93 これってナンだろうね
今回も読みに来ていただき、本当にありがとうございます。
●この物語に出てくる魔法や職業に付いているルビや漢字表記は独自解釈の箇所があり、一般的なファンタジーのもの(小説やゲームなど)と異なる場合があります。
●誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。
ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。
アークシュリラは、トマから聞いた魔法名を唱えた。
【捜索!】
アークシュリラの周囲から靄の様なモノが湧き出して、それが瓦礫の隙間に入って行く。
しばらくして、その靄は消えた。
「どうだった?」
「何も無かったよ」
「そうなると床下だね。本格的に壊さないとそのモノを見付けられないから、私たちは二度とここから出られないってコトになるね」
「でも、ボクたち以外にここに入ったモノが、いないのって変じゃない」
街道でない草原を歩いている時でも人に出会ったり、遠くに居るのを見たりを何回もしていたから、この建物がこんな状態になって二人が最初に発見したと云うコトはまず無いだろう。
仮に閉じ込めているのは人のみだとしても、床面の状態からは獣などと戦った形跡は全く感じられないし、死体を食い荒らした様にも見えない。
なので、ここに誰も居ないコトや、一つの遺体すらない状態はおかしいと言える。
それに、瓦礫をどかして色々と捜索している時に、骨までキレイに消化する生き物は見なかった。
どのくらいの期間に亘って、これが人のみを閉じ込めているかは判断する材料を二人は持ち合わせていないが、閉じ込める対象を限定すればするほど同じ魔力量だとその時間は短くなる。
普通なら対象を限定しないで、あらゆるモノを対象にする。
そうなると、今現在も小さな動物や虫はこの場所に生息している。
確かにここには雨風を防いで敵から身を隠すモノはたくさんあるが、それらが全く飲まず食わずで暮らしていけるはずもない。
なので、誰かが食べ物や飲み水を運んで来る以外には、それらが好むと好まざるとに関わらず絶対に外へ行かなければ、食べ物や飲み水がないここでは必ず死んでしまうコトになる。
「そうだね。何らかの方法で出られるってコトだよね」
「でも、霊が原因だと時刻も関係があるかもね」
「もう少しで陽も暮れるから、ちょうど良いかもね」
待つと決めたら、立って話をしている意味はない。
二人は小石とかを軽く払いのけて、床に腰を下ろした。
霊は、普通なら日中より夜間の方が活動は活発になるから、夜を待つのは得策ではない。
それは、日中ですら二人を閉じ込められる力を持っている霊ならば、夜間になればもっとスゴい技が使えるようになるからである。
しかし、日中は見えない霊も、夜間なら具現化して姿を現す場合も有るので、霊に対する対策を十全に講じていれば、あながち間違った選択ではない。
ただ、今の二人は、霊に対する対策は皆無と言って良いほど、出来てはいないが……
徐々に陽は地平線と交わり、やがて薄暮を迎えて来た。
いくら壊れていて瓦礫しかない所であっても、この場所で焚き火をするのを、まだこの建物がナニかが判らなかったから二人は気がひけた。
それと、瓦礫を退かして床を調べたけど、どこにも薪の燃え残りはおろか、煤すら無かったコトも二人にそう思わせた原因であった。
更に、二人に取っては、月明かりがあれば活動をするのにナンの不自由もないし、ナニかが出現してもそれを見分けるのには充分な明るさだったコトも若干だが影響している。
しかし、いざ戦闘となると話は変わってくる。
アークシュリラのような剣を扱う相手とか大型の武器である斧やモーニングスターなら良いが、通常より小型のダガーや小苦無とか遠距離から矢による攻撃を受けた場合はマズいことになる。
そこで、念のために二人はアイテム袋からランタンを取り出して、保存食を摘まみながら陽が退いて月や星々が支配する時刻を待つコトにした。
「アークシュリラ。それにしても、この石ってキレイだよね」
「崩れ散った石とかが有るけど、今まで見た床より滑らかだしね」
今まで立ち寄った街にあった、石が敷き詰められている床のどれもが凹凸はある程度滑らかになっていた。
それでも、ここよりかはでこぼこしていた。
この床は、まるで氷やガラスのような手触りである。
「昔の技術で、これほどの仕上げをするのは大変だっただろうね」
「魔法で滑らかにするのって、ないの?」
「あるにはあるけど、とても手間と時間が掛かるよ」
トマが想像した魔法は、研磨と言うモノである。
それは石や金属の表面を滑らかにする魔法であったが、例えば1メートル四方を磨くのに丸二日といかんせん時間が掛かるモノであった。
更に言うと、その魔法は磨く所を術者が指定し続けなければならず、掛け放しでは鏡面みたいにキレイになるが、平らにはならずに凹みを作ってしまう。
「時間や手間が掛かったとしても、手作業よりもキレイになるんでしょ」
「それは、そうだけど……それをやるからには、この建物はそれだけ重要だと云うコトだよ」
「話は変わるけど、この建物って仕切りの壁が一切無いよね。外と面している壁は一部が残っているのに、中にはその跡すらないのはおかしくない?」
「それは私も思ったよ。もし、これが集会所だったとしても、荷物置き場などは壁で仕切るよね」
これが集会所なら一部屋だったとしてもおかしくはないし、炊事場や浴室は作る必要性はないが、椅子や机などを収納しておく部屋は必要になる。
昔なのでトイレは共同のモノを使って、個別の建物に作らないコトもあるが、それらしい遺構は外にも見えなかった。
「キレイな床で一室しかない建物って考えると、やっぱり祠にしかボクは思えないよ」
「確かに、それは重要設備だから、時間と手間を掛けたのも分からなくは無いけど……それならば、お詣りや管理が大変だし、ナニもないこんな所に建てる意味が無いよ」
「そうだよね」
神々を祀る祠は神殿の小さなモノであるから、建てたら終わりと云う訳にはいかない。
祠なら神官を配置して毎日決まった時間に祝詞を奏上したり、神饌・幣帛などを供えたりする必要は無いとはいえ、定期的に掃除などをする必要性はある。
それを怠ると、神さまによっては禍をもたらす場合もあるからである。
トマやアークシュリラがいる現代でも、神さまに対する人々の信仰心は高いから、昔なら粗略に扱うコトは絶対に有り得ない。
辺りがすっかり暗くなったので、二人はそれぞれランタンに火を灯した。
それによって、周辺が少しは明るくなった。
●最後まで読んで頂きありがとうございます。
●今回は、トマとアークシュリラの二人がナニか判らない壊れた建物に閉じ込められて、これがナニか話し合うがお話です。
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