元悪役令嬢は書庫にこもりたい1
以前投稿していた作品を大幅に改稿しました。
読んで頂けると嬉しいです^^
北原小夜が目を覚ますと、そこは知らない部屋だった。ガバッとベッドから起き上がって辺りを見回す。
小夜は純粋な日本人のはずだが、この部屋は、近世ヨーロッパの貴族の部屋かと思うようなインテリア等であふれていた。ピンク色の鏡台、木製の棚、天蓋付きのベッド。
状況を整理しようと、小夜は頭をフル回転させた。
小夜は大学四年生。教育学部に属し、教育実習期間中だったはずだ。そして、思い出した。学校からの帰り道、交通事故に遭ったのだ。冷たいアスファルトに横たわりながら、「救急車はまだか」「ひどい出血だ」等の言葉を聞いた記憶が残っている。
私は死んだのか、死んだのならここはどこだと考える。
ふと立ち上がって、近くにある鏡台に近づく。鏡を覗き込んで、小夜は目を見開いた。
そこに映っていたのは、少しウェーブがかった長い黒髪を緩く束ねた、美しい外国人らしき女性。赤い瞳がルビーのように輝いている。それが自分だと気付くまで、少し時間が掛かった。
小夜は、ショートカットの黒髪に眼鏡を掛けた、普通の日本人だったはずだ。何故このような事に。
そして小夜は、この女性にもこの部屋にも見覚えがある事に気付いた。
乙女ゲーム『名探偵は月夜に輝く』。貴族が通う学園に入学した男爵令嬢が、学園内で起きた事件を解決する、ヨーロッパ風の世界が舞台のゲームだ。もちろん、同級生や教師等の攻略対象キャラも出てくる。
そしてこの乙女ゲーム、なんとドラマ化もされていた。視聴率は散々だったようだが。
小夜は、そのゲームに登場するヴェロニカというキャラクターにそっくりな姿になっていた。ヴェロニカは学園で生徒会長だったが、生徒会が管理する資金を横領した罪を主人公であるフリーデに暴かれ、学園を追放される。追放されたのは、卒業パーティー間近だったか。
どうやら小夜は、侯爵令嬢であるヴェロニカに転生したらしい。よりによって何故悪役に……。これからどうするか考えなければいけない。
そもそも、今は何年何月何日だろう。そう思っていると、部屋がノックされた。
「失礼致します」
そう言って部屋に入ってきたのは、メイドのアルマ。黒髪を短く切り揃えた美人だ。確か、ヴェロニカと同じくらいの年齢。ゲームでの出番は少ないが、覚えている。
「お嬢様、昨日は体調が優れないようでしたが、ご気分はいかがですか?」
これは、質問するチャンスだ。
「少し頭が混乱していて……。アルマ、今日はアルノー暦何年の何月何日だったかしら?」
乙女ゲームをやりこんだ小夜は、ゲーム内の暦も覚えている。
「アルノ―暦801年8月30日です」
アルマが、無表情で答える。それを聞いて、ヴェロニカは絶句した。――既にヴェロニカが学園を追放された後だった。
「そして、明日はお嬢様がアイスナー伯爵の元に嫁がれる日です」
また絶句した。そう言えば、ゲームの中で、ヴェロニカは学園を追放された後、事態を収拾したい両親の意向で政略結婚をさせられたんだったと思い出す。
アルマが部屋を去った後、ヴェロニカは一人で今後の事について考えたかったが、明日は結婚式。ヴェロニカが一応は元気だと気付いた使用人達の手によって、サクサクと結婚の準備は進められていった。
次回、ヴェロニカの夫登場!!