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52 トマとアシュミコルの話し合い

読みに来て頂きありがとうございます。

二話に分けるほどの分量がなかったので、今回は少し長めです。

 ナニもない空間に居るトマは、アシュミコルと名乗る声に語り掛けた。


「この空間ってあの世ではないのですね。本当に私は死んで無いのですか?」

「そうじゃ」

 そう答える声がすると、突然まばゆい炎が空中に発生した。

 その炎は次第に収斂していき、ナニかの形になっていく。

 やがて光が消え失せて、炎があった所に一つの人が現れた。


 突然起こった出来事だったので、トマはとても驚きもした。

 しかし、声が名乗ったアシュミコルと云う名に聞き覚えがあった。

 それで、どこでその名前を聞いたかを懸命になって考え込んでいたから、発生した炎に対してはナンらリアクションをとらずにいた。


 自分が今も持っている杖をくれた人が、火の神アシュミコルにと言っていたコトをようやく思い出した。


「もしかしたら、この杖をくれた人の主人の方ですか」


 アシュミコルはトマの発言にいくつもの疑問符が現れたが、ウィンデールが杖などを渡す際にナニか言ったんだと考えて、あえてそのコトにふれずにいた。


「そうじゃ。その杖を少し変えさせてもらうためと、お主に聞きたいことがあったから儂の管理する空間に連れてきた」

「そうですか」


 今まで自分では強力な魔法を放っても一切の手応えがなかったから、トマはこの場所から脱出するには言うことを聞くしかないと諦めて素直にアシュミコルの言葉に応じるコトにした。


 この杖を変えるなら私の近くにあるより、アシュミコルに近づけた方が良いのかなと考えて、ゆっくりと錫杖を握る腕を前に差し出した。


「素直で結構」

 アシュミコルはそう言うと、トマの握っていた錫杖の遊鐶をサラステーヴァから渡された蛇の形のモノに変えた。

 元々、杖をくれた人だったコトも影響しているが、今、目の前で行われたその様子を見ていたトマは、アシュミコルが敵ではないと判断をした。


 トマはおもむろに腕を引いて、錫杖の変わった遊鐶を手で触ってから言った。


「今までの装飾がないモノより、ナンか可愛いですね。それに本当に生きているみたいにリアルですね」


 アシュミコルとしては、遊鐶を褒められるのは全く嬉しくない。

 まして自分が渡した装飾のないモノが、不出来だとけなされているとさえ感じた。

 なので、トマの口調が急に馴れ馴れしくなったことを気にするコトはしなかった。

 それよりも、蛇が火の神に関係するのなどと聞かれることを防ぐために、この話題をあえて発展させるコトもしたくはなかった。

 なので、アシュミコルは次の話題に話を持っていく。


「そうか。それでワシのくれてやった杖を、未だに使いこなしていないのはナゼだ」

「ちゃんと毎朝、魔力を溜めてますよ」

「違う、それに魔力など溜めなくても良い。そんなコトをしても、放つ魔法にはなんら影響はない」

「どういうコトなの?」


 そこで、アシュミコルは根本的な杖の使い方を伝授した。


「杖に溜めている魔力をお主の体に戻すので、戻りきったと感じたら試しに何か放ってみろ」


 杖から魔力が戻って来る感覚は初めてだが、毎朝やっていたコトの逆なのでトマにもそれを把握するコトは出来た。

 空になったのかなぁ、もう戻って来ないね。

氷針アイスニードル!】


 確かに杖に魔力が溜まってなくても、ナンの問題はなく魔法を撃てた。


 この世界で魔法を発動する場合、通常は長い詠唱を必要とする。

 しかし、毎回それを行うのはさすがに手間であるし、そんなコトをしていたら緊急時などは対応が遅れる。

 それで、一般的な魔法使いは事前に杖へ魔力を貯めておいて、呪文名を言えば魔法を放てる様にしているのだった。


「どうだ」

「本当に、魔力を貯めなくて良いの?」

「先ほど教えたが、そうじゃ。杖自身が自然界に存在する魔力を、いつも吸収していると考えて大丈夫だ」

「魔力切れは、起こらないってコト?」

「普通であれば起こらん」

「それじゃ、無限に放てるの?」

「そうだ。しかし、自分が使える魔法だけだがな」


 トマはアシュミコルが言った、自分が使えると言う箇所に引っかかるモノを感じて質問をした。


「私は今まで使えなかった蘇生(リザレクション)の魔法が体に戻って来たように感じたけど、それも杖のおかげなの」

「杖自体が魔法を覚えるコトはない。お主がどのレベルの魔法を使えるかは、儂にも判らんが一つ言えることは、杖の力によってお主の潜在能力が開花したと言うコトかもな」


 トマはそのコトをもっと詳しく聞きたかったが、アシュミコルから詳細を語りたくない雰囲気を感じ取って諦めた。

 アシュミコルの方も蘇生(リザレクション)の魔法などと云う、光や闇に属する魔法についてレクチャーする気持ちは持ち合わせていなかった。


「そうなんだ。判ったよ」

「それと、お主は物理的な攻撃手段を持たぬようだが、今のままだとアークシュリラに敵わなくなるぞ」

「アークシュリラと戦うコトはないから、そこは平気だよ」

「ナゼ言い切れる。好むと好まざるに係わらず戦うコトはある」

「そうかなぁ」


 トマには万が一にでも、アークシュリラと戦う状況を想像出来ずにいた。

 なので、アシュミコルの云う戦うコトがトマには理解できなかった。


「なら言い方を変えよう。アークシュリラが倒れてお主だけが残った場合に、敵がもし魔法で倒せないモノだったらどうする」


 トマにはアークシュリラが倒されるコトも想像が出来なかったし、そんな相手なら自分がいくら武器を持ったとしても、どうにもならないと思えて仕方なかった。


「その場合は諦めるよ。アークシュリラが敵わない相手じゃ、どう転んでも私じゃ勝てないからね」

「そうか、残念だ」


 アシュミコルはそう言うと、姿が徐々に薄くなっていきだした。

 このままアシュミコルに消えられたらダメだと云う直感が、トマに警告をだした。

 勝てなくても武器だけは貰っておけば、アークシュリラを連れて逃げるコトは出来るかも知れない。


「待って! 私が間違ってたよ。武器を下さい」


 トマがその言葉を発した途端に、錫杖から炎が熾って勢い良く燃えだした。

 トマはとっさに錫杖を放り投げたが、今度はトマが居る周囲にも炎が湧き上がって来た。


湧水(クベールヴァサー)!】

 トマは自身に魔法を掛けてずぶ濡れになりながら、炎が来ないようにして鎮火を試みた。


 それを見たアシュミコルが、炎を消してから言った。


「お主は、火の魔法は使わないのか? 今の場合だと逆火(レトゥールフラーム)とかだな」

「私は火より水の方が相性が良いから、滅多に使わないよ」


 その答えを聞いてトマが火の属性ではなく、本当は水の神に気に入られているのではとアシュミコルは思った。


 水の神の加護を受けているなら、噴火により発生した火がやって来なかったのも納得がいく。

 しかし、ここまで係わっておいて、火でないから杖などを返せとは口が裂けても言えない。

 それを水の神サラステーヴァが知ることになれば、甲斐性なしとか度量が狭いなどとなじられかねない。


「分かった。あいにくワシは火の神であるから、お主が欲しているモノを授けるために炎を熾す必要がある。今度は火を消さぬゆえ、ここに水を撒くでないぞ」

「それって安全なの」

「危険はないから、安心しろ」


 再度、錫杖が燃えだして、トマが居る周囲にも炎が湧き上がって来た。

 そして、トマの全身が炎に包まれていく。

 最初こそ半信半疑だったので随分とビクついたモノの、火傷を負うどころかトマは自分が自分でない様な感覚に次第になってきた。


 その炎がトマの体を包んでいる間に、防いでも防ぎきれない様々な知識や情報が流れ込んで来る。

 そしてトマを包んでいた炎は穏やかに消えていき、トマの手にしていた錫杖が弓に変わっていた。


「今、手にしているモノは、お主が武器になれと念じればその形態になる。元に戻すのも同じだ。それと長さも変えられるが、錫杖だと長くても30メートルくらいが限界だろうな」

「試しに使ってみろ」

「矢は?」

 トマはさも当然と云う感じで、アシュミコルに問うた。


「仕方ない。今回だけは矢もサービスとして、10本を与える。それと矢筒もだ。不足分は自分で購入するんだな」


 トマが矢筒から矢を一本取って、弓の弦に矢をつがえてから引き絞った。

 ナニもない空間なので目標はドコにもないが、もう引くのが限界と思いトマが矢から指を離すと、弦が勢い良く元に戻っていった。

 そして、矢を勢いよく射出した。

 その矢は、随分と遠くまで真っ直ぐに飛んでいく。


「ほう、弓を扱えるのだな」

「使ったコトはないよ。前に見たコトがあるだけ」

「まぁ、良い。弓も好みの長さになるから、自分に合った長さを見つけるのだな」

「この弦は切れるコトもあるの?」

「弓が折れたり、弦が切れたりするコトもある。しかし、火に焼べれば元に戻る。錫杖でもそうだ」

「判った。ありがとう」

 トマの言葉を聞き終わると、アシュミコルは消えていった。


●最後まで読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。

ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。

●今回は、トマとアシュミコルが話し合うお話です。

トマが弓を入手しました。

次回はアークシュリラの話になります。

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