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83 月の出ない日

今回も読みに来て頂いて、本当にありがとうございます。

 陽が沈んだが、いつもなら反対側に昇ってくる月が今夜は昇って来ない。

 二人が思った通り、今日が月の出ない日で合っていたようだった。


 普段は月明かりによって影の薄い星たちも、このときばかりは一段と輝きを増して、互いに競い合っているような気分にすらなってくる。


 空中や地上で暮らす魔法を使わない生き物たちは、いつもと変わらずに行動をしているモノの、魔力の影響を受ける大多数の魔物たちは、おとなしく今日の日が過ぎるのを待っている感じがする。


 毎月起こるコトなので、トマもアークシュリラも生まれて初めて月の出ない日を迎えた訳ではない。

 だがしかし、その日を意識して迎えたのは、今回が初めてであった。


「どう、アークシュリラ。いつもとは違う?」

「ボク自身は全く変わりないけど、やっぱ月の出ない日は空とかが気になるよね」

「星たちが、いつもより見えるから?」

「そう、いつもは見えない星々も、確認するコトが出来るからね」


 アークシュリラやトマは占星術師(アストロロジャー)のように専門的な教育を受けていないので、天体については方角を知るとか時間が判るなどの一般的な知識しか持ち合わせていない。

 星で時刻を知ると云っても、星時計(ノクターナル)などの道具を使う訳ではなくって、星々の位置や見え方によってそれらを把握している。

 また、専門的な知識を身に付けたモノの中には、運命が判ったり、危機を察知したりするコトも出来るようになるモノもいるみたいであった。


「アークシュリラ。何時頃に来ると思うの?」

「トマは、もう来ないって言ってたっけ」

「うん。でも、それって召喚だったらで、あくまでも勘だからね」


 今回も捕まえに来るのか、それとも、もうノドーラを捕まえる必要が無くなって来ないのかを、今の二人には判断する材料がない。

 それにアークシュリラが言っていた、ノドーラの数が少ないと云うコトもトマには気になった。


 アークシュリラは、今回も必ず来るコトを期待していた。

 イヤ、来てもらわなければ困ると云う信念に近かった。


 仮にノドーラを捕まえていった犯行現場が完全に保全されているのならば、手掛かりをみつけるコトも出来るかも知れない。

 しかし、雨風にさらされ続けた犯行現場では、いくら隈無く探してもたいした手掛かりも発見するコトは出来ないだろう。

 そうなると、また、あの街で一つ一つ地道に調査をするしか犯人を探し出す方法は残されていないコトになる。


 しかも、それをし終えたからと云って、必ず犯人に辿り着ける保障はない。

 あの街が今回の事件に一切関係していなかったら、幾ら時間を掛けて一つ一つを地道に潰していったとしても、犯人はここには居ないと云うコトしか判明しないコトだって有り得る。


 トマとアークシュリラは、話さずに様々なコトに思いを馳せていた。

 そして星空を眺めながら、いつ犯人がやって来ても良いように準備だけはしている。

 例えばトマの場合だと、いつもは腰にぶら下げた矢筒の中に仕舞っている杖を、元のサイズにしていつでも使用が出来るように傍に置いておくとかだ。


 どのくらいの時間が経っただろうか。

 一向に、ノドーラを攫いに来るモノは現れない。


「来るのかなぁ。トマが言うとおりで、用が済んだのかなぁ」

「判んないよ。それにノドーラの数が少ないんでしょ」

「そう。だから、もう来たのかも……」


 夜が更けて行くに従って、徐々に心配が増していく。


 夜行性の生き物たち以外は、もうとっくに眠りについている。

 夜行性であっても、今日はあまり活発に活動をしていないようで、虫たちなどの鳴き声とかも少しずつその数は減っていく。

 やがて、それらは聞こえなくなって来て、そして、二人を静寂が包み込んでいく。


 今日は来ないのではと二人の頭に浮かんで来たころに、アークシュリラが言った。


「トマ、誰かが近寄って来るよ」

「えっ、来たの? 今は魔法を使ってないよね」

「うん。使ってないよ」

「そんなに近くで? それで人数は?」

「多分、一人……イヤ、一組かなぁ」

「それだと、旅人が通るだけかも知れないね」


 この場所に来るモノは、ノドーラを攫いに来るモノだけとは限らない。

 あの街から出発するモノが、この場所を通って台地の方とかに行くコトはあるだろう。


「犯人かは判らないけど、用心しといて損は無いよね」

「そうだね」


 トマが置いていた錫杖を手にする。


「まだこの辺りに居るの?」

「違う方向に行っちゃったよ。でも、その次が来たけどね」

「こんなに人通りが多かったっけ」

「あんまり人は、居なかったよね」


 あまり人をこの周辺で見掛けなかったが、今は二組が居る。

 コビトと同じ様に数居る魔物も魔力が減ると考えているのなら、今日のこの時間に移動するのも判る。

 そう言っても、今は真夜中だけど……


「もう一つも、どっかに行ったの?」

「イヤ、動かなくなったね。それとこいつはパーティーじゃなくて一人だね」

「犯人?」

「そうかも」


 動かなくなったと云うコトは、そこでナニかがあったと云うコトである。

 ただ休憩をしているだけと云うコトも考えられるが、そうだとしても今は確認をする必要がある。


「なら、見に行こうか?」

「行こう」


 アークシュリラを先頭に、そのモノが居る所へ向かった。


「あの人だね」

「本当に、一人なんだ」


 星明かりしかないのでそこでナニをしているかまでは良くは判らないが、その人は杖や武器を持っているようには見えない。

 足取りは非常に軽やかで、しっかり鍛え抜かれた体をしている感じがした。


「冒険者じゃないのかなぁ」

「杖はないようだけど、ワンドってコトもあるからそうとは限らないよ」


 ワンドなら、30センチメートル以下のモノもある。

 そのサイズなら、懐に入れている場合もある。

 ワンドに似たモノに金剛杵(ヴァジュラ)もあるが、これはどちらかと言えば僧侶系の人たちが使う場合が多い。


「あの身のこなし方は、盗賊(シーフ)夜盗(バークラー)かも知れないね」

「そうだね。そうなると短剣を持っているのかなぁ」


 盗賊(シーフ)夜盗(バークラー)などは、忍び込むのにジャマになるから、あまり長い剣を帯びての行動はしない。

 それでも、剣を絶対に使わない――使えない訳ではないから、中には剣士(エペイスト)のような格好をしているモノもいる。


盗賊(シーフ)だったら、ナンでここに居るんだろう?」

「まぁ、金目のモノはないし、珍しい野草とかも生えてないからね」


 誰も居ない、ナニも無い草原に来る意味は、ここで危険なコトを試すくらいしか思い当たらない。

 これが魔法使いなら魔法の練習をやりに来たってコトが考えられるし、盗賊(シーフ)でも二人以上居るのなら戦闘訓練と云うコトもある。

 それが一人なら、目的は自ずと限られて来る。

●最後まで読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。

ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。

●今回は、ようやく月の出ない日を迎えたお話です。

やっと犯人らしきモノに遭遇しましたが、トマとアークシュリラの二人はいったいどうするのでしょうか?

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