けると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ