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85 新たな出現者

今回も読みに来て頂き、本当にありがとうございます。

 捕まえた男性が一言も喋ってくれないので、トマとアークシュリラはとても困っている。

 当初は捕まえれば、物事が簡単に解決すると安易に考えていたから尚更である。


 この男性が犯人だったら拷問をすれば犯行を白状する可能性があるけど、もしそうでなかったら、今でもロープで体を拘束しているのだから、謝ったとしてもきっと許してはくれないだろう。


 随分と時間が経った頃、アークシュリラが言った。


「ちょっと良い」

「ナニ?」

「こっちに来て」

「どうしたの?」


 アークシュリラはその男性に今から言うコトを聞かれたくないのだと、トマは思った。

 そして、男性が盗賊(シーフ)だったとしても、これだけ離れれば話を聞かれるコトはないと感じる所へトマを連れて行ってから、アークシュリラが小声で言った。


「トマ。また、ナニモノかがこっちに来るよ」

「えっ。また近くにいるの?」

「今度は、結構遠くだよ」

「今も魔法を使ってないよね」

「うん。使ってないよ。でも、ナゼかこの距離でも判ったよ」

「不思議だね。それで人数は?」

「多分、一人……イヤ一体かなぁ」

「一人? ……一体?」

「そう。でも、この感じは、かなり手強そうだね」

「相手が、強いって言うの?」

「うん。ボクでも敵わないかも……」


 男性の居る方角を眺めると、その影は随分と小さく見えた。


「あのまんまでも、良いかなぁ」

「今日なら喰われるようなコトはないだろうから、良いんじゃないかなぁ」

「でも、まだ遠いんでしょ」

「うん、かなりあるね」

「近付いたら、行こうか?」

「それも、そうだね」


 アークシュリラとトマは何ごともなかったかのように、男性の所へ戻って来た。

 男性はいぶかしがってはいるモノの、それをおくびにも出さなかった。


 しばらくして、アークシュリラはトマをみた。

 トマは頷いてから、男性に言った。


「ちょっと、ここを離れるけど、逃げるようなコトはしないでね」

「……」


 やっぱり、男性は返事をしなかった。


 トマが歩きながら矢筒から錫杖を取り出したのを見て、アークシュリラが言った。


「こんどの相手は、魔法を使うのをやめた方が良いかなぁ」

「なんで、強いんでしょ」

「多分ナンだけど、この気配の相手ではボクたちの魔法は効かないと思うから、相手にボクたちの居所を教えるだけだよ」

「そう」


 トマは自分の出番はまだだと考えて、錫杖を元の位置に仕舞った。


 しばらく経つと、トマにもその気配を感じられるようになった。


「ナンなの、この邪悪な気配は!」

「トマにも、ようやく感じられるようになったんだね。これは、きっとジルフィーネだよ。風の精霊の」


 アークシュリラは最初にこの気配を感じた時は、相手がナニモノかは判らなかった。

 しかし、徐々に強くなる気配を感じ取って、今ならその正体が判っている。


「風の精霊があのモノの親分で、仲間が戻ってこないから助けに来たってコト?」

「それは判んないけど……」

「でも、これって本当に風の精霊なの? この感じって闇じゃないの?」


 まだこの世界には、闇や光と云う考え方は一般的ではなかった。

 二人がそれを知っているのは、トマは火の神アシュミコル、アークシュリラは風の眷族であるウィンデラスによって、いろいろと教えられたからかも知れない。

 ちなみに一般的なのは、火・水・土そして風の四つの属性である。


「うん。れっきとした風の眷族だよ。ルルピリャマーラが言っていた、ボクなら判るって云う意味がやっと判ったよ」

「判っても、こんなのじゃ、戦えないじゃん」


 多分魔法じゃ無理とアークシュリラは言っていたが、トマは相手が精霊なら自分が使える魔法が絶対に効かないコトくらいは知っている。


「う~ん。まさか精霊でもジルフィーネだとは思わなかったよ。確かにヴァルリアの配下で冬を呼ぶモノだけど……」

「それって、前に言ってた作物を食い荒らすのを、駆除するヤツなの?」

「そうだけど。ジルフィーネでも、あの街からここまで遠征するかなぁ」


 確かに図書館で読んだ本には、コビトが作物にイタズラをする場合があるみたいなコトが書いてあった。

 出来た作物に悪さをされないために、祀る神さまをヴァルリアに変えたかもと二人は考えてもいた。


「アークシュリラ。でも、居るのは現実だよ。無理と判っていても戦うの?」

「話をしに行くよ。もし剣を交えてから違っていたらマズイしね。ボクにはジルフィーネが来たのは、違う意図のような気がしてならないんだよ」

「判ったよ。戦いになっても、魔法の援護は無理だから期待しないでね」


 トマはそうは言ったモノの、精霊がいるエリアで魔法が一切使えない訳ではないから、アークシュリラがケガをしたら治癒(キュア)回復(ヒール)の魔法くらいなら掛けられる。

 そのため、いざというとき最大の効果を発揮するように準備だけはしておく。


 アークシュリラとトマは、邪悪な気配のする方向に更に進んでいく。


「あっ、居るね」

「うん。居るね」

 背中に大きなナニかがある人型が、星明かりに浮かんでいる。


「あの背中にあるモノは、バックパックじゃ無いよね?」

「違うよ、翼だよ」

「飛ぶの?」

「当然、風の眷族だから飛ぶよ」


 そう聞いて、トマは絶望した。

 魔法が使えない上に、更に相手は空中戦が出来る。

 魔法が効かないと云うコトを差し引いても、アティンヴェスですら悪戦苦闘した。

 今回ばかりは全くと言って良いほど、自分たちに勝ち目はない。


「もう、ジルフィーネはボクたちに気が付いているハズだから、そろそろ声を掛けるね」

「うん」


 相手が自分たちの存在に気付いているのなら、このまま隠れて居ても良いことは起こらない。

 触らぬ神に祟りなしとやり過ごせるなら、黙っているコトを選んだ方が賢いと言える。

 しかし、今の二人はジルフィーネに用事があるから、黙っている選択肢はない。

 そして相手がアクションを起こしたのをみて、こちらがリアクションをするくらいなら、そうなる前にこちらが主導的に行動すべきだと考えた。

●最後まで読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。

ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。

●今回は、トマとアークシュリラが、新しく現れたモノを見つけるお話です。

ジルフィーネは捕まえた男性の仲間で、本当にそれを助けに来たのでしょうか?

もし、そうだったのなら、アークシュリラの剣でどこまで戦えるのでしょうか?

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