表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/106

55 どうしてなんだろう

今回も読みに来て頂きありがとうございます。

 陽は地平線に隠れようとしだして、もうしばらくすると空には月が昇り始める。

 一日が終わろうとしている。

 二人は道から草原に入って、野宿をする場所を探し始めた。


「アークシュリラ。止まって」

「えっ、ナニ?」

「アークシュリラには見えないの?」

「魔物?」

「違うよ。魔物じゃなくて、あすこに咲いている花が」


 トマは腕を上げて、草原の一角を指し示した。

 少し遠方に黄色い花が幾つも咲いている。


「あの黄色いの?」

「そう、あれは眠り草だと思うよ」

「眠り草? 咲いていても平気なの」


 眠り草は花粉を飛ばしたり匂いを撒いたりして、周囲にいる生き物たちを眠らせる訳ではない。

 ただ花が咲いた後に出来る実や根を食べると、寿命まで眠ってしまうだけである。

 なので街の中で咲いていたとしても、見た目が綺麗なコトもあり駆除の対象になってはいない。

 一部の薬草師(ハーバリスト)は根や茎などを煮詰めて眠らせる薬を作っているが、まだその利用方法は一般的でない。

 その眠らせる薬の効能は寿命まで眠らせるのではなく、成分を調整して数時間程度の眠りを誘うモノであるけど……


「花が咲いていても危険ではないけど、夜に咲くのは珍しいなって思ってね」


 眠り草は日没近くになると花を閉じ、日の出と共に花を再び開く。

 それが月明かりの差す頃だと云うのに、たくさん咲いている。


「まだ、つぼんでいないだけじゃないの」

「陽が傾きだすと花を閉じ出すから、普通なら夕方にはほとんど咲いてないよ」

「じゃ、近寄って調べようか。違う花ってコトもあるしね」

「そうだよね。ここで議論をしていても、原因は解んないし」


 トマとアークシュリラは、黄色い花が咲く処へとやって来た。


 トマが花びらや葉っぱを調べている。


「どう?」

 アークシュリラはこれが眠り草だと云う知識を持ち合わせていないので、トマと同じ様に花びらや葉っぱを観察していたが判らずに尋ねた。


「うん、眠り草だね。花びらを支えているがくに青っぽい筋があるし、子房の形がこの様に尖っているからね」


 アークシュリラはトマの説明を聞いてから、再び自分で花を良く観察した。


「確かにトマが云う感じだね。じゃ、ナンで花を閉じなかったんだろう」

「それは判んないよ。気温とかの影響かも……」


 二人は咲いている花が眠り草と云うことは判ったが、ナゼ夜になっても咲いているかまでは説明が出来ずにいた。

 目がない花が花びらを開くのは、気温や日光など様々な要因が複雑に影響している。


「この花って、種から咲くんだよね」

「うん。実の中に種が出来るから、それから咲くよ」


 アークシュリラはウィンデラスから授かった情報の中に、花に関するモノがあったコトを思い出した。


「そういえば、フリラスって神が花を咲かすよ」

「フリラス?」

「風の神の仲間だよ」


 トマも火の神々の中で、花の成育に影響を与える神様が居るコトは知っている。

 それを言わなかったのは、神様がわざわざこの場所に眠り草の花を咲かす意味の説明が出来なかったからである。

 なので、そのコトをアークシュリラに質問をした。


「その神様が、夜に眠り草の花を咲かせる意味は?」

「理由なんかボクには判んないよ。なんせ神様だからね」


 確かに神々がやるコトは、人智を超える場合が多い。

 それはあらゆる生き物たちは自分が基準であって、全世界や宇宙全体のコトを考えていないのだから仕方がない。

 例えば自分たちが暮らす大陸が沈めば潮の流れが変わると分かっていても、それを行うモノはまずいない。また、これ程大きなコトで無くても、自分たちが不幸になる選択肢は最初から除外している。


「理由はないの?」

「なんとなくだよ。トマだってたくさんある魔法の中から、理由を考えてこれを使おうってしてないでしょ」

「確かに……」


 トマの返事から納得をしていない感じを読み取ったアークシュリラは、トマに言った。


「なんなら、土や花自体に魔力がないか調べてみたら、人為的に咲かせるなんて魔法以外有り得ないよ」

「そうだね」


 トマは花や土などに掌を添えて、残っている魔力を探った。

 あれ? 全く魔力を感じない。


 花なので咲かせる魔法を使えば、そんなに時間が経っていないハズなのだから初心者の魔法使いだって感じ取るコトが出来る。

 それが感じられないって云うことは、これらは自然に咲いている状態を意味する。


 トマが何度も魔力を確かめているのを見て、アークシュリラが聞いた。


「どう。魔力を感じたでしょ」

「イヤ。それが、全く魔力を感じないんだよ」

「それじゃ。自然に咲いているの?」

「そう云うことになるね」

 魔法以外の方法である可能性は否定できないが、そんな便利な方法はトマの知識にはなかったからそう返事をした。


「だったら気にしなくても大丈夫だね」

「そうだよね」


 トマとアークシュリラは時間が少し遅くなったが、眠り草が咲いている場所から離れた所で野宿するために火を熾した。

 そしてアイテム袋から肉を取り出して、焼き始めた。


 焚き火に焼べられた骨付きの肉がその炎に炙られて焼けていき、次第に肉汁が滲んできた。

 たまに、それがタキギに落ちて良い香りを周囲に漂わせる。


 トマが未だに眠り草のコトを気にしていると思って、アークシュリラは別の話を振った。


「フヴァスに明後日には着くかなぁ」

「どうだろうね」


 二人の歩く速度は決して遅くはない。

 それでも人に聞きながら進んでいるので、黙々と歩く場合よりかは進んだ距離は短くなっている。


「急に行ったら驚くかなぁ」

「イデェネルが村に居れば、驚くだろうね」

「そうか、イデェネルがどっかに行っているコトもあるよね」

「着いて、もしイデェネルがどこかに行っていたら待つの?」

「日数によるかなぁ。短ければ会いたいけど、長かったら言付けをお願いするよ」

「それは仕方がないよね。村って言ってたから宿屋がないかも知れないからね」


 イデェネルが村で消費する食べ物を確保するために、狩りに出掛けている可能性はある。

 それでもいつ帰って来ると分かれば、宿屋が無くても野宿をして待つことは出来る。

 しかし、日数が分からなかったり長期だったりしたら、宿屋が有ったとしても待つことは難しい。


「トマはフヴァスって、どんな処だと思う」

「小さな村だと思うよ。私たちのファリチスにだって鍛冶屋があって剣とか日常使いの刃物を作っていたけど、フヴァスにはないと思うから」

「確かに、イデェネルが剣をあの街で買ったと言ってたから無いかもね。でも包丁や鎌とかの日常使いの刃物くらいは村で作ってるかもよ」

●最後まで読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。

ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。

●今回は、トマとアークシュリラが変な花(眠り草)を見つけて悩むお話です。

何故、日中にしか咲かない花が咲いているのでしょうか。

魔法ではないし、神力でもなさそうですが……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ