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79 街を出る

本日も、読みに来て頂きありがとうございます。

 朝日が昇って来るのと同時に目覚めたトマとアークシュリラは、宿屋の食堂で軽めの朝食を取った。

 そして、宿代の支払いを済ましてから街をでた。


 今はノドーラと初めて出会った処へ向かって、草原を歩いている。


「トマ、対魔法(アンチマジック)ってあるじゃん。あれって、ボク自身にかけるコトは出来るの?」

「生き物に掛けられるかってコト? それは無理かなぁ。対象はあくまでもエリアだからね」

「やっぱり、そうなんだ。そして、その範囲から外に出たらダメなんだよね」

「範囲外に行ったら、効果はなくなるよ。でも、アークシュリラの言うヤツは、護符だったら出来るよ」

「あぁ、そう言ったモノもあったよね」


 護符は魔法とは違い、簡単に言えば携帯型の魔方陣である。

 魔方陣なので魔力があれば誰でも使用するコトが可能であって、特定の効果を一定期間に亘って発動するモノであった。

 その期間は、常時発動するモノだと短くなるし、ある特定の条件下でないと発動しないモノは長くなる。

 しかし、金額に糸目を付けなければ、それを無視する護符を制作してもらうコトも可能であった。


「アークシュリラ。もしかしたらノドーラを捕まえている人たちが、そう言ったモノを使っていると考えてるの?」

「もし、ボクがあの街に住んでいたら、危険を冒してまでやるんだから準備は完璧にするよ」

「それも、そうだね」


 確かに街から出てノドーラを攫うと言う危険を冒すなら、安全対策に万全の備えをしていてもおかしくはない。

 もし、そうであるならば、魔法でカモフラージュくらいはするだろう。


 また暫く歩いていると、トマが話し掛けた。


「アークシュリラ。あの街って農産物がたくさんあったけど、風の神を祀ってるんだよね」

「そうなんだよ。普通なら豊穣の神コワトリクスを祀ると思うけど、風の神ヴァルリアだったよ」

「で、ヴァルリアって、作物の実りとかには関係しないんだったよね」

「直接的には、関係はないよ」

「直接的……じゃ、間接的には関係するの?」

「穏やかな風だから、作物も安心して成長するようだよ」

「それって、作物が本来持つ力だよね」

「だから間接的なんだよ。直接的に神さまの力に頼るなら、野菜をたくさん取れるように豊穣の神さまか農耕の神さまを祀るべきだね」


 あの街が農業で成り立っているなら、農耕に関する神さまを祀った方がしっくりくるとトマも感じた。

 そうでないなら、水の神さまだったらまだ判るが……


「そうだね。ナンでヴァルリアなのだろうね」

「ヴァルリアの配下には、作物を食い荒らすモノを退治するヤツとかがいるけどね。それは他の神さまだって似たり寄ったりの力があると思うんだよ」


 植物に関係無さそうな火の神さまにだって、葉や実などを食べるヤツを懲らしめるモノがいるコトはトマも判っている。

 更に言えば、野焼きや焼き畑に関わる神さまがいるのを知っている。


「そうだよね。火の神々ですら、そう言ったモノを退治する神さまが居るもんね」


 アークシュリラは、やっぱり火の神さまですら、そう云う力を保有する神々がいるのだと思った。


「そうなんだ、火の神さまにも居るんだ。だったら、何で風の神さま――それもヴァルリアに変えたのかなぁ」


 街にあった公園や領主の館などいくつかの彫刻を見た処、アークシュリラの言う通りで全てが同じ様な彫刻――実際には、ヴァルリアを街全体の街頭で祀っていた。

 なので、一部の関係者の処だけと云う訳でもなさそうだった。


「それも、街全体で祀ってたよね」

「そうだね。一部の農業関係者だけなら、全部を変えていなくても変じゃないけど、街全体なら全てを新しくしなかったか不思議だよね」

「街全体で祀る神さまを変えたのなら、そうするよね」

「まだ、取り替えの最中なのかもよ」

「私たちが見て回った時に工事をしている処はなかったから、ずっと昔に変えたと思うけどね」


 レリーフなどの彫刻から云って、いつの時代だかにナニかが起こって祀る神さまを変更したのは事実である。


「でも、あの街の歴史にも、そんな記述はなかったね」


 一応、二人は街の歴史とかの本も見ていたが、風の神さまを祀る理由が書かれた書物はなかった。

 その上、彫刻の一部だけ変えたのならば、街にやって来る旅人たちに違和感をもたれないように、その傍に説明書きを設置した方が親切である。

 しかし、それもなかったから、変えた理由が判らないままであった。

 それは、ある期間の情報が、すっぽり抜け落ちているような気持ちにさえ、トマは思えてきた。


「アークシュリラ。もしかしたら、一部の歴史が抜け落ちていて、街の人々の記憶から消えているのかもよ」

「それは、ないと思うけど……ボクが言ったからトマも気になって来たみたいだけど、ノドーラを捕まえているのにヴァルリアは関係無いと思うよ」

「えっ、そうなの?」


 トマは、てっきりノドーラの件にヴァルリアが絡んでいると思うようになって来た所で、アークシュリラにハシゴを外された気がした。


「だって、シファディーダはノドーラとアティンヴェスは眷族同士の争いと言ったけど、ルルピリャマーラは攫っているコトに、神は携わっていないって言ってたよ」


 そう言われれば、そんなようなコトを聞いた覚えがトマにもあった。

 しかし、あの街が、農業で成り立っているのは事実である。

 図書館で調べた通りでノドーラが作物にイタズラをしていたら、駆除の対象になってもおかしくはない。


 ウルフは人を襲うが、マダーフォンは人を襲うコトが無いにも拘わらず駆除対象なのは、作物を勝手に食い荒らすからだった。

 なので、ノドーラも同じ理由でも、おかしくはないと考えられる。


 しかし、自分たちでも数時間はかかる道のりを、ノドーラがイタズラをするために移動するとは思えない。


「じゃ、あの街は無関係なの?」

「それは判んないよ。この草原のドコかに攫っているモノのネグラがあるのか、ないのかを、今のボクたちでは判断出来ないからね」


 確かに攫っているモノのネグラが判れば、こんなにあっちこっちへ行く必要はなかった。

 それを発見出来ないから、トマとアークシュリラは様々な所へ行っている。

 ネグラが見つからないコトは、攫っているモノが居ないと云うことでは無い。

 ノドーラが攫われているのが事実なら、必ずどこかに攫っているモノの住み処になる拠点があるハズである。


「簡単でなくても、どういった方法で探すのが良いかなぁ」

「居そうな所を見つけても、一軒家だったら出て来るのを待っていることも出来るけど、大勢が暮らす街だと、その一軒に絞り込むことは難しいよね。もしも、領主などの人が係わっていたらお手上げだしね」


 トマとアークシュリラの二人には、領主などの人たちに会う機会や面談を申し込める権力とか理由もない。

●最後まで読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。

ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。

●今回は、トマとアークシュリラが街を出発して、ノドーラに最初に出会った場所へ戻るお話です。

街での調査はいつものようにグダグダですが、二人にはそれ程ひどいモノとは感じてなさそうですね。

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