表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/109

60 ナニかを踏んだ

本日も読みに来て頂き、誠にありがとうございます。

 トマとアークシュリラは山へ向けて歩いていたが、街道を通るとどうしても目的地から遠のくコースになることがある。

 それが何度も続くと、急いでいる訳ではなくても煩わしく感じた。

 そこで二人は、目指す山へ真っ直ぐに草原を横切って歩いていた。


 しばらく草原を歩いていると、トマは石でない柔らかいモノを踏んだ感触が足に伝わってきた。

 どうせまた動物のフンでも踏んだのだろうと考えて、自分の足下を確認した。


 またかと、アークシュリラは歩く速度を少し緩めた。

 動物のフンを踏むことはナニもトマの専売特許ではなく、アークシュリラだって踏むことはあった。

 さすがに街道上に落ちているものを踏むコトはないが、草原を歩いているといくら慎重に歩いていても、小さなフンだと草の影になっていて見えない場合が往々にしてあったからである。


 と言っても、草原の至る所がフンだらけと云うコトではないから、野宿をするときや腰を下ろす場合などは少しばかりの注意を払えば平気だった。

 それに魔物だって自分たちのテリトリーがあるから、わざわざ人間の匂いがする処で排泄などはしない。


 トマが足をどけると、そこには見られないナニかが潰れていた。

 その物体は、ナニかをすり潰したみたいだった。

 他に同じようなモノがないか周りを見てみると、もう一つナニかの球体があるのを見つけた。


「アークシュリラ。これってナンだろう」


 トマが足の裏を見てから聞いてきたってコトは、ナニかを踏んだのだろうと思うがフンだったらわざわざ言ってこない。

 もしかしたら珍しいフンかもと言う考えが一瞬よぎったが、冷静になればフンはフンでしかない。

 それが、一般的な色や形と違っていてもだ。


 アークシュリラは少し先に進んでいたので、トマの所へ戻って尋ねた。


「どれ?」

「この丸いヤツ」


 アークシュリラはそれを一瞥すると、トマに向かって言った。


「この大きさから言って、ヴェスペが作る肉だんごだと思うよ」


 ヴェスペは、スズメバチが魔物になったモノである。

 そいつらは仕留めた獲物を捕まえてそのまま巣に持ち帰る場合と、それをいったん大あごで砕いてミンチ状にしてから、だんごにまとめて持ち帰る場合があった。


「て、ことは……近くにヴェスペがいるってコト?」

「近くかは判らないけども、ここいらがヤツらの狩猟区域だと云うコトだね」

「折角作ったのに、落としたのかなぁ」


 ヴェスペがエサを肉だんごにしたら、落とすコトはほぼないと知っているアークシュリラは、ヴェスペがナニモノかにやられた可能性が高いと考えて言った。


「トマ。ヴェスペの死骸がないか探そう」

「この場所でヴェスペを探すの? そんなのは無理だよ」

「いや、ここから2メートルの範囲だけで良いからさぁ」

「あっ、そうだね。ヴェスペの飛行速度と高度だったらそのくらいだね」


 トマは、ヴェスペが普通の状態で飛行するスピードや高さなどを知っていた。

 それは、ヴェスペ相手に魔法の練習――いや、各所からの依頼でヴェスペ退治をしていた過去があったからである。

 退治をしているウチに、当然のことヴェスペも本気の戦闘モードに入ってくる。

 その場合には通常でない高さで飛行してから襲って来るし、スピードも速くなっていた。

 トマは、それも体験により把握していた。


 二人は今いる所からトマは右廻りに、そしてアークシュリラは左廻りにヴェスペの死骸を探し始めた。

「無いね」

「こっちも無いよ」

 二人は半周して反対側に着いた。

 しかし、それらしいモノはなかったので、少し内側にズレて再びヴェスペの死骸をさがした。


「あったよ。アークシュリラ」

「何匹?」

「2匹だと思うよ」


 アークシュリラはトマの居る処へやって来た。


「どこ?」

「これだよ。目らしきモノが3つあるから……」

「確かに目が3つあるね。良く見つけたじゃん」


 アークシュリラはそう言うと、アイテム袋から虫めがねを取り出して、トマが見つけたモノを調べだした。

 ナニかに咬み千切られた痕のある、ヴェスペの粉々になった頭部の残骸だった。


「この2つのだんごを、落としたモノかなぁ」

「多分ね。そうするとコイツらが肉だんごを運んでいる時に、ナニモノかに襲われたってコトになるね」


 ヴェスペの他に獲物を肉だんご状にする魔物を、今の二人は知らないからその結論に達した。


「アークシュリラ、ヴェスペを食べる魔物って……」

「鳥が一番多いけど、鳥ならこんな残骸は残らないよ。ヴェスペを一口に食べられない大きさと、この咬みちぎりかただとすると……」


 アークシュリラがここまで言って、トマが割り込んできた。


「それって、ジャイアントヴェスペってことはないよね」

「ジャイアントヴェスペね。その可能性は大いにあるね。今はナニかが判らないからジャイアントヴェスペとして話そう」

「そうだね。その方が良いよね」


 互いが違う生き物を想定していては、話がうまく進展しない。

 ヴェスペを襲ったのがジャイアントヴェスペでないかも知れないけど、最悪の状態を仮定していた方が、襲ったモノの正体が判明して違っていても方針変更はし易い。


 ジャイアントヴェスペはヴェスペより大きいし、なんせ食欲旺盛なのでエサがなければ仲間でも食べる。

 当然、ヴェスペだって捕食する。

 それに獲物を喰いちぎる大あごを持っているから、条件にピッタリとあてはまる。


「ヴェスペなら出会っても仕方ないけど、ジャイアントヴェスペには会いたくないよ」


 ジャイアントヴェスペはジャイアントと名が付くが、それ程巨大な魔物ではない。

 スズメバチを、そのまま1メートルくらいの大きさにした程度である。

 躰が大きく成ったコトにより確かに攻撃を与えやすくなったが、飛行速度は落ちるどころか格段に向上しているし、躰を覆う外骨格は頑強になっているから厄介であった。


 しかし、いくらジャイアントと言っても所詮は蜂であるから、一匹で暮らしている訳ではなく集団で暮らしている。


「ボクもそうだよ。ここいらには木が無いから、巣は地中だね」


 木があれば巣をそこに作るが、近くに木が無ければ洞窟を活用したり、地面に穴を掘ったりして巣を作る。

 なので、ナニもないこの草原では、十中八九の確率で地面に穴を掘って巣にしている。


 その場合の巣は、蟻塚の様に目立つ造りではない。

 更に巣穴自体はカモフラージュがされていないモノの、簡単に見つけられない感じに作られている。


●最後まで読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。

ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。

●今回は、トマがナニかを踏んでアークシュリラと相談するお話です。

本当にジャイアントヴェスペがいるのか、違う魔物なのかなぁ。

しかし、こんだけ書いて違う魔物ってことは無いだろうけど……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ