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88 男を引き渡す

今回もわざわざ読みに来て頂き、本当にありがとうございます。

コメントや星を下さいとは言いませんけど、何らかのリアクションをして頂けると大変嬉しいです。

 トマがジルフィーネとの話を終えたのを確認して、アークシュリラがジルフィーネに話し掛けた。


「じゃ、ボクたちが捕まえたモノの居る所へ行こうか」


 ジルフィーネは、ナニも言わずに頷いた。

 少しばかり、三人は並んで歩いた。


「あすこだよ」

「ほう、結界の中にいるのか?」


 結界と云っても無色透明なので、縛らているモノはこの場所からでも見えた。

 ナニも遮るモノのない草原なので、もちろん男性からも三人が見えている。


 そして、ナニも言わずにジルフィーネは男性の前に歩み出た。

 アークシュリラとトマは、その後ろに付いていく。


 三人――いや、ジルフィーネを見た男性はひどく脅えだして、やっとの思いで声を搾りだした。


「ジル、フィーネ様……」

「うむ」

「なぜ、ここにおられるのでしょうか?」


 ジルフィーネは男性のその質問には答えずに、ただ黙ってその男性を見つめ続けてからアークシュリラとトマの方を向いて言った。


「このまま貰っていって、本当に良いのか?」


 ジルフィーネは、アークシュリラとトマの気持ちが変わってないかを再度確認した。


 ジルフィーネと二人が一緒に居る処をみたから、この男性の態度が変化していてもおかしくはない。

 しかし、このモノがトマやアークシュリラに抱いている感情を、二人は推し量るコトは出来ない。


 ジルフィーネがこの場所から去った途端に、元の通り黙り込むコトもある。

 やっぱり、このまま引き渡した方が、この事件はスムーズに解決するだろう。


 それにジルフィーネがヴァルリアに話して彼女がこの件を知れば、頼まなくても畑の傍に居るノドーラたちは、ジルフィーネを初めとした妖精たちがここまで運んで来てくれるだろう。

 それは、ノドーラが無理矢理に連れてこられて畑の傍に居ると知っているモノなら、ノドーラを見つけても放置もするだろう。

 しかし、その理由を知らないモノがノドーラを見つけて退治をしたら、ノドーラだって黙ってはいないで作物へのイタズラを開始するかもしれない。

 ノドーラに畑の傍に居られては、いつ、そのような問題になるかが判らないからだ。


 それに、もう自分たちの手でどうこう出来る範囲を軽く超えているのだから、ジルフィーネたちに任せた方か良い。


「好きにして、良いよ」

「そうか、それは助かる」


 ジルフィーネはその男性の頭に手をかざして、男性を消した。

 多分、異空間にでも、閉じ込めたのだろう。

 ジルフィーネはそれが終わると、アークシュリラとトマに向かって言った。


「これで、もう解決したようなモノだな。で、この情報を教えてくれて、犯人を捕まえた上で引き渡してくれた礼をしたいが、ナニか希望はあるか」


 この件を報告したり、片付けたりしても、ヴァルリアのジルフィーネに対する評価が上がるとはアークシュリラにはとても感じなかった。

 日が違えばジルフィーネでない他の妖精が来たのだから、あまり無理を言って困らせても悪い。


「ボクたちはたいしたこともしてないから、別に良いよ。それに、特にやって欲しいコトはないからね」

「同じ風に関わるモノではないか、遠慮をするな」


 そうだった。ジルフィーネは厳冬の風を操るから狂暴と言われ、放つ気配から凶悪とも思われるが、他の季節以上に優しく礼儀正しかった。

 それは他の季節と違い、自身の起こす風によって生き物の中に死ぬモノが現れるからである。

 あまりジルフィーネに恥を掻かすのも悪いなぁと思い、アークシュリラは言った。


「だったら、ルセルファンでボクたちが買った種と苗を、ファリチスの人々に与えて欲しんだけど、それでも良い」

「ファリチス?」

「台地の上にある、小さな街だけど知らない?」

「あぁ、判ったよ。近くに森と小さな滝がある所か」

「森? ……あれは林かなぁ」


 ファリチスに居る頃はアークシュリラも森だと思っていたが、フーフェンの傍にあったモノを見てから、あれも林ではと考えるようになっていた。


「場所は判った。お主らの名で渡せば良いのだな」

「その方が怪しまれないならそれで良いよ。でも、ヴァルリアやジルフィーネの名でも良いよ。出来たら毒のコトとかも教えて欲しいな」

「だったら、それはヴァルリア様に伺ってからだな。今は必ず渡すコトだけは約束しよう」


 ファリチスの人々に渡ればジルフィーネからでも、ヴァルリアからでも構わない。

 自分たちの名前だと、少しこっぱずかしいくらいだ。


「それと、知っているなら教えて」

「なんだ。話せるコトなら、教えるが……」

「ルセルファンってヴァルリアを祀ってるよね。ナゼ、豊穣の神コワトリクスじゃないの?」


 トマも疑問に感じていたコトを、アークシュリラはジルフィーネに尋ねた。


「そんなコトか、最初に街……イヤ村だな。それが出来た当初は、この地はとても荒れ果てていて農作業には全く向かない土地だった。そこで初めに豊穣の神コワトリクスに祈った。そして、次第にあの街がある周辺が肥沃な土地に変化した」


 やっぱり、豊穣の神コワトリクスが祀られていた。


「コワトリクスからヴァルリアに変えたの?」

「そうではない。肥沃な土地になれば、たくさんの作物を育てたいと考えて、センテオートルが次に祀られた神だ。このセンテオートルは願いの通りたくさんの野菜の作り方を教えたようだ。センテオートルの次がヴァルリア様だ。ナンでも虫害が多くなったからと聞いている」


 やっぱり、ルセルファンでは土の神から変わっていた。

 トマが感じた違和感の正体も、二人の土の神に関するそれぞれの彫刻がある中に、風の神を祀るためにその彫刻も入れたからであった。

 いくら一流の彫刻家が作業をしたとしても、彫ったモノの癖や時代による作風などが違うから致し方ない。

 三回も神さまを変えているので、最低でも時代の異なる三人が携わっている。

 なので、違和感を抱いたとしても、なんら不思議ではなかった。


「さっきの野菜を育てている畑は、領主の?」

「そうだな。ここにノドーラが移ったから、この方向には畑を作っていないが、街の周りに畑はある。それを代々領主の子で、領主にならなかったモノが管理をしている」


 領主にならなかった他の子どもも、やはり追放や殺害はされていなかった。

 その人々は畑の管理を行っている。


「それじゃ、とんでもない広さだよね」

「あぁ、途方もない広さだな。しかし、子どもが嫁ぐとか養子に行く場合や、畑仕事に向かないときは、その畑は残った領主を含めた一同で話し合って再配分しているから、無限に拡大するコトもないな」


 領主になるのも、畑を管理するのも、責任を持って行うのは大変な仕事である。

 それに領主が偉くて、畑の管理が下と云う訳でもないようだ。

 あくまでも、両者は平等であった。


 それにノドーラを畑の傍に放ったのは、別に作物の出来を阻害するとか、畑自体を荒らす目的ではなくて、ただ、現在の領主を困らせて、フィデーが解決索を授ける程度だろうとジルフィーネは言っていた。

 まぁ、これは今後フィデーから聞き取りをすれば、本当のコトは明らかになる。

 神さまの眷族ですら、生き物の心の中までは完璧に把握は出来ないようだった。


「良くわかったよ。ありがとう」

「本来は手助けをしてもらった、こちらがお礼をするのだぞ。まぁいい。では、ワラワは戻るコトにする」

●最後まで読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。

ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。

●今回は、トマとアークシュリラがジルフィーネと話し続きのお話です。

あとはジルフィーネやヴァルリアが対応するハズです。

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