69 犯人って
本日も読みに来て頂きありがとうございます。
二人は、アークシュリラが魔法を使って感じとった、人の気配のする場所に移動をした。
そして、目的地付近に着いたが、そこには人はおろかその痕跡や建物も無かった。
「どんだけ、ズレたのかなぁ」
「アークシュリラ。あの魔法を、もう一度やってみて?」
「そうだね。【気配のそよ風!】」
アークシュリラが再び呪文を唱えると、彼女を中心に優しい風が周囲に流れ始めた。
それが草原の中をおだやかに流れていったが、直ぐにアークシュリラが言った。
「あれっ、人の気配がどこにもないんだけど」
「あんまり早くに魔法を止めたから、反応しなかったんじゃないの?」
「確かに最終地点までは調べて無いけど、あの時間でも5キロメートル程度は流れているハズだよ」
「今度は途中で切らないで、最後までやってみてよ」
「トマがそう言うなら、もう一度やるよ。【気配のそよ風!】」
もう一度アークシュリラが呪文を唱えた。
やはり同じ様に、アークシュリラを中心としてたおやかな風が流れ始めて、それが草原の中を優しく流れていった。
少ししてからアークシュリラが言った。
「やっぱり、ナンにも反応はしないね」
「移動したって云うコトなの?」
「多分、そう」
相手が移動していたとして、同じくらいのスピードならこの魔法で捕捉出来ないハズはない。
トマとアークシュリラの二人よりナン倍ものスピードで移動しなければ、まず今回の捜索範囲から抜け出すコトは不可能と考えられた。
「じゃ、馬かなにかを使ったのかなぁ。馬での移動だと私たちが探している人と違ったのかもね」
「それでも、おかしいんだよ」
「ナニがおかしいの」
「ボクたちはずっと西へ向かって歩いてたよね」
出発に際してアークシュリラは方位磁石を取り出して方角を確認したし、たまに方位磁石を見てコースの修正もしていた。
なので、最初の地点から、ほぼ西へ進んだコトになる。
「そうなるね」
「馬は確かにボクたちよりも早いけど、駆けなければ数倍もの速度は出ないよ。だとしたら、上か下に行った以外に有り得ないんだよ」
「馬で駆けたのかもよ」
「馬だって、ボクたちが歩いていた間、ずっと駆けるコトは出来ないよ」
「確かに。ただの移動なら、馬を乗り潰す覚悟で移動する訳はないよね。でも、アークシュリラの風に僅かな魔力を感じ取って、全力で逃げたってコトは?」
「もし、そうだとしたら怪しいね。でも、どこへ行ったのかなぁ」
突然、人が消えるコトはない。
今の二人は、馬より早く移動出来る乗り物を知らないからなおさらである。
なので、地上を移動したのでないとしたら、上空か地中と考えるのも納得ができる。
「アークシュリラが言う通り、下方向だとすると地中だよね。それなら土の眷族とかが絡んでいると思うけど」
「土の眷族が関わって居るのなら、ルルピリャマーラだって教えてくれたよね」
ノードラとアティンヴェスの争いは、眷族同士の争いだとシファディーダは教えてくれた。
ルルピリャマーラだって眷族が関わっていたら、きっとそう言ってくれるだろうとアークシュリラは思った。
「そうだよね。アークシュリラの魔法は地面の下だと無理でも、上空はカバーしているんでしょ」
「一応はね。でも、水平方向と違って、上はそんなに広くはないよ」
「上空に行くには、翼がなければ鳥に乗る以外に方法は無いと思うけどね」
「そんな大きな鳥は……」
アークシュリラはそこまで言って、人が乗れるくらいの大きさがある鳥を知っているコトを思いだした。
「どうしたの?」
「ボクはなんと愚かなんだ。魔法でもボク自身の能力でもないってコトか……」
「えっ、ナニ。説明してよ」
「トマ、ルルピリャマーラがボクなら判るって言ってたよね」
「たぶん」
「今、その意味が判ったんだ」
「ナニが判ったの?」
「上空から、地上に居る人を探す方法かなぁ」
多分、ウィンデラスに頼めば、背中に乗せてはくれるだろうとアークシュリラは考えた。
「えっ。アークシュリラは、そんな魔法まで教えてもらったの?」
「魔法じゃないよ。前に説明したウィンデラスだよ」
「それって、風の眷族だったよね」
「うん。ウィンデラスは土の眷族と同じく人の形をしてなくて、その姿はとっても巨大な鳥なんだよ」
「そうだったの? それでウィンデラスに頼むの?」
「そこは、悩んでいるんだ」
アークシュリラはトマに話しながら、本当にそれでルルピリャマーラが言っていたコトに、あっているのかとも考えていた。
「ふ~ん。でも、空に逃げたなら、風の眷族と云うコトも考えられるよ。だから、アークシュリラなら判るって云ったかもね」
確かにルルピリャマーラは『風の神から加護を受けている』と言っていた。
加護ねぇ。
それにノードラを攫っているのに、『神は携わっていない』と……神々でなく神はだったのかぁ。
そうだとしたら、眷族は……
また、トマが犯人を捕まえると言ったのに、『殺すのか』と聞いていた。
自分の眷族でないから、そう言ったとしたら……
もしも犯人が風の眷族だったら、自分は倒すことが出来るだろうか。
アークシュリラは自問自答を繰り返した。
「トマ、ゴメン。少し考えがまとまらなかった。もし、風の眷族が犯人だったら、やっぱりボクには戦えないかも」
「アークシュリラは風の加護を受けているんだし、それが当然だよね。でも、翼があるモノが全て風の眷族かと言えば、違うのもいるかもね」
確かに翼があってもアビスポン、いやアティンヴェスは土の眷族である。
ドラゴンなども、その全てが一つの属性に属しているとは考えられないと結論付けて、アークシュリラが答えた。
「そっか」
もし風の眷族がノードラを攫っている犯人だとしても、眷族同士のいざこざである。
しかし、違う属性の眷族だから、些細な争いではないとアークシュリラは思った。
だから、異なる属性の眷属たちが争っているので『助けてやれ』とルルピリャマーラは自分たちに言わないで、『助けるのも助けないのも自由だ』と語ったのかも知れない。
もしそうならば、自分たちが携わって良い案件ではないとも考えている。
ヘルタフには悪いと云う気持ちはあるモノの、このまま捜索をやめても良いのではないかとさえ思えてくる。
いくら風の神による加護を受けているとはいえ、アークシュリラは地上で見聞きしたコトについての報告の義務はない。
それに、ウィンデラスからも、そんなコトは頼まれてもいない。
●最後まで読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。
ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。
●今回は、トマとアークシュリラの二人が目的の場所へ着いてからのお話です。
私に文章の才能が無いために公開したものでも、二人の心情が上手く表現出来ていませんね。
何度も書き直して、ようやくこの形になりました。
本当に、コンスタントに公開している他の作者さまはスゴいですね。




