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元悪役令嬢は書庫にこもりたい3

ヴェロニカの天国のような(?)結婚生活スタートです!

 その日の夜、アイスナー邸のリビングでヴェロニカとハルトムートは二人きりになった。くすんだ赤色の絨毯が敷かれた、素敵なリビングだ。ヴェロニカが室内を見回していると、ハルトムートが口を開いた。


「ヴェロニカ。君とは互いに愛し合って結婚したわけでは無いので、最低限の社交以外は、お互い自由に過ごそう。君と寝室を同じにする事は無いと思ってほしい」


 まあ、愛し合っているわけでは無いから、そういう事を言われてもヴェロニカも何とも思わないのだが。

 むしろ、好きでもない相手と夜を共に過ごさなくて良いのはラッキーなのでは。いや、ラッキーどころではない。犯罪者と言ってもいいヴェロニカがお金に困らず自由に過ごせるこの世界は、天国ではなかろうか。


 「承知致しました。……あの、自由に過ごすという事は、書庫への出入りも自由で……?」


 ヴェロニカは、屋敷の中を案内されていた時から、書庫が気になって仕方なかった。ヴェロニカの前世である小夜は、活字中毒と言える程の本好き。アイスナー邸の書庫の大きさに目を輝かせていた。


 「もちろん、好きな時に入るといい」


 ヴェロニカは、心の中でガッツポーズをした。


         ◆ ◆ ◆


 翌日から、ヴェロニカは早速書庫に入り浸った。小説から歴史書、医学書まで、あらゆるジャンルの本を読み漁った。

 ハンス以外の使用人達にはお飾りの妻だと陰口を言われたが、全く気にならなかった。


 アイスナー邸に来てから一週間ほど経ったある日の朝。ヴェロニカは、書庫で考え込んだ。果たして、この天国のような日々は長く続くのだろうか。伯爵家の都合が変わって、離縁されるかもしれない。

 もう実家には帰れないし、何か仕事が出来るようにならなくては。そこでヴェロニカは、小夜だった頃の事を思い出した。


 小夜は昔からコミュニケーションが苦手な陰キャで、中学校では虐められていた。しかし、小夜の話をよく聞き、小夜の意見を尊重しつつ虐めを無くそうと尽力してくれた先生がいた。

 小夜は、そんな先生のようになりたくて、教育学部に進学したのだ。


 ヴェロニカは、本だけではなく新聞も読んでいる。書庫に持ち込んだ新聞に目を通すと、孤児院の子供達に勉強を教えるボランティアの募集が載っていた。

 ボランティアに参加し、折を見て子供達に勉強を教える事業を始めたらどうだろうか。そうと決まったら、子供達に教える為に、そして事業を始める為にますます知識を取り入れないといけない。

 ヴェロニカは、今まで以上に書庫に入り浸るようになった。


          ◆ ◆ ◆


「私の妻は今日何をしていた?」


 ある夜、ハルトムートは、書斎に入ってきたハンスに聞いた。ヴェロニカは形だけの妻だが、さすがにアイスナー家の財産を食い潰されるのは困るので、ヴェロニカの動向を報告させているのだ。


「本日も、書庫にこもっておいででした」

「他には?」

「三度の食事と朝の散歩、夜の入浴以外は、ずっと書庫にこもっておいででした」

「本当にずっと?」

「はい、ずっと」


 意外だった。ヴェロニカは、学園の資金を横領する程の浪費家と聞いている。買い物に出かけて浪費したり、見目の良い男を家に連れ込んだりするくらいはしそうだった。


「……何か企んでいて、演技をしているという事は?」

「その可能性は低いように感じました。本当に寝食を忘れて読書に没頭しているように見えます。本日も、昼食の用意が出来た事を伝えましたら、『もうそんな時間?』と目を丸くしていらっしゃいました」

「そうか……」


 ハルトムートは、まだハンスの言葉を半信半疑で聞いていた。そして、しばらく考え込んだ後、ハンスにも聞こえないように呟いた。


「……一度向き合ってみるか……」


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