90 ルセルファンの畑を見に行く
今回も読みに来ていただき、本当にありがとうございます。
●この物語に出てくる魔法や職業に付いているルビや漢字表記は独自解釈の箇所があり、一般的なファンタジーのもの(小説やゲームなど)と異なる場合があります。
●誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。
ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。
ノドーラのコトなどを話しているうちに、トマとアークシュリラにはルセルファンの街が見えて来た。
「トマ、街に入らなくても本当に良いの? 急いでいる訳じゃないから、別に少しの間なら宿屋に泊まっても構わないよ」
「確かに、ここにはまだ珍しいモノがあるかも知れないけど、今は特に買いたいって云うモノはないから平気だよ」
ルセルファンではギルドや図書館以外にも、領主の館とか広場なども見て回った二人だが、それは街のほんの一部でしかない。
まだ、見ていない所の方が、圧倒的に多かった。
それに野菜以外にも、この街には二人の知らない珍しいモノがあるかも知れない。
しかし、二人はそんな気持ちを持ってはいたモノの、街へは入らずに城門の前を素通りして壁沿いにある道へと歩を進めた。
それを行うには、城門から真っ直ぐに伸びている街道を横断することになるので、そこを往来するモノの邪魔に成らないように注意しながらその先を目指した。
城壁沿いに続く道は、街で生活するモノたちが活動するエリアにある石畳が敷き詰められた道とは違い、大勢の人々が通ったコトによって草が生えていない所があるだけであった。
しかし、道幅は二人が並んで歩いても倍以上の余裕があるから、決して世間で言う獣道と云う訳ではない。
なんなら、街道と道幅はそれほどの大差はなかった。
だがしかし、舗装されていないためか、はたまた、この先に旅人が目的にするモノがないのか、街から二人と同じ方角に来るモノはほぼ皆無であった。
確かに街道にはまばらであるが街路樹が植えられてあるから、こっちの道が街道ではないコトは旅人でも判るようになっている。
少しその道を歩くと、二人の目の前に広大な畑が目に飛び込んで来た。
「あっ、これはスゴいよ!」
「トンでもない広さだよね」
ルセルファンから少し離れた位置に、先がドコまで続いているのかが判らないくらいの畑が広がっていた。
街は随分と小さくなっているから、ここがルセルファンに所属している土地だとは思えない。
畑のところどころには、作業をしているモノたちの家と思える建物などが何十軒も建っていて、あたかも一つの村……いや街と言っても過言ではなかった。
ここがルセルファンとは別の街と言われたら、そうだと信じ込んでしまいそうだ。
「人々が、たくさん居るね」
「小さな街以上は居そうだよ」
「ここに居る人たちは、アークシュリラの魔法では感知出来なかったんだよね」
アークシュリラが使った気配のそよ風では、これほどの人々が居ることを察知出来なかった。
さすがに、ここ数日の間にこれほどの人々を集めて、家まで建設したとは思えない。
なので、魔法を発動させた時にルセルファン内に全員が行っていたか、この場所に結界が張られていて感知出来なかったと云うコトである。
それに、全員が街に行くコトはまず考えにくいから、自ずと答えは決まってくる。
「そうなるね。でも、ボクには結界があるようには思えないけど、トマには判る?」
「私には、これは魔法の結界じゃないと思うよ」
「魔法以外なの?」
「神さまの力かなぁ」
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この世界での魔法について、簡単に説明します。
人々が使う魔法は魔力を使いますが、神々が使う魔法……イヤ奇跡は神力が使われます。
魔法も奇跡も起こる現象は似通っていますが、使われるエネルギーが根本的に異なっています。
神さまが同時に広大な範囲でいくつもの現象を起こせるのも、その力が強力と云う訳ではなくて、この使う力が違っているからです。
魔法を使うモノたちも魔力でなく、万が一にでも神力を使えるなら神々と同様なコトが可能になることでしょう。
また、人々が神さまの力に抗うのが難しいのも、そのコトが多大に影響しています。
それらの力の他には、巫覡が使う霊力や、妖怪が使用する妖力などもあります。
巫覡にシャーマンとふりがなを付けましたが、日本語では『かんなぎ』または『ふげき』と読みます。
シャーマンは神仏を勧請したり、神がかりの状態になったりして、未来や吉凶禍福を予言する霊媒者のことです。
一般的なファンタジーでは、呪術師とか巫女と呼ばれて女性だけが巫女になれます。
このコトで、「女性差別だ」と言われるコトは、ナゼだかあまりありませんね。
他に日本に実在する“ユタ”や“イタコ”とか“かんなぎ”も、シャーマンとするファンタジーもあります。
この物語で、シャーマンを職業とする場合の日本語は呪術師を使い、この様な説明には巫覡とします。
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二人は作業をして居る人たちを見ながら、畑の中にあるあぜ道を通っていく。
その際に野菜に触れたら、作業をしている人たちから盗みに来たと思われる可能性が大きい。
そうならないように、その点は充分に注意を払いながら歩いていた。
いくら疑われて多勢に無勢となっても、農作業をしているモノたちに後れをとる二人ではないけど、怪しまれないコトにこしたことはない。
なので、二人は途中で立ち止まらずに、作物や作業風景を眺めている。
「アークシュリラ、ロゾーダってこんな感じになっているんだね」
「本当だ。一本一本が土から直接実ってるんじゃないんだね」
「そうだね。私もそう思ってたよ。ファリチスでも、こんな光景が見られるように成るのかなぁ」
「これほどの広さじゃないけど、畑は出来ると思うよ」
「そうだよね」
トマとアークシュリラがあぜ道を通っていても、農作業をしているモノたちは誰一人として気に留めた雰囲気はない。
なんなら、別に取って行かれても一向に構わないと云う感じすらした。
しかし、作業をしている人たちが誰かに監視されているから、勝手な行動が出来ないわけではなさそうだった。
人々は自由気ままに休んだり、好き勝手に語り合ったりしながら、楽しそうに作業をしている。
「これだけ広いとやるコトは多くて大変だろうけど、なんかみんな楽しそうだね」
「そうだね。いやいややってるモノは、一人も居ない感じだよね」
「これもヴァルリアの影響なのかなぁ」
「以前の神さまの力か、ヴァルリアかは私には分かんないけど、助けに成っているとは感じるよ」
これだけ広大だと、全ての畑でどんな作物が作られているかを見て回るコトは、どだい無理な相談であった。
ロゾーダの畑とあぜ道沿いにあった小さなアピーチュが少し落ちていた、葉や茎の一部が黄色く成っている畑だけを見てそこを後にした。
「アークシュリラ。アピーチュって土の中に出来るのかなぁ」
「そうだよね。落ちているモノは小ぶりだけど、アピーチュだよね。あの草の下に成っていると思うよ」
「あれは拾わないのかなぁ」
「これだけあるから気にしてないか、小ぶりだから土に還すのかもよ」
ファリチスの畑でも、実った作物を全て刈り取って食べるコトはしていなかった。
小さいモノやいくつかは畑に残していた。
二人は小さな時に、それを神さまへのお礼と教わっていた。
人々がせっかく出来たモノを残していたのは、土の養分補給のためと、その周辺に生息する生き物への食べ物でもあった。
しばらくの間、その風景を眺めてから二人は畑を後にした。
●最後まで読んで頂きありがとうございます。
●今回は、トマとアークシュリラがルセルファンの畑を見るお話です。
今後の物語に影響するのかは、何にも決めていません。
もっと牧歌的な話しを数話書こうと思って、畑のリーダーとかとのやり取りも考えましたけど何か長居しそうだったのでこんな感じにしました。
その話はルセルファンの畑でなくても、いつか使いたいですね。
今までボツ話しだけで、25,000字以上ありますから……




