59 フヴァスから山へ
本日も読みに来て頂いてありがとうございます。
二人はフヴァスを後にして、山へ向けて歩いている。
「アークシュリラ。もし私たちがイデェネルの誘いを断らずに、フヴァスに行ってたら状況は変わっていたのかなぁ」
「決まっているなら、変わらないと思うよ」
トマはアークシュリラの答えが、自分の思っていた内容と違ったので聞いた。
「一緒に村まで行くんだよ。村には無事に着くと私は思うけど」
「そうだね。ナニも起こらなければ村へ着くけど、イデェネルと別れないといけない事件が必ず起こったとボクは思うけどね」
アークシュリラの話は、占星術師や預言者などが扱う運命論のような気がトマにはした。
「それじゃ、私たちの旅も決まってるの?」
「ボクたちのは、決まってないと思うよ。イデェネルは過去に魔物……ボクたちがアズールミルパーツと考えているけど……それによって死んだんだよ。それを今のボクたちが無かったコトにしたら大変だよ」
「そう云うこと。私たちがもし村に着いたとしても、その過去は変えられないってコトなの」
「そう」
過去に起こったコトは変えられないかぁ……いや、魔法なら変えられるんではとトマは思った。
壊れた道具を元に戻す復元など、いくつかの魔法がある。
それは、壊れたことを無かったコトにしているのではないかと。
「じゃ、復元の魔法で壊れる前の状態にするのは」
「トマはその魔法で壊れたことを無かったコトに出来るなら、それと同じでイデェネルの死も、蘇生で無かったコトに出来ると考えたんだね」
「そうだけど」
「じゃトマに聞くけど、魔法で全てが無かったコトに出来るのなら、あの人たちはナゼ発掘調査なんて面倒くさいコトをしてるんだろうね。それらの魔法をかければ、一瞬で復旧するのにね」
「あっ」
確かにアークシュリラの言う通り、長い年月が経つと元の状態に戻らない場合がある。
それは蘇生の魔法でも同じで、長くても死後数年が限界であった。
地中から掘り出された化石のようなモノとか、ミイラ化したモノを生き返らせるのは不可能と云われている。
その上、月日が経つと消費する魔力も加速度的に増えるから、もし、生き返らせられても現実的ではないコトくらいはトマにも判った。
それにあの現場はどこかの国か巨大な組織が絡んで居るらしく、かなりのレベルの魔法使いが不測の事態を避けるために何人も配置されていた。
「判ったみたいだね。魔法だって過去……年月が経ったら影響は及ぼせないんだよ。もし、イデェネルが神の意志で、ボクたちの前に現れたんじゃなければね」
「じゃ、イデェネルが現れたのは神の意志だったら」
「その場合は変わると思うよ。しかし、必ず助かる訳では無いから、同じ様になるかも知れないけどね」
もし、光や闇に属する神々が滅亡したモノを復活させるつもりだったら、それは可能かも知れない。
だが、それらに係わる他の神たちは、黙っていないだろうが……
例えば魂の浄化が済んで新たな命として誕生させたのを、元の状態にするコトは簡単には認められないコトくらいは判る。
それを認めたなら、新たに誕生したモノの魂が旧来の体に戻るから、その人は突然消えるか、死ぬコトを意味する。
イデェネルの国が滅んだのは太古の時代で、数年前では決してない。
あらゆる魂は新たな生き物に生まれ変わっているハズである。
そんな人々を救うということがいかに難しいか判るし、さすがに出来るとも思えない。
ついでに記すと、まだこの時代では時を支配する神は一般的ではない。
なので、時間を操って過去や未来を変える魔法は誰も研究していないし、されてもいなかった。
それでも時の神の中で吟遊詩人などに過去にあった出来事を伝えたり、占い師らに未来に起こる現象を見せたりする神は存在する。
それらの神々を祀って居る人も、確かに存在はした。
それらの時の神は確かに時間を行き来するコトは出来たモノの、修正や改変の作業は一人では出来なかった。
「もし、イデェネルが助けて欲しくて、私たちの前に現れたんだったら?」
「それだったら、死や生命の神々にボクたちがお願いするとか、イデェネル自身でも良いけど、しないとダメじゃないかなぁ。さっきも言ったけど、イデェネルが死ぬコトとフヴァスが滅びるコトは既に決まってるんだから」
「神様にお願いすれば助かるの?」
「多分、イデェネルは自分だけ助かっても嬉しくは無いと思うから、フヴァスが滅びない……今もあの土地には建物が建っていないから、滅亡しない方法を探せばナンとかなったかもね」
「難しいね。火と風の神様なら私たちは会ったコトがあるけど、今まで祈りを捧げたコトのない神様にそんなお願いをするのって……」
何年もお祈りを捧げていて、たまに簡単なお願いを聞いて貰っていたり、神託を授かってそれを実行したりしてれば、話すことくらいはできる。
それが祈りを捧げたコトのない神様に、初めて、それも簡単でないお願いをするのだから、聞いてもらえる確率は限りなくゼロだろう。
アークシュリラは、トマには決まっているから不可能と言っているが、出来るコトならイデェネルにまた会いたいと思っていた。
しかし、様々な条件を付加したり減らしたりして幾度となく考えてみても、それが無理だと言う結論に達してしまった。
トマは、アークシュリラが一番イデェネルに会いたいハズと思ったから、軽い気持ちで尋ねたのだった。
それをここまで理路整然――イヤ、かたくなに話しているのは、色々と思考を巡らした結果だと思い至った。
ならば自分がいつまでもイデェネルの話をするのは、アークシュリラに対して悪いと考えてこの話をするのを止めた。
●最後まで読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。
ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。
●今回は、トマとアークシュリラの二人がフヴァスから山へ向かう道中のお話です。
生死とか興亡の話をあんまり長々と書くと違う物語になってしまうのでこのくらいにしました。
実際は、フヴァスの歴史やイデェネルの治世とか生死の神々のことなど、この数倍以上の内容がありました。
それらは全て今回はカットですね。
フヴァスやイデェネルは書くコトが無いと思いますが、生死の神々の話は今後の展開で入れるかもしれませんね。
ちょっと書いた時の神もね。
あまり細々描くと、剣と魔法で無く神々の話になってしまうしなぁ。。。




